ニュースのウラカタ#38「クラベル」

オピニオン室

ニュースのウラカタ#38「クラベル」
ニュースで取り上げる物事の価値(意味)を伝えるため、頻繁に用いるのが「比較」です。何かと客観的に比べることで、視聴者に納得感をもってもらえます。

最近よく見聞きする簡単な例を挙げると、
「今日のコロナ陽性者は33人で、昨日と比べ3人少ない」
「今週のガソリンの小売価格は171円で、先週と比べて3円高い」
絶対値だけでなく比較することで増減や傾向が分かり、視聴者のこれからの行動の参考になります。ただし、比較する”相手”はとても重要です。ニュースのウラカタには、正しい相手選びと、相手の素性を明確にすることが求められます。

先日、ニュースCH.4特集の、記者が書いた原稿(元原=モトゲン)にこんな下りがありました。

「生産量は減り続け、昨年度はおよそ3200キロと、以前の半分以下に落ち込んでいます」

比較することで、生産量が落ち込んでいることを強調しているように見えますが、雰囲気だけしか伝えられていません。比べる相手の素性が曖昧だからです。この場合の相手は「以前」ですが、「以前」が曖昧過ぎるのです。100年前ですか?10年前ですか?いつのことですか?私ではありませんが、デスクは次のようにリライトしていました。

「生産量は減り続け、昨年度はおよそ3200キロと、大量死以前の半分以下に落ち込んでいます」

”大量死”が入っただけですが、相手の素性が明確になりました。宇和海のアコヤ貝(真珠母貝)をテーマに、3年前から続く「大量死」への対策を取り上げた特集です。前段で大量死については詳細が説明されています。従って、視聴者は比べる相手を「3年前に大量死が起きる前の生産量」と特定することができ、納得感を持って生産量が半分以下に落ち込んだことを飲み込めるというわけです。

たまたま昨日私がリライトした原稿でも、比較によって様々な情報が客観的に評価できる部分がありました。県立とべ動物園の入園者が1900万人に到達したというニュースです。
↓↓CH.4公式YouTubeチャンネル↓↓

「開園初年度(1988年度=前段で触れています)は100万人以上が訪れ、その後も年間40万人から70万人台の入園者数を誇る県内屈指の観光スポットとなっています。昨年度は、コロナの影響で入園者数が過去最低になりましたが、今年度は、1日の平均入園者数が、コロナ直前の年の1.4倍となっていて、賑わいを取り戻しています」

①34年間で1900万人に達したこと(計算すれば…年平均56万人ということ)
②最初は100万人で、減ったとはいえ年間40万人以上が訪れていること
③1日の平均入園者数がコロナ前の年よりも多くなっていること

比較対象を明確にすることで、絶対値だけでは理解しづらい数の意味がわかります。とべ動物園が長きに渡り県内屈指の観光スポットであることと、コロナが落ち着いて、逆にコロナ前よりも活気づいていることが、客観的なデータを基に読み取れるのです。

他にも比較にはこんな注意点があります、野菜や果物の生産量の場合、単純に前の年と比べたのではアンフェアです。表年と裏年があるからです。「同じ表年だった一昨年と比べると…」が正解です。比較相手の素性を明確にすべき例はたくさんあります。コロナでよく見聞きするようになった「先週の同じ曜日と比べて…」は、曜日によって感染状況の傾向に差があるからです。また例えば「1980年と比べて…」は、「統計の残る最も古い1980年と比べて…」、もしくは「最盛期の1980年と比べて…」とすることで、1980年の意味を明確にします。徹底的に相手の素性を明確にすることこそ、比較する上で最も重要な手順なのです。

最後に「平年」と「例年」について。違いを理解してニュースをみると理解度が深まります。
「今年は平年より3日早い梅雨入りとなりました」
「平年」はデータに基づく明確な数値がある場合に使います。一方「例年」は…
「例年どおり、おいしいスイカになりました」「例年より少し早めの収穫です」
おわかりのように「例年」はアバウトです。確固たる数値の根拠があるわけではありませんが、感覚的に”いつもはだいたいこうだよね”という基準みたいなものです。ニュース番組でも稀に誤用している場合があるのでご注意ください。

 

記者プロフィール
この記事を書いた人
宇都宮宏明

西予市宇和町出身、1996年 南海放送入社後、主にテレビ番組制作部門。
「もぎたてテレビ」のディレクター・プロデューサーなど担当。
2018年~「ニュースCH4」デスク(自称”世界で一番優しいニュースデスク”)。

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