ニュースのウラカタ#32「ナレとリズムとオンカンと」

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ニュースのウラカタ#32「ナレとリズムとオンカンと」
ナレーションを書くとき、リズムと音感を大切にしています。特にリードのVTRふりは、耳心地のよい調子と音の響きになるよう心がけています。

例えば…
「今日は柑橘王国愛媛のすごさに注目します。キーワードは‟ミカン・ポンカン・巣ごもり”」→VTR

「キーワードは」以下がVTRふりのナレです。リズムと音感が良くありません。そこで…

「今日は柑橘王国愛媛のすごさに注目します。キーワードは‟ミカン・ポンカン・家時間”」→VTR

ポイントは2つ。①七五調と②韻です。

①はリズム。七五調でも五七調でも、七を分解して三四または四三でもいいのですが、五七五七七の和歌や五七五の俳句文化を持つ日本人には、耳心地がいいと感じています。そこで例文では、「巣ごもり」=4音を、同じような意味の「家時間」=5音の変更して、全体として七五調になるようにしました。「おうち時間」とした方が言葉としては気が利いていて「巣ごもり」との置き換えはぴったりなのですが、残念ながら「おうち時間」=6音なので「家時間」を採用しました。

②は音感です。和歌や俳句などに登場するある音を繰り返し使う技法です。例文では「カン」という音を繰り返しました。百人一首では、柿本人麻呂が詠んだ「あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む」。心地よいですね。個人的には、2の平方根の覚え方「ひとよひとよにひとみごろ」は「ヒト」という音を3回繰り返した上、七五調という、リズムと音感を兼ね備えたスーパーフレーズだと思っています。

ところで、私は和歌にも俳句にも学校の教科書以外ではほぼ触れたことがありません。しかし、七五調は体得している自覚があります。なぜだろうと考えてみると、ひとつだけ思い当たる節がありました。

それが「宇和町かるた」です。

昭和54年、私が6歳のときに誕生した「宇和町かるた」が、私が書くナレーションのルーツなのです。箱にはこう記されています。「わたくしたちは、この誇り得る文化の町をよく理解し、ふるさと宇和町をより一層高めて行かねばなりません。このかるたは、宇和町に住む者が、また宇和町を離れた者が、この町に心を寄せるよすがとして作ったものです」

当時宇和町の子どもは全員、小学校に入学するとき「宇和町かるた」をもらいました(購入したのかもしれませんが)。私は40年以上経った今でも、そのときの「宇和町かるた」を大切に職場に置いています。たまに机に並べたりします。







文は町民から募集し、絵は当時の宇和中学校の生徒が描いたそうです。宇和町の風土や名所・旧跡、文化、特産の味などが紹介されています。毎年冬には各小学校で校内かるた大会(4年生以上出場)が開かれ、成績優秀者が町内かるた大会に進みます。優勝すれば、その年の宇和町かるたチャンピオンの称号が手に入るのです。学年は関係なく4年生~6年生の中からチャンピオンはたった1人です。そのため、宇和の子どもたちは日々練習に励みます。相当練習を積むため、みんな文を暗記していました。私も全て暗記していましたし、実は今でも全部言えます。南海放送に宇和町の小学校に通っていた40代の社員がいるので聞いてみたところ、彼も今でも全部覚えているとのことでした。

私は校内大会を勝ち抜いたことがなく、町内大会に出場経験もありませんが、あこがれの存在がいました。初出場の4年生のとき上級生を相手に宇和を制し、以降6年生まで3連覇したレジェンド。岩城小に通っていた私と同学年の男の子です。その時は名前しか知りませんでしたが、宇和中で知り合い、高校では同じクラスになるなど仲良くさせてもらいました。彼は「この誇り得る文化の町をよく理解し、ふるさと宇和町をより一層高めて行かねばなりません」という先人たちの思いに共感したのでしょう、大学卒業後、宇和町役場に就職しました。今も宇和町(近隣自治体と合併して西予市になりました)を高めることに邁進していることと思います。マサくん、お元気ですか?

記者プロフィール
この記事を書いた人
宇都宮宏明

西予市宇和町出身、1996年 南海放送入社後、主にテレビ番組制作部門。
「もぎたてテレビ」のディレクター・プロデューサーなど担当。
2018年~「ニュースCH4」デスク(自称”世界で一番優しいニュースデスク”)。

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