高校野球「球数制限」導入について考えるの続きです。
県内で最も球数問題がクローズアップされたのは2013年済美・安楽智大投手(現・楽天)のセンバツ甲子園。後にアメリカのスポーツ専門チャンネルを巻き込み大論争となった安楽の「772球」だろう。
初出場初優勝以来9年ぶり2度目のセンバツ出場を果たしたこの年の済美は全国的に注目を集めていた訳ではない。ところが、済美の2年生エース安楽が初戦(2回戦)優勝候補の広陵(広島)を相手に延長13回を投げ抜き勝利を収めてからその風向きが変わった(済美4―3広陵)。ストレートのMaxは152キロを計測。「四国の剛腕・安楽」は一気に全国区となり高校野球ファンを魅了した。しかし、決勝戦。連投の疲労からか安楽の剛球は鳴りを潜め6回9失点でマウンドを降りた(浦和学院17-1済美)。安楽がセンバツで投げた球数は「772球」だった。
センバツ終了後、150キロの直球を投げ込む16歳がいる!との情報は海を越え話題となり、米スポーツ総合誌「ESPN」が安楽を紹介した。
「彼を通して見る日本の野球文化とは何か?」
肩は消耗品。という考えが定着しているアメリカでは10代の少年には当然のように「球数規制」がある。試合、練習を通じて1日100球以上投げることはまずないのである。そしてアメリカには「甲子園」のように全国優勝を決めるような大会は存在しない。
そんな国からすれば、センバツで安楽が決勝まで3日連投を含む5試合に登板し、772球を投げたことは「どうかしている」「無茶だ」「酷使だ」という反応になる。
そもそも「野球文化」がまったく違うのである。
「772球」は投げ過ぎではないか?というアメリカの記者の質問に対して安楽は「これが日本の野球です」と気丈に答えた。
また上甲正典監督は、「決勝戦は違う投手に投げさせることも考えたが『本人が行けます!』と言えばそれを止められない。甲子園で優勝するために頑張っているんだから」と振り返った。
日本には「甲子園」がある。球児たちは将来を考える前に甲子園という目標に向かって厳しい練習に耐えている。
安楽は「772球」のセンバツの後、夏の愛媛県予選で157キロを計測。
夏の甲子園でも155キロの最速タイ記録を計測。
その後、2年生ながら日本代表に選ばれ活躍したが、秋の県大会1回戦で肘を痛め降板した。
3年生の夏に復活するも甲子園出場を逃した。
その年、恩師・上甲正典監督がこの世を去り、楽天からドラフト1位指名を受けた。
プロに入って今年が5年目。これまで通算5勝とまだ思うような活躍が出来ていない。
安楽投手に一度聞いたことがある。
「772球」と騒がれ、その後,肘を痛めてしまったことを後悔していますか?
「まったく後悔していません!高校時代の厳しい練習と試合がなければ今の自分はないと思うので」と即答した。
甲子園という独自の野球文化に球数規制は必要か否か。
その答えは本当に難しいのである。