ニュースのウラカタ#25 「ニュースと顔写真と確認と」
ご無沙汰しております。
愛媛の10月は重大ニュースが続きました。
伴って本業(ニュースデスク業務)が超多忙につき
”ウラカタ”の執筆がままなりませんでした。
1か月ぶりのウラカタ更新は、
その重大ニュースに纏わる話です。
①真鍋淑郎さんノーベル賞受賞
②新居浜3人刺殺事件
③4年ぶりの総選挙
この3つのニュースの報道に関わる中で
共通の”悩み”となったのが「顔写真」でした。
まず、真鍋さんのノーベル賞のニュース。
午後7時前に発表、四国中央市出身だとわかり、
南海放送の報道フロアは騒然となりました。
過去にインタビュー取材などしていれば、
映像が残っているのですが、
映像を検索しても全くヒットしません。
愛媛で3人目という快挙を伝えたいものの、
顔写真がなければ、
テレビのニュースとしては物足りません。
そこで、夜でしたが急遽、
出身地である四国中央市の新宮に記者を向かわせて、
顔写真と地元の方からのお祝いコメントを入手すべく
真鍋さんにゆかりのある人を探しました。
そして、真鍋さんの同級生(故人)の奥さんと巡り合い、
比較的新しい顔写真の存在を確認、
接写させていただき、真鍋さんの顔写真を入手しました。
実はここからが重要です。
手に入れた写真の人物が真鍋淑郎さん本人かどうか…
確認作業を慎重に行います。
入手した顔写真が、別の人物だった場合、
本人や取り違えた方に多大な迷惑がかかります。
特に犯罪に関わる事案の場合は、
その方に危険が及ぶことすら想像できます。
一方、報道機関としては、信頼が失墜し、
とりかえしのつかない事態になるのです。
真鍋さんの場合は、ご本人と面識がある方が
真鍋さんの写真として提供してくださったこと。
本人との思い出話など語ってくださったこと。
その場に真鍋さんを知る複数の方がいたこと。
日本テレビが所有している過去に撮影した動画と比較し、
相違ない人物だと判断したことなどから、
本人の顔写真であると判断し、ニュースで使用しました。
続いて、愛媛の事件史上に残る凶悪な犯行、
新居浜市の家族3人刺殺事件です。
顔写真に絞って話を進めますが、
銃刀法違反の容疑で逮捕された男(後に殺人容疑で再逮捕)は、
車上生活を送っていたとみられ、
居住地や交友関係などの糸口がないことから
顔写真の入手は困難を極めました。
しかしそんな中、事件発生翌日の夜になって、
粘り強く現場周辺や関係があると思われる場所周辺の
聞き込み(「ジドリ」と言います)を続けていた記者から、
容疑者が写っていると思われる卒業アルバムの存在の一報が入りました。
その後、2人の記者がアルバムの持ち主の理解を求め、
持ち主に同意していただいた上で、
中学時代の容疑者と思われる写真を接写、
顔写真を入手しました。
そして確認作業…
しかし、こちらも困難を極めます。
・30年以上前の写真であること
・集合写真であること
・最近の容疑者を知る人がほぼいないこと(我々の取材では浮かび上がらない)
などが理由です。
間違いは絶対に許されません。
我々の基本的なルールでは
・3人以上が
・この人は〇〇さんです
と確認した場合にのみ、
本人の写真であることが証明されたとして
ニュースで使用することにしています。
聞き方も慎重を期します。
「この人は〇〇さんですか?」×
「これは誰ですか?」〇
そして、本人との関係性も重視します。
真鍋さんと同級生の奥さんのように明らかに面識がある場合と、
数多い同級生の中の1人、しかも30年以上前の、
では、信頼度が全く違うからです。
しかも、殺人事件の取材にあたっている記者からの質問なので、
お相手が事件のことを知っていれば、
「これは誰ですか?」と聞いた時点で、
容疑者か被害者ということが想像できます。
しかもしかも、集合写真。
「この中に〇〇さんはいますか?」は×、
1人を指さして「この人は誰ですか?」は基本ルールだと〇ですが、
集合写真の解像度の低さや、
こちら側がその1人を選んだ点、
前述したように、殺人事件の取材にあたっている記者からの質問、
という点を加味すると△または×です。
結局、
・容疑者の氏名と卒業アルバムに記載された氏名の一致
・卒業年と容疑者の年齢の一致
・容疑者の同級生という方と学年が1年違うものの当時を知る方、
合わせて3人以上の確認
・記者の聞き方
・容疑者との関係性
を本人の写真であるか判断する材料としました。
これらの材料について、
臨場した記者、警察キャップ、デスク陣、報道局長で議論を重ね、
最終的に使用OKとしましたが、
決定までに時間を要しました。
最後に総選挙。
愛媛の4つの小選挙区は、
4年ぶりに自民党候補が独占という結果となりました。
選挙戦の報道には、顔写真を使う機会が多くあります。
特に公示後は、公平性を担保するため
同じ背景、同じサイズ、同じような表情の顔写真を
届出順に並べて放送します。
これらの顔写真は、
選挙報道の材料とするため、
事前に各候補者に協力してもらい主張や人柄などを聞き取る
「プロフィール取材」と呼ばれる場で、
各報道機関の記者が撮影するのが慣例です。
そんな中、愛媛の候補者1人が
プロフィール取材の必要はないとして
聞き取りの場が設けられず、
写真撮影も行われませんでした。
というわけで…
全国の1000人を超える候補者の中で
唯一、シルエットでの紹介となりました。
結局、この候補者は、投票日の5日前になり、
プロフィール取材を受けてくださり、
その後は写真付きで紹介することができました。
この10月、おそらく愛媛のすべての報道機関が、
”顔写真”に追われたことでしょう。