今週は、「坂の上の雲ミュージアム」特設ブースから、石丸耕一館長をゲストに迎えての生放送。ミュージアムでは12月26日(日)まで、土日限定でイルミネーション点灯と夜間開放を行っていて、ライトアップされたミュージアムの幻想的な雰囲気を楽しもうと、多くの方が訪れているとか。そこで、きょうは「明治の灯り」をテーマにしたトークを繰り広げました!


 

佐伯)ここからは、「坂の上の雲」の小説の主人公の一人・正岡子規と明治の灯りについて伺っていきましょう。子規の作品の中で「明治の灯り」についてどんなものがありますか?

石丸)子規の随筆とか短歌、俳句の中でですね、明治の灯りについてはよく出てくるんですです。主に子規庵=自分の家にあった石油ランプについての記述が多いですね。

佐伯)具体的に教えてください。

石丸)一つはですね、「墨汁一滴」という子規の随筆の中に、子規の人生の中で一つの象徴的な出来事を表したものがあります。

佐伯)と言いますと?

石丸)これはですね、明治24年の暮れの頃をですね、回想した文章が「墨汁一滴」の中にあるんですけど、当時帝国大学生であった子規というのは試験にとても苦しんでたんです。で、自宅では気が散るということで、閑静な場所で勉強に集中しようということで一軒家を借りて住んでいたんです、試験前に。で、その試験勉強を一軒家でしようとするんですけど、勉強のことはそっちのけで俳句のことばかり頭に浮かんでくるんです、どんどんどんどん。ノートを開いて1ページも読まないうちに俳句が次々と頭に浮かんできて、それを急いで書き留めようとするのに、周りには勉強道具しかないわけですね。そこでふと横を見ると、石油ランプのかさが目に付きます。ちょうどいいと思って、このランプのかさに思い浮かんだその俳句を書きつけるんですね。

佐伯)へ~。

石丸)で、一句、また一句と、勉強なんかそっちのけで俳句が出来て、とうとうそのランプのかさがですね、俳句でいっぱいになったんです。

佐伯)そんなに。

石丸)はい。これがですね、灯りをテーマに12ヶ月の俳句を作った「灯火12ヶ月」というものなんですけど、子規たちの間ではですね、俳句仲間の間では、この一つのテーマで12ヶ月の俳句を作るという、俳句の謂わばその鍛錬の方法ですね、修練の方法なんですけど、そういうものとして始まったんです。まぁこういう風な俳句、子規は「俳魔に魅入られた」という風な言い方なんかもしてますけど、結局子規は帝国大学を中退するんですけど、その一つのきっかけとなったエピソードに石油ランプが使われているというのは面白いですね。

佐伯)そのランプのかさに書き付けたものが、方法としても受け継がれていくっていう…すごい印象的なエピソードですね。他にもランプに関する作品っていうのはあるんですか?

石丸)子規の短歌の中で有名なもので、「ガラス戸の外の月夜をながむれどランプの影のうつりて見えず」という歌が有名なんです。

佐伯)「ガラス戸の外の月夜をながむれどランプの影のうつりて見えず」。これは?

石丸)これはランプがですね、自宅にあって、そのランプの光がガラス戸に、自分のガラス障子にうつってて、それが邪魔して月夜、外の景色が見えないという。このガラスはですね、子規庵の中で高浜虚子とかによってもたらされて入ることになったんで、子規は寒さをしのげるようになったわけなんですけど、このガラスもまた明治になって一般家庭に入り込んできた文明の利器といえます。ですからこの短歌の中には、ガラスとランプという2つのハイカラなものを盛り込んでいるんです。

佐伯)じゃあ新しいもの好きの子規さんらしい、一つの歌なんですね。

石丸)はい、そうですね。

 


[ Playlist ]
Sonya Kitchell – Cold Day
Domenico – 5 Sentidos
Feist – One Evening
Madeleine Peyroux – Lonesome Road

Selected By Haruhiko Ohno


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