今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、北宇和郡松野町にあるNPO法人「森の息吹」施設長の森下孔明さん。近年注目されている「ジビエ」をテーマにお話を伺いました。「森の息吹」は12年前に開設されたジビエ加工施設。もともと町内の鳥獣被害対策として、捕獲された獣肉を町の特産品として有効活用する目的で設立されました。最近では農林水産省から表彰を受けたり、日本最大の料理コンテストで「森の息吹」の鹿肉を使った料理がグランプリを受賞するなど、着実に評価を高めています。今回は「上流階級の貴族だけが味わえる」「ジビエの栄養価」「メイドインジャパンのジビエ」の3つをキーワードに、「まつのジビエ」の世界を紐解きます。

番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)では3つ目のキーワード「メイドインジャパンのジビエ」について、伺っていきましょう。やっぱりフランス、その本場っていうかね、もともと盛んだった所に比べると、日本の人気が出てきたって言ってもまだまだ伸びしろはあるっていう感じですか?

森下)そうですね。ただもう私は昔からこう思ってるんですけど、日本のジビエの品質は世界と比べてトップクラスだと思います。

佐伯)ほ~。

森下)はい、これもう間違いないと思います。なぜかと言いますと、日本のジビエのガイドラインは厳しく洗練されています。どこの国よりもジビエの安全性に気を使っているので、これは本当に素晴らしいことなんです。

佐伯)日本のジビエは、もうとにかく安全だというところにこだわりがあるわけですね。

森下)あと品質ですね。

佐伯)はい。じゃ、今度は私たち消費者側が、このジビエについてどういうふうに知識を深めていくかっていうところですか。

森下)ジビエ後進国とも言える日本の消費者の皆様からすれば、どのようにしてジビエが生まれているかってやっぱ不透明な部分が多いと思うんですよ。少しでもやっぱり違和感があれば、その後ジビエを口にすることはもうなくなると思いますし、だからこそ、日本にある各々の施設は厳しいガイドラインを遵守し、高レベルの技術でジビエを取り扱ってます。

佐伯)はい、確かに知識がないから先入観みたいな、何か食べにくいんじゃないかとか、食感どんな感じなのかなとか、知らないから一歩踏み出さないっていうところはあるかもしれませんね。

森下)そうですね、はい。

佐伯)じゃ、まずは食べたら「あ、意外といけるじゃん」というか、「美味しいね」みたいな、まず食べる、ここんとこですよね。

森下)そうなんです。日本は素材の味を大事にするお料理が多いじゃないですか。だから我々には、肉そのものの品質を一番に重視することが求められます。そういった中で日本の施設は先ほど申したように技術を磨いてきてますので、世界と比べて安全性、取り扱い方、品質、梱包、全てが世界と比べてもトップクラスと言えますね。

佐伯)はい。ただ、その品質っていう意味で言うと、どうしてもその野生の動物たちですから、何て言うのかな、その品質の善し悪しをぱっと見なかなか見極めって難しいんじゃないですか。

森下)大前提として簡単に言いますと、わかりやすく言うと肉付きが正常でないものに関しては食肉にしてはいけないとかっていう、そういうルールがあるんですよ。

佐伯)痩せこけてるとか…

森下)そうですね、はい。あとは経験を積み重ねてきたことで、これまでのように開けてみなければ答えの善し悪しがわからないといったケースは少なくはなりましたね。

佐伯)あ、解体しないとわかんないってことでもなくなってきてるんですか。

森下)外見で判断できるというか、そういったことはだいぶ出来るようにはなったかなと思いますね。

佐伯)でもそんな中でも「やっぱこれはちょっと駄目だな」っていうのはあるんですか?

森下)はい、もちろんです。食肉にできないと判断したものは、記録を残した後に全て処分しています。

佐伯)ああ。今そういう有害な鳥獣が増えてるって言われてますけれども、だからといっていくらでも出荷できるというものでもないんですね。

森下)そうですね。申し上げた通り、欧米に比べて日本では解体するまでに設定されたハードルが非常に高いんで、捕獲された害獣が精肉になる率っていうものは決して高くはないですね。

佐伯)そうですか。それだけ厳しい…

森下)そうですね。それで、でもいいと思います。やはりそうじゃないと。

佐伯)そうじゃないと、逆にいけない。ただね、一方でそうなってくると安定供給っていうのは、なかなか難しいですよね。

森下)そうですね。例えばうちのことで言いますと、7年前の西日本豪雨のときに床上浸水や土砂崩れなどの被害に見舞われまして、夏の間パタリと鹿が見られなくなったり、災害後2週間、一体も搬入がありませんでした。

佐伯)はい。

森下)その安定供給っていうことに関してなんですけど、僕は安定供給っていうことに関して興味がないというか…

佐伯)え、そうですか。

森下)安定供給ができるようになると、施設の規模にもよりますけど、うちの施設の規模で安定供給ができるっていうのは不自然なんですよ。どこかで無理をしちゃってて、どこかで見逃しも生まれてくる可能性もあるんで。

佐伯)ああ。

森下)ジビエに関しては、獲れるとき獲れないときってどうしてもあるし、安定供給っていうのを目指しちゃうと、どうしても僕らの見る目のハードルって下がっちゃうんですよ。

佐伯)どこかに歪みが出る。

森下)はい、必ずできると思います。だから、無理をして販売をするものでは僕はないと思ってます、ジビエは。だから一体一体真摯に見て、この鹿肉が本当にいいのか悪いのかっていうのをしっかりと見れる時間ということですね、そういったものも必要になってくると思いますし、いつ獲れるかもわからないものを安定供給っていうのは正直無理があると思ってます。そこを目指す必要は僕は一切ないというふうに僕は昔から思ってます。

佐伯)そうですか。じゃあ安定供給じゃなくて、とにかくその品質を突き詰めていくっていうところが「森の息吹」さんなんですね。

 


[ Playlist ]
矢野顕子 – 電話線
The Beatles – Yellow Submarine
Madeleine Peyroux – I’m All Right

Selected By Haruhiko Ohno


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