今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、新居浜市美術館学芸員の井須圭太郎さん。四国初開催のクローン作品の展覧会「東京芸術大学スーパークローン文化財素心伝心」についてお話を伺いました。耳慣れない「クローン文化財」とは何なのか?その魅力や広がる可能性とは?


 

佐伯)早速ですがクローン文化財、これ初めて聞く言葉なんですけれども、どんなものになるんでしょう?

井須)クローン文化財というのは東京藝術大学さんが、元々は文化財の保存修復とかの専門の学科だったり技術のプロの方がいらっしゃって、たくさんのノウハウだったり技術がある中で、失われてしまった文化財であるとか、いま劣化していくもの、そういったものを何とか後世に残せていけないかなというような、そういう思いがあって。で、それを未来に伝えていく技と言うか技術として編み出されたのがクローン文化財という技法ということで、特許技術を取得されてるような本当に高度な複製技術で蘇った文化財ということになるかと思います。

佐伯)具体的にはどのようにして作られるんですか?

井須)基本的には三次元でのデジタルの計測であったりとか、3 D プリンターを使ったりとかですね。実際の文化財ってなかなか触ったりとかできないし、型取りとかもできませんので、触らなくてもできるようなデータの取得であるとか、あるいは過去に撮影された高精細の画像とかですね、調査されたそういったデータ、そういうものをたくさん蓄積して集めて、そういったデータを元に3 D プリンターなどで原型を作ったりとかですね。ということで型を作って、そこから実際の職人さんの技であったり保存修復の方の専門の技術の方だったりの力をもって実像にするというか、実体にしていくと。

佐伯)じゃあデータから生まれる3 D プリンターのようなデジタルだけではなくて、そこにさらに熟練の職人さんたちの手法も加わっていくという。

井須)そうです。

佐伯)アナログも入っていくってことなんですね。

井須)そうですね、単にコピーであったりとかレプリカということじゃなくて、やっぱりそういった最先端のデジタルデータと昔からの伝統技術であったりとか、職人さんであったりとか技術者の方の手が一緒に携わって入っているというところが特徴であるという風に聞いております。

佐伯)今おっしゃった単なるコピーとかレプリカとは一線を画すものであるということで、質感ですとか微妙な所っていうのも職人さんの手が加わることによってより精緻に再現されるというか…

井須)そうですね、やっぱり色々お聞きしてますと、その当時の制作の技法であったりとか思想ですね、どういう経緯を持ってその文化財ができていたのかとか、そういうこともきっちり理解と言いますか、ちゃんと背景を知った上で、その状態を忠実に再現するということで。色々な進化の過程を経てるようですけども、今の状態を復元するっていうのも一つですし、それよりもっと進んで、出来た当時、例えば銅なんかでもどんどん酸化していって古色がついていって褪せていったりとかしますけども、本当は最初は実はもっと金ピカに描かれてたりとか、光り輝いてたりということもあるので。最初は失われたものの当時の状態を戻すということだったらしいですけど、そこからさらに出来た当時の状態まで戻すというようなことも研究として進んで取り組まれたりとか。逆に今度はもう未来の形もどうなっているかなところも含めて、今の研究の中でクローン文化財の形も広がっていってるということで聞いております。

佐伯)そうですか。このクローン文化財、どういった経緯で生まれてきたものなんですか?

井須)もともとは東京藝大の学長をされてらっしゃいました日本画家の平山郁夫先生が、アフガニスタンであるとかシルクロードとかそういったところの東西文化の中の日本画で表現されてたりとか、一方で文化財の保存ですね、流出文化財の保存なんかにも非常に力を入れていらっしゃったということで、文化財の保存と継承、その思いがまず一つ平山先生がお持ちだったもの。それと共に教え子であられる宮廻名誉教授が、いろんな東京藝大の保存修復の歴史だったり思いとか、そういうものを引き継ぐような形でクローン文化財ということでなんとか失われた文化財を復元して、また世界のいろんな方々に見てもらったり公開を続けることはできないかと。そういう思いの中から2017年頃に展覧会が実際に開催されたんですけども、そういう流れでどんどん文化財が復元されていって今回につながっているという状況にあるようです。

佐伯)確かに私たちがその文化財を是非見てみたいと思っても、門外不出のものがあったりですとか、今おっしゃったようにどんどん時間の経過とともに劣化と言うんでしょうか色が変わってしまったりだとか、いつのまにか欠損してしまったりだとかっていうところが出てきますが、そういった部分も含めて再現も出来て、魅力を直に感じることもできるということですよね。

井須)ですのでは今はコロナのことがありましてなかなか難しいんですけど、それこそ復元ですので、本当は触ったりしちゃダメとか撮影したらダメとかあるんですけども、クローン文化財の場合は実際に触っていただいたりとか質感も楽しんでいただいたり、あるいは写真を撮って細部も見ていただいたりとかですね。秘仏とされる本来公開されないものを間近に見て体感してもらうことができると。そういう意味では広く普及だったりとか継承ということにすごく寄与されてらっしゃると聞いております。

   


[ Playlist ]
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Melissa Manchester – Bad Weather
The Little Willies – Roll On
native – everafter

Selected By Haruhiko Ohno


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