今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、松山学院高校普通科Newコースの指導者で広報室長でもいらっしゃる田中由美さんです。小学校教諭や書道教室の先生、読み聞かせ活動など多彩な経歴をお持ちの田中さんが4年前に設立された松山学院高校の普通科Newコース専属の国語教員として赴任し、現在取り組んでいるのが「不登校に寄り添う」こと。今回は「カリキュラムで寄り添う」「言葉で寄り添う」「建学の精神で寄り添う」をキーワードに、全国からも注目されるNewコースにスポットを当てます。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
佐伯)では、二つ目のキーワードです。「言葉で寄り添う」ということですが、日々生徒の皆さんと触れ合う中で、田中さんが特に感じられてることっていうのはどんなことですか。
田中)そうですね、Newコースに来て私が一番考えるのは、「普通って何だろう」っていうことをよく思います。自分はこういうことが普通だって思ってることって、それぞれみんなあると思うんですけど、なんかやっぱりそのNewの生徒たちを見ていて、普通は次はこうするなとか、普通はこうするべきだなとか思ってしまうことがやっぱり今でもあって、それぞれの子供にそれぞれの基準があって、その価値観があるっていうことは頭ではわかっていても、時々私はまだ今でも自分の経験則とか今までの価値観とか、自分のフィルターを通してこの子たちを見てるんだなって思い知ることが多いんですよ。
佐伯)うわ~、今すごく胸に突き刺さりました。たぶんラジオをお聞きの方でもそう思ってる方いらっしゃると思うんですよね。やっぱり人間誰でも自分の経験であったりとかその過ごしてきたで時代背景とかね、そういう感覚で「普通こうするよね」って言っちゃいがちですけど、そう言っちゃいけないよっていうのも、よく研修で聞きます。そうですか、具体的に言うと例えばどういうときにそういう思いを?
田中)そうですね、いろんなところでそれは感じるんですけど、例えばこの間の3月卒業をしていった1期生の男の子、この子はNewで頑張ると思って入ってきたんだけど、やっぱその教室にすごく入りにくくて結局、教育相談室っていう別室で過ごすことが多かったんですね。もうその教育相談室から教室に行く練習をしてみようかっていうようなことを持ちかけたことがあって、教育相談室から本当隣にある自分の教室、しかもその担任の先生はその子の席を一番後ろの戸口から入って一番後ろの列にちゃんと構えてくれてるので、ちょいと入れば自分の席に座れるっていう状況なんですけれども、教育相談室から歩き始めたらもう足がブルブル震えて前に進まないんですよ。
佐伯)隣の部屋でしょう?
田中)そうです。松学は廊下にベンチがたくさん置いてあるんですけど、そのベンチにちょっと「じゃあ座って休む?」って言って座ってるときに、その子のその細い足がズボンの中で本当に震えていたんですよ。それを見たときにすごく胸突かれるような思いがして、私にとっては5、6歩歩いて隣の教室に行くことなんてもう全くたやすいことなんだけれども、この子にとってはそれがとってもハードルの高いことなんだなっていうことを改めて感じさせられた出来事だったんですね。その子に「大丈夫大丈夫」って、「誰もそんな気にしてないから」とかいう声をかけたら、彼が「それはわかってる」って言うんですよ。「誰も僕のことをそんなに見てるわけじゃないってわかってるんだけども、でもそう感じてしまう。だから、なかなかそう思うようにいかないんだ」っていうな話を聞きましてね、なんかこっちが考えてることを、もう見透かされてる感じもしました。「大丈夫よ」ってこちらは心を込めて励ましてるんですけれども、それもわかった上で、やっぱり自分の思ったようにならない自分っていうものと向き合ってるんだっていうことがわかって、本当に私自身をちょっと反省させられた出来事だったですね。
佐伯)そうですか。その彼はその後・・・
田中)はい、結局クラスへ入って一緒に授業を受けるっていうのはなかなか難しかったんですね。教育相談室でリモートで授業を受けるような形をとったんですけど、でもその教室にちょっと行けるように、ちょっと座る感じのことはできるようになりましたし、実は卒業式もちゃんと出ることができて。
佐伯)そうですか!
田中)本当にみんな晴れやかな顔をして、1期生が卒業していったんですね。もう本当みんながジーンとするような感じでしたね。もうそれはその子一つの例で、どの子にもどの子にもそういう経験があって、本当にその1期生が巣立っていくのを見たときに、みんなそれぞれのペースでそう成長して、それぞれのペースで自分の次のステージを見つけたんだなと思って。それは本当に喜ばしい出来事だったんですよ。
[ Playlist ]
Tracey Thorn – Femme Fatale
Rumer – Come Saturday Morning
Kings of Convenience – Mrs. Cold
Selected By Haruhiko Ohno