今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、とべ動物園副園長の椎名修さん。今月オープンした四国最大級のジップラインが話題のとべ動物園。人気の行動展示の最新情報に始まり、御専門のゾウの飼育について、全国の動物園の現状と課題にまで話題は広がり…。動物園にゾウはつきもの、と思っているアナタ!じつは、そうではないってご存知ですか?


 

佐伯)椎名さんと言いますとゾウのご担当という事で、実はアフリカゾウの妊娠・出産の成功例というのは日本でも数例しかないんですね。

椎名)そうですね。日本の動物園ができて130年ほどなんですけども、その中でもですね、まだ30例ぐらいしかゾウの出産ってないんですよ。その130年の歴史がある中で、例えばキリンってご存知ですよね、キリンは東京の多摩動物園さんだけで130頭ぐらい産まれてるんですよ。

佐伯)そうなんですか!

椎名)ですけれどゾウは(全国で)30頭しか産まれていない。その差を見ていただいてもそうなんですけども、繁殖例っていうのはとても少ないんですよね。で、愛媛の皆さんは、けっこう動物園に来ていただくと、媛(ひめ)ちゃん、砥夢(とむ)くん、砥愛(とあ)ちゃんと、いつもゾウの赤ちゃんが見れていたのかなと思います。

佐伯)ええ、そんなイメージあります。

椎名)だから皆さんの方でも、結構ゾウの赤ちゃん生まれてるかなーってふうに考えてる方もおられると思うんですが、数字的なものを見るとですね、ゾウの赤ちゃんってとっても貴重なんですよね。だからその3頭の赤ちゃんを見て頂いて、成長してることはですね、自慢にできるかなと思いますよね。

佐伯)となりますと、その他の動物園のゾウのご担当の方から椎名さんに「色々教えてください」みたいなことってあるんですか?

椎名)それは当然ありますね。その出産のことに関してとか、飼育の仕方とか、そんなのは相談を受けることも当然あったりします。

佐伯)よその動物園ではなかなか難しいものが、このとべ動物園で椎名さんがうまくいってるって言うのはどういうことが考えられるんですか?

椎名)ゾウというのはですね、本来でしたら母系集団で家族の中で全てを学んでいくんですよね。お母さん、おばあちゃん、お姉ちゃんの出産を見ながら、それで子育てを学んで行ったりとか。で、オスのゾウはですね、群れの中でどんどん成長してってメスの発情を体で感じてですね、どんどん成長してくんですよ。その中で、本来でしたらちゃんとした赤ちゃんができたりするんですけれども、日本の動物園というのは、今はちょっと状況が変わってきてはいるんですけれども、過去はやはり子ゾウ、1歳2歳の子ゾウを連れてくるってことが多かったんですね。そうすると学習ができないっていうのが一点なんですよ。それと、本来でしたらオスのゾウというのは成長していくと群れから離れてくんですね。それでオスの群れを作って独り立ちしていくんですけども、オスとメスがずっと同じ空間というかエリアで生活していくと、それは本来の生活はないんですよね。そうするとオスがオスになりきれないというのがあるんですね。それがですね、日本の動物園の主なところですね、それがあの太郎と花子、道後動物園の時からいたあの子達もそうなんですけども、花子にはちゃんと排卵があるんですよ。それは分かってるんですね。太郎くんも立派な大人になってくるんですけど、やっぱり繁殖行動を起こさない。それはずっと成長する段階でも一緒に生活してしまってる、姉弟だと思ってしまうんですね。

佐伯)発情しない?

椎名)はい。そんなことがあって、日本の動物園にできないんですけども、繁殖ができてる動物園のオスのゾウというのは、自分の生殖サイクルを持つんですね。例えばこのへんで行きますと、宇和島の闘牛ってあるじゃないですか。闘牛も興奮させるために例えばタイヤを突かせたりとか山の斜面に角を当てさせたりとかして、どんどん状態をあげてくんですよ。そういう中で立派なオスに育ててるんですけども、ゾウもそれが言えるわけなんですね。成長の段階でゾウらしく育てるということによって一人前のゾウになってくんですね。そうすると繁殖がうまくいく。それだから、うちだけではなくて成功してる他の園館、王子動物園さんであるとか豊橋の動物園さんであるとか、オスがもう独り立ちしてるんですね。そういう園館さんですと十分繁殖できるというのがありますね。それと最近の動物園、子ゾウは連れて来てません。子ゾウを連れてくると死亡する確率が高いってことと、繁殖ができないというのがわかってきているので、もう大きなゾウさんを連れてきてます。10歳とかそれぐらいですと、もう繁殖を見て体感してるので繁殖行動ができるって事ですよね。

佐伯)ゾウって、けっこう動物園の中でも看板の動物だと思うんですけど、だいたい今日本で動物園で飼育されている象の頭数ってどのぐらいなんですか?

椎名)アフリカゾウですと、もう30頭ですね。

佐伯)え!!そんなに少ないんですか?

椎名)ええ。で、アジアゾウ、インドゾウになってくると80頭とかいたりはしますけども、やはり繁殖ができないので数が少ないので、ちょっとこれからジリ貧なのかなと思いますよね。

佐伯)えー…。

椎名)最近は大きな動物園で4頭5頭っていう風な形で移入はしているところもありますけれども、今の日本の状態で繁殖の頭数を考えると、まぁ50年後には日本では見られなくなる可能性も出てきますよね。

佐伯)そうなんですね。

椎名)今の数を維持しようとすると、やはり年間3から5頭ぐらい増えていかないと今の頭数はずっと維持できないので、ちょっと厳しい状況ではありますよね。

佐伯)今日本で30頭しかいないアフリカゾウの中の何頭がとべ動物園にいる?

椎名)今3頭です。

佐伯)3頭いる。で、とべ動物園で産まれた砥夢くんが繁殖のためにどこか…

椎名)多摩動物園ですね。

佐伯)東京の多摩動物園にいたりして…うーん、ものすごい割合ですね。

椎名)はい、ですけれどもうちも今、お母さんのリカさん、お姉ちゃんの媛ちゃん、妹の砥愛ちゃんという、この女子3人しかいないので、これから繁殖できる男の子を連れて来るか、家から繁殖できる男の子のところにお嫁に出すかしていかないと、国内からちょっとアフリカゾウがいなくなる可能性が高いですよね。

佐伯)へえ~。さっきも申し上げましたが、動物園と言えばゾウさんって切っても切れないというか、居て当たり前みたいに思ってましたけど、特にアフリカゾウに関していえば、この身近なとべ動物園で3頭も見られるっていうのはめちゃくちゃ貴重なことなんですね。

椎名)そうですね。当然それで親子でおりますから。親子っていうのは、うちの動物園しかいませんから。今ですね、媛ちゃん砥愛ちゃんの成長を見守っていますので、これからもゾウさんファミリーをですね、応援してもらえたらいいのかなと思いますね。

佐伯)実は椎名さんは、全国ネットのテレビ番組で企画された“飼育員さんが選ぶ飼育員さん”で、なんと第一位!

椎名)にもなったことありますね(笑)。

佐伯)ということで、それだけ優れた飼育員さんでいらっしゃるという…

椎名)そのへんは、だから自分では評価できないので(笑)、周りの方に評価していただくものですから、それはそれで嬉しい事ではありますよね。

 

 

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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