今週は「坂の上の雲ミュージアム」から生放送で、企画展「『坂の上の雲』のひとびと」について、学芸員の上田一樹さんにお話を伺いました。より多くの方に見て頂きたいという思いから会期が1年間延長になり、展示品の入れ替えも行われたばかり。言論の世界で活躍した「正岡子規と陸羯南」、軍事の世界で日露戦争という巨大な試練を乗り越えた「東郷平八郎と児玉源太郎」、外交の世界では日露戦争の講和を成し遂げた「小村寿太郎と金子堅太郎」。この6人にスポットを当てた企画展となっています。上京した子規の親代わり、兄代わりとなり、自らが経営する新聞「日本」に子規の作品発表の場を設けるなど支え続けた陸羯南。その裏には、こんな苦労もあったようで…。

▼坂の上の雲ミュージアムHP
https://www.sakanouenokumomuseum.jp/


 

佐伯)当時の新聞、いくつかあると思うんですけれども、この新聞「日本」っていうのは、けっこう売れ行きも好調で、みたいな感じだったんですか?

上田)実はですね、あまり…

佐伯)あれ?

上田)ちょっと、この後の話に繋がってくるんですが、あんまり売れ行きは芳しくなくてですね。

佐伯)あら、そうなんですか?

上田)はい、経営のほうもあまり芳しくなかったっていうのがありまして。政府とか政党の機関紙みたいな新聞が多かったので、そういったところは発行部数を伸ばすんですが、日本新聞っていうのは、どこの政党とか特定の派閥に属さない新聞でしたんで、そういったところでなかなか経営は苦しかったりとか。あと政府に、こう何て言うんですかね、けっこう批判的なと言うか、そういう記事を書くときもあってですね、発行停止になることとかもあって、新聞が売れませんよね。そうなると収入が厳しくなったりとかいうのもあってですね。

佐伯)でもそんな中でも、色々苦労しながらも子規を支えてあげたっていうことになるんですね。具体的に、その経営難をどんな風にして乗り越えて行ったんですか?

上田)今ですね、展示している陸羯南の手紙があるんですけど、これは四国で初めて公開する…

佐伯)貴重な!

上田)個人の方からお借りしたもので2月24日から展示をしてるんですけど、葛南が日本新聞社を存続させるためにですね、苦心していたっていうのがよくわかる手紙なんです。

佐伯)え、大変だよ…みたいなことが書いてあるんですか?

上田)これは誰に送ったかというと、支援者に対して送ってる手紙なんですけど、近衛篤麿という人と佐々木高美っていう貴族院議員に送っている手紙なんです。

佐伯)近衛篤麿?のちの総理大臣に近衛文麿って出てきますけど。

上田)あ、そのお父さんです。

佐伯)そうなんですか。へ~。

上田)この人達は資金力があって政治家だったんですけど、二人とも羯南の考え方に共鳴して日本新聞社に資金援助、お金を貸していたってあるんですけどね。この手紙って明治34年12月なんで、子規がまだ俳句とかを発表してた頃の…

佐伯)新聞「日本」に子規の作品が載ってた頃の手紙。なんて書かれてたんですか?

上田)この二人と資金援助の交渉みたいなことをやり取りしている手紙なんですけど。

佐伯)結構生々しい感じですね。

上田)はい。近衛さんが個人で発行してる「東洋」っていう政治系の雑誌の記事の一部を、新聞「日本」の付録に掲載してくださいっていうことを、それを条件にしてお金を貸しますよみたいなこと言ってるんですけど、それの交渉。借金の返済の猶予を申し出たりとか、そういったちょっと生々しい感じですね。

佐伯)本当ですね。そんなふうにして、あれこれ策をめぐらせながら新聞「日本」を経営した陸羯南。そこに作品の発表の場を与えられていた子規。ということなんですけども、その子規は羯南さん大変だなっていうのは分かってた?

上田)あの羯南自身は子規には多分、大変だ大変だ苦しい苦しいとは言ってない。

佐伯)言ってないんですか。

上田)ですけど、子規は知ってましたね。あの『坂の上の雲』の中にですね、新聞が思うように売れない、発行停止とかになる中で自分の文学活動を全面的に支援してくれる羯南に対してですね、子規がもうありがたいと言って涙を流して感謝するっていう場面が出てくるんです。そういう場面からも子規はそういう羯南の思い、苦しいことも知っているした羯南の自分に対する愛情と言うかそういう事も知っていて涙を流すっていう、そういうところが出てきます。

佐伯)本当に「だんだん(伊予弁で「ありがとう」)」という感じだったんでしょうね。そういうふうに子規が羯南の事を本当に感謝していたっていうのは、小説の中だけじゃなくて何か記録にも残ってたりするんですか?

上田)そうですね、あの親友の夏目漱石に宛てた手紙の中にそういったことが出てくるんですけど、それを元にですね、司馬さんが書かれて。

佐伯)やはりそういった事実をもとに書かれているからこそ、人々の心を揺さぶるような場面になってるっていう事なんですね。

 


[ Playlist ]
The Colour Field – Thinking Of You
Sharon Van Etten – One Day
The Jessica Stuart Few – (Don’t Live Just For The) Weekend
Marcos Valle – Nao Tem Nada Nao

Selected By Haruhiko Ohno


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