今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、松野町「芝不器男記念館」の案内人・川嶋健介さんです。芝不器男は、松野町出身で大正から昭和にかけて活躍した俳人。そして川嶋さんは、学生時代に出会った俳句の魅力にハマり、サラリーマン生活をする中で「芝不器男記念館の再活用」を目的とした地域おこし協力隊の募集に応募。見事採用され、県外から松野へ移住してきたという経歴の持ち主なのです。そのトークの全てに、不器男愛を感じずにはいられない放送回でした。
佐伯)他に不器男が詠んだ句から、不器男の思いだったり笑ったりとかすごくにじみ出ているものってのいくつか教えてもらえますか?
川嶋)そうですね、この時期だとちょうど、もうすぐ2月3月の卒業だと思うんですけれども、「卒業の兄と来てゐる堤かな」っていう俳句があります。
佐伯)「卒業の兄と来てゐる堤かな」
川嶋)お兄さんと川に来ているという句ですね。
佐伯)卒業するのは?
川嶋)お兄さんですね。
佐伯)卒業されるお兄さんと一緒に川の堤のところにいる、という情景ですね。
川嶋)そうですね、この句はすごく客観的と言うか、お兄さんとそこに来ているよっていうことしか書かれていないんですが、読んだときの印象と言いますか、それがなにかお兄さんがこれから歩む将来だったりを考えてるっていう時間が逆に客観的なので、なんというか読んだ人にも「どう考えているんだろう」っていう、兄の背中を見る弟の気持ちをちょっと考えさせるような所があったりして、僕は好きだなっていう思いがあります。
佐伯)そうですか。不器男は家族の事っていうのをよく句に登場させてるんですか?
川嶋)あ、そうですね、お母さんも出てきたりとかするんですけれども、そう言われると…今まで意識してこなかったんですけど、そのお母さんだったりとかお兄さんだったりが詠まれてる句ってあるのかなって、今、気がつきました。
佐伯)そうですか(笑)、素朴な疑問だっただけなんですけど。じゃあちょっと故郷だったりとか、家族だったりとかへの思いというの感じ取ることができるわけですね。
川嶋)なんで、いろんな言い方されるんですけど、一番最初に「俳壇の夜空を彗星の如く駆け抜けた」っていう風に言ったんですけど、故郷を思った俳人で「望郷の俳人・芝不器男」っていう風にも言われたり、早く亡くなった「夭折の俳人」って言われたり。最近は、芝不器男のその表現が難しいっていう話をさっきしたんですけど、この不器男さんが亡くなった後に新興俳句運動っていうのがありまして、戦争に向かっていく中で色んな無季俳句だったりとかっていうのがどんどん作られていくんですけど、芝不器男のその独特な表現は新興俳句運動の先駆けとして「夜明け前の存在」みたいな扱いを受けてたりとかします。
佐伯)へ~。じゃ、どんどん評価が高まるんですね。
川嶋)そうですね、なんか色んな派閥というか、伝統みたいなところの人も、現代みたいな人たちも、芝不器男を取り上げるので。すごく芝不器男っていうのは色んなとこに登場する俳人です。
佐伯)多面的なところがあるって事ですかね。
川嶋)そうだと思います、本当に。万葉集の言葉とかも使ってたりするんですけど、モダンな言葉で「パセリ」とか出て来たりもするんです。
佐伯)パセリ?え、どんな句ですか?
川嶋)「一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな」という句なんですけど。
佐伯)「一片のパセリ掃かるゝ暖炉かな」。「掃かるゝ」というのはお掃除の「掃く」っていう漢字ですけど。え、パセリを掃いて、暖炉に捨てられたってこと?
川嶋)そうなんですよ、ただそれって何かよくわからないじゃないですか。
佐伯)そうそう。
川嶋)まず、なんでそこの一片のパセリが床に、地べたに落ちてるのかっていうのも分からないし、それをなんで暖炉に掃かれていったのかっていうのもわからないんですけども、これが最後の“絶筆”と言うか、辞世の句に近い句で、不器男の亡くなる2ヶ月前に詠まれた句なんです。それを亡くなる2ヶ月前っていうのを考えると、なんか26歳で、あと短い人生というか…。
佐伯)それ分かってたんですね、本人は。
川嶋)おそらく言わないようには多分周りの人はしてたと思うんですけど、あんまり体が良くなかった。状態が良くなかったので、その頃にはもう腰が痛かったり寝たきりみたいな形だったので、なんていうかその瑞々しいパセリが大きな暖炉の中に掃かれていくっていうのは、若くして将来を思っていた自分が亡くなっていくっていうのと重なってくるのかなと思ったり。
佐伯)そういう想いなんだ…。
川嶋)それは解釈ですけどね。
佐伯)でも、そこに「パセリ」が入ってるっていうのが斬新ですね。
川嶋)そういった俳句があるから、現代的な俳句に寄ってるっていう風に捉える人もたくさんいたり。
佐伯)あと音が、「いっぺ(●)んの」「パ(●)セリ」っていうのが、音の響きも印象的ですね。
川嶋)本当ですね、「パ」っていうのが耳に気持ちいい感じがありますよね。
[ Playlist ]
Bibio – Feeling
Asylum Street Spankers – Going Up To The Country, Paint My Mailbox Blue
Caito – Durmiendo
Danny Kortchmar – For Sentimental Reasons
Selected By Haruhiko Ohno