今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、高畠華宵大正ロマン館主任学芸員の高畠麻子さん。ん?苗字が高畠。そう、華宵のお兄さんのひ孫にあたる方なんです。そんな高畠さんが、大正ロマンを代表する画家である華宵について、身内だからこそ御存知のエピソードも交えて語ってくださいました。現在開催中の「或る少女からのメッセージ-華宵便箋がつないだ愛」については、こんな展示もあるんですって。


 

佐伯)今回の展示会なんですけれども三つの展示室に分かれているということなんですが、どんな感じの内容になってるんですか?

高畠)まずは華宵便箋って何っていうところで紹介する…全部で四つの会社から華宵便箋っていうのが出てまして、一番最初に出たのが大正14年なんですけれども、その四つの会社の説明とか。だいたいどんな種類が…おそらく全部はちょっとまだわかってないんですけども数百種類は出てたであろうと。

佐伯)そんなに!

高畠)やっぱり消耗品ですので、表紙は大事に取ってても、その表紙と中身と封筒のセット感みたいなのがなかなか分からなくて、ちょっとそこはまだ調査が必要なんですけれども。時代によって華宵の描くタッチも多少変わってきたりとか。あと、そこに描かれてるテーマですよね。和風のものもあれば洋装のモダンガールもあるし、あとアラビアンナイトのようなものもあるし。昭和10年過ぎになると、ちょっと戦争を感じさせるような、そういうイメージもあったりとか。時代を見ていく資料としても非常に興味深いなとは思うんですけど、そういう華宵便箋について紹介しているのが一つ、展示室としてあります。

佐伯)そして、第二展示室はどうですか?

高畠)えっとですね、まぁ実際便箋を使っていたのがおそらく主に女学生、今のティーンエイジャーのちょっとハイティーンの子達ですよね。その女学校の生徒たちはどういう生活をしてたのかっていうのを、その当時の雑誌に載っていた写真ですとか、あと面白い色んな特集が各号出てるんですけれども、全部で数十種類の少女雑誌は少なくともあって。短命だったり長く続いたの色々あるんですけれども、その中で華宵が結構メインに力を入れて描いてた「少女画報」っていう雑誌があるんですけれどもね。各号、月刊誌なので色んな特集があるんですが、その中で「女学生隠し言葉辞典」っていう特集があったんですよ。

佐伯)「隠し言葉」?

高畠)それをちょっとまぁ全部紹介しているコーナーもありまして。当時の女の子達がどういう言葉を使ってたのかっていうのがね。

佐伯)あ、若い子、特に今で言うと JK ですかね、女子高生が例えば今年だったら「キュンです」という…

高畠)コレですよね?

佐伯)そうです!指でちっちゃいハート作って、みたいな(笑)そういうのの、華宵の時代版の特集があったってことですか?

高畠)そうですね。

佐伯)例えば、どんな?

高畠)えっとですね…

佐伯)あ、コピーをお持ちなんですね。

高畠)いきなりあるのが「アナウンサー」っていうのがありますね。

佐伯)え?華宵の時代に「アナウンサー」ってあったんですか?

高畠)おそらくラジオ放送が。これは大正15年の「少女画報」の特集なので、ラジオ放送が始まったのはその前年なので多分新しい言葉だと思うんですが、“最近女学生間で流行しだした隠語で、むやみに人のことを告げ口する人のこと”だそうです。

佐伯)(爆笑)!それが「アナウンサー」なんですか?すいません、これ、ちゃんとしたそのいわゆる辞書に載ってるんじゃなくて、女学生がそういう意味で使ってるっていうことですよね。

高畠)そうですね、これ編集部がリサーチをして、全国津々浦々でいろんな。東京のここで流行ってる言葉とか、青森の高等女学校で流行ってる言葉とか、そういうのも一生懸命大人が調査して採取して、それをまとめた特集なんですけど。

佐伯)え~面白い!って言っていいのか私が…悩みどこですけど(笑)。じゃ、当時の女学生は「あの人アナウンサーね」って言うと“むやみに人のことを告げ口する人”のことを指していたという…

高畠)そうですね、決して褒め言葉じゃなかったっていうことですよね。

佐伯)あら~、まぁでもちょっとこれ否定しきれないところもあるような気もしますけどね(笑)

  

高畠)あと華宵に絡めて言うと、「華宵式」っていうのが載ってるんですけれども…

佐伯)「華宵式」…ちょっと待ってくださいね~(ページをめくる)~、あ、「華宵式」とは、「魅力ある人の形容語。目下盛んに使われている。」流行語だったんだ。

高畠)ですね。だから、華宵っていう名前なんですけれども、すでに一つのイメージがその名前にまとわりついていて、おしゃれな人のこととかですね。

佐伯)魅力のある人のこと。へ~、こういうのが雑誌に載ってたんですね。面白い!

高畠)あと今と同じようなので、「デコる」って言うのがありますね。

佐伯)あ、「て」のところに…「デコる」。え!「オシャレするの意」。

高畠)そうですね、遠くない意味ですよね。

佐伯)今もね、「デコる」って言ったら…

高畠)ちょっとね、華やかに飾り付ける…

佐伯)そうそう、飾り付けるっていう意味で使う。

高畠)語源は同じ意味ですね。

佐伯)は~。(ページをめくる)、…ちょっと私これギクッとするのが「アイスクリーム」っていう。「継母のこと。甘いようで冷たいから。」ギクッとする。ちょっと毒が(笑)。

高畠)そう、毒があるんですよ。そこがね、すごくその当時の。やっぱり昔の人の様子とか生活ってなかなか想像できなくて、どうしてもセピア色でなんか時間が止まってるイメージがあるんですけど、こういうものを見るとやっぱりこの当時の女の子達の、ある意味強かなあり方っていうのがすごく可愛らしくて。例えば校長先生の頭についての隠語、たくさんあるんですよ。

佐伯)そうなんですか?

高畠)やっぱり何て言うんですかね、そういう言葉を交し合うということで信頼関係を深めていったり。

佐伯)友達同士の。これはちょっと今も昔も変わらないんですね。

高畠)全然変わってないですね。

佐伯)じゃあ、こういう展示が第二展示室では楽しめる。

高畠)そうですね、じっくり読んでください。

佐伯)わぁ、ここ立ち止まっちゃうな~。

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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