今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、文筆家の河鰭万里さん。千葉県生まれの河鰭さんは、祖父のルーツを求めて愛媛を訪れたのをきっかけに、世界を訪ね歩く暮らしから久万高原町への移住に転じました。コロナ禍の影響もあり、ワーケーションというスタイルや移住にも注目が集まる中、意外に「スローじゃない」山暮らしとは!?


 

佐伯)実際の山での暮らしぶりっていうか、お仕事は文筆業ってご紹介したんですけど…

河鰭)そうですね、文筆業もしながら、ただ生活費を稼ぐ分に色んなバイトをしたりとかはしてます。

佐伯)お住まいは?

河鰭)家は古民家です。

佐伯)あら、いいですね~。

河鰭)いいですけど、寒いんですよ~。

佐伯)それを聞くと…

河鰭)冬はね~。

佐伯)そうですよねぇ、昔ながらのっていうと。やっぱり自然を大事に、今「スローライフ」なんて憧れる人は多いと思うんですけど?

河鰭)スローではないですよ!これだけは言っときたい。田舎はねぇ、めちゃくちゃ忙しい!

佐伯)忙しい?何に忙しい?

河鰭)何に忙しいかわからんぐらい忙しい!

佐伯)え、そうなんですか?なんか田舎暮らし、山暮らしって言ったらのんびりっていうか。

河鰭)なんでなんかなぁ。僕も知りたいんですけど(笑)、やることめっちゃ多いんですよ。

佐伯)例えば?

河鰭)例えば薪割りしますよね。で、山野草摘みに行ったりしたら加工があるんですよ。例えば「いたんぼ」。「いたんぼ」って何やったっけ・・・「いたどり」か。「いたどり」とかも皮むいてアク取りして叩いて塩漬けして保存とかなんですけど。それも結構な量を取ろうと思ったら、まず摘みに行くのに山に入らなないかんけん、結構な時間かかりますよね。戻ってきて、それ剥いて湯がいて塩漬けして、ってやって、またそれも時間かかるでしょうとか。で、畑もやっとったら草も引かないかんし、で草刈りも結構あるんですよ。家の周り、林道とかその辺の草刈りもあるし、地元の行事、お祭りだとか神事関係もあるし。そんで「イノシシ取れたぞー」って言われたら、そこに行くでしょ。捌いたら今度小分けにしてジップロックに入れて冷凍したりとか、まあ塩漬けして血抜きしたりとかいろんな工程があったりとか。お風呂も薪で炊いてたりとか。それしながら、古民家なんで冬になってきたら防寒用に色々家直したりとか。なかなかね、スローにならないんですよ!これが田舎暮らしの恐ろしいところで。先にネガティブキャンペーンしとこ(笑)。面白いとこはいっぱいあるけど、思った以上に忙しい。

佐伯)手をかけないといけない。

河鰭)そうです。ただ、手間かけただけ、何でもそうですけど、いいもんができるんです。

佐伯)なるほど。

河鰭)食べ物とかやっぱり美味しいですね、なんでも。

佐伯)さっき山野草も摘みに行くなんておっしゃってましたけど、どんなものが?

河鰭)たらの芽、コシアブラなんかも有名やし、あとはヨモギ摘んだりとかドクダミも美味しかったし。セリとか野蒜…

佐伯)ああ、季節を感じられますね。

河鰭)そうですね。自然って面白くて、日付関係ないんですよね。例えば去年は「3月何日にヨモギ摘んだ」っていうノートを見ても、今年は2週間ずれてるなあとか、普通にあるんです。でもなんとなく温かさとか気候の感じっていうのは、自然の方が正しいんですよ。

佐伯)カレンダーじゃなくて。

河鰭)まあ旧暦が正しいとかね、いろんな人が暦もいろいろ考えた方がいいんじゃないんかって言って田舎に住んでる人いるんですけど、サイクルが人間が作ったサイクルじゃないんですよ。太陽と土と空と風が作ってるサイクルに素直に伸びて新芽が出たり梅の花が咲いたりしよるんで、それを感じながら生きるって事ですね。

佐伯)そういう感覚、肌感って、こちらに移り住む前と後では全然変わって来ました?

河鰭)ああ、全然違います。何よりまず車で下りてきても、砥部あたりで「あ、人間のにおいがする」って…

佐伯)ウソでしょ!?

河鰭)なります(笑)、本当に。なんて言うんだろうな、洗濯洗剤のにおいとか色々あるやないですか、そういう…

佐伯)自然界にはないにおい。

河鰭)そうそう、人間が作っとるもののにおい、が多いなぁっていう。排気ガスとかも含めて。

佐伯)へ~~~~。

河鰭)山入って深呼吸すると、「あ~、山に帰ってきた~」って感じがすごいですね。

佐伯)そうなんですね…。

河鰭)俺何世紀に生きてるんだろうって思うんですけど、自分で(笑)。

佐伯)これはちょっと実際体験しないとなかなか、表現で伝わりにくいですね。

河鰭)そうですねぇ。結局なんて言うか山のものって味だけじゃないんですよ、味わいなんですよ。その味の向こう側にある、なんか「あわい」みたいなものがあるんですよ。なんて言うんだろう、その命をもらってるっていう感覚と、季節に触れてるって感覚と、自分の体が山の一部なんだっていう感覚があるんですよ。だって山で出来てるものを食べてるわけじゃないですか。ってことは山がもうダメになったら自分の体も多分ダメになるわけ。これは人間全部に関わることですけど。その感覚も一緒にいただきますなんですよね。だから余計美味しく感じるし、ありがたく思えるし。で、タイミング的に体がだいたい欲してる時期に欲してるものが出てくるんですよ。これが不思議。

佐伯)今ものすごくその言葉が刺さりました、味じゃなくて味わい。

河鰭)そうです、そうです。

佐伯)今からの時期だったらちょっと体をあっためてくれるようなものだったり。

河鰭)とか、血の巡りを良くするもの、ナツメだとか、あとイチジクもそうですね。イチジクも消化器系整えたり貧血の人に良かったり、女性の人、美容にいいとかよくいますよね。あとやっぱりフルーツが多いですね、リンゴ、久万なんかは特に。で、太るもんが多いんですよ、栗とか。

佐伯)あ、これからってそういう…

河鰭)食欲の秋でしょ。やけん太っていいんですよ。冬になって太ってく。イノシシ見よると、それこそ今時期に栗とか芋とかをわんさか食べて、脂がね、こんぐらい付くんですよ。今までほぼ無いのが秋に入って。こういうサイクルなんだなーって納得すると。

佐伯)で、冬場は猪鍋が美味しくなるっていう(笑)

河鰭)猪鍋がまた美味いんです。

佐伯)よく出来てますね。

河鰭)冬の猪食うと体あったまるんですよ、何でか知らんけど。

佐伯)あ、分かります。

河鰭)寝汗が出るぐらい。

佐伯)そんなですか。

河鰭)暑くしますよね。


 

 


[ Playlist ]
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The Breeders – Drivin’ On 9
Sonya Kitchell – Cold Day
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Bibio – Raxeira

Selected By Haruhiko Ohno


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