今週は「坂の上の雲ミュージアム」特設ブースからの生放送。あす10月18日は「反骨の軍人」水野広徳の76回忌ということで、日本経済新聞客員編集委員の足立則夫さんをゲストにお招きし、優れた軍人であった水野がなぜ反戦を唱えるようになったのかをテーマにお送りしました。2004年にジャーナリスト・桐生悠々について調べる中で出会った、水野広徳の原稿。以来少しずつ水野について調べ続けた足立さんは、昨年、水野がその思想を転じる契機となったヨーロッパ視察の足跡をたどるため、現地へ赴きました。その足立さんが今、私たちに伝えたいこととは…。


 

足立)歴史家のトーマス・フレミングという人が「銃後の国民」っていう本を書いてるんですけども、その人にたまたまインタビューできたので色々お話を伺ったんです。当時どんな状態だったのかっていうと、街には傷病兵とかあるいは物乞いの人が溢れかえっていて、当時ドイツでは第一次大戦が終わった後、革命が起きるんですよ。そこで殺し合いが起きてしまったために、死者がまた大勢が出てくる。そうすると平和な状態からは遠い、戦争が終わったのにまたそこで殺戮が起きる。あとはパンとか肉が配給制になったり、あるいはまだその時に米国と英国、アメリカとイギリスの艦隊がドイツの港を封鎖していて、ですから中に食料とか燃料がなかなか入らない。だから非常に生活がね、食料だけじゃなくて燃料も不足していて。それをおそらく水野は五感で体感して、すごくショックを受けたのではないかっていうのが、このインタビューした時のトーマス・フレミングの話でしたね。

佐伯)フランスのヴェルダンでもひどい有様であったのを見たであろう、そしてベルリンでもそれを体感したであろう、それが水野の転身に繋がっていったっていうのを足立さんも体感されたわけですね。

足立)そうですね。戦争が起きて勝っても負けてもですね、両方の国の兵士だけではなくて一般の人が被害を受けるわけで、第一次大戦は1600万人ですね。日露戦争では確か十何万人の人が亡くなってるわけですけど、その100倍の被害者が出たわけですね。日露戦争は二国間の戦争ですけど、第一次大戦の場合はですね、国と国の連合、その集まり同士がぶつかったというだけじゃなくて、殺戮する兵器の殺傷力がものすごく強くなっちゃった。それによって、それだけ多くの人が亡くなった、犠牲者が出たわけですね。ですから水野が行った時にはもうヨーロッパ全体の雰囲気としては「もう戦争はいい加減やめようよ」と。第一次大戦が4年あまり続いたわけですけど、「もう平和な時代を築こうよ」っていう、そういう雰囲気が一方であって。実際にヴェルダンとかベルリンに行ってみると、その戦争がもたらした大きな不幸っていいますかね、それを肌で感じられたっていうことはあると思うんですね。

佐伯)そうして感じて、それを実際に自らが軍人から転じて「反骨の軍人」と言われるようになる転機っていうのは?皆が感じていることだけれども、自分の身の処し方を180度変えられたっていうのは何故だったんでしょう?

足立)その時代はですね、進歩的な知識人っていうのは色んな圧力によって転向していくんですよね。埴谷雄高とか太宰治とかそういった人たちが、次々に国の圧力で国家主義へ自分の考え方を変えていくわけですけど、その転向の逆を行くわけですよね、水野は。そうすると、当局の圧力だけじゃなくて社会の同調圧力みたいなものも物凄く強かった中でこう行くっていうのは、一つは感受性が豊かだってことはあると思うんですけど、あとは受け止めたことをその心に沿った行動に移すって言いますかね、それが出来る人で。なおかつ行動に移すだけではなくて、周りからこう色んな圧力を受けると、どっちかっていうと忖度する人がね、今なんか大勢いると思いますが、この人は物凄く芯が強いっていいますかね。そのへんが、私なんか平凡な人間なもんですから、だからそれで「妙な人」っていう言い方をしたんですけどね。

佐伯)その芯の強さ、貫けたっていうところが水野ならではというところですか。

足立)そうですね。

佐伯)実際に、きょう参加されている方に先ほどお話を伺ったんですが、松山市の三津、水野の出身地である三津からお越しの76歳の男性なんですけどね、水野の本をリタイアした後に読むようになって、その自分の信念を貫き通した思いに感銘を受けたと。で、空気を読んで忖度がはびこる現代にあって、改めて水野の気概に思いを寄せているんだという方がね、きょうはお越しになってるっていう…

足立)その通りだと思いますね。もしその方が、水野の生地、生まれたところがどこか分かったら教えて頂きたい(笑)。なかなか分からなくて…。

佐伯)そうですか。足立さんの水野研究はまだまだ続きそうですね。今ヨーロッパでの取材などを終えて足立さんが全国の皆さんに伝えたいことっていうのはどんなことですか?

足立)水野広徳とか桐生悠々とかですね、反戦ジャーナリストが戦争に行っちゃいけないと平和主義を唱えて、アメリカとの戦争はやめた方がいいということも強く訴えたにも関わらず、私たちの社会は戦争に突入してしまったわけですね。じゃぁ水野のやってきたことは無駄なのかって言ったら、私はそうじゃないと思うんですね。彼が身をもって私たちに示してくれたのは、社会が戦争へと傾いた時にですね、一旦傾いてしまうとそれを元に戻そうとするとなかなか大変であると。どんどん戦争へ戦争へと全体が行ってしまう、国が行ってしまう。であれば、その戦争へと向かおうとした社会の芽というのがあちこちに出てきた時に、その芽を早く摘まないと戦争に行ってしまうっていうことを、水野はその身をもって私たちに示してくれてるという風に思ってですね。ですからそれは非常に大切なことだなという風に思います。

佐伯)おっしゃったように、現代って同調圧力が非常に強い時代だという風に言われてますけれども、そんな時だからこそ、自分の思いを貫いた水野の生き方に思いを馳せたいですね。


 

 


[ Playlist ]
Phoenix – Love For Granted
The Rolling Stones – As Tears Go By
Cat Power – After It All
Povo – Million Ways

Selected By Haruhiko Ohno


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