今週は「坂の上の雲ミュージアム」特設ブースからの生放送!小説「坂の上の雲」の主人公の一人、正岡子規にスポットを当ててお送りしました。というのも、今月は子規の生まれ月であり、亡くなった月でもあるのです。子規の人間力について多面的に語ってくださるゲストは、愛媛大学教育学部国語講座准教授の青木亮人さん。青木さんは、この番組の第1回のゲストでもあり、なんだか子規さんに結んで頂いたご縁を感じます。「ご縁」といえば、子規の周りには、いつも沢山の人々が集まっていたのですが、その理由を尋ねると…


 

佐伯)今はコロナ禍で、人と人との物理的なつながりっていうのが薄くならざるを得ないっていう中で、余計に「人の絆」っていうのはすごいなーって感じてしまうんですが、結核を患っていた子規の周りには、結核が不治の病と言われていた中で凄くたくさんの人が集まってきてたんですね。

青木)そうですね、あれは今から考えてもちょっと不思議といえば不思議で。当時結核って、発症するともうほぼ100%亡くなるっていう病気なのに、かなり虚子や碧梧桐なんかは看病とかで来てるんですよね。さっき「坂の上の雲ミュージアム」の学芸員の上田さんとも話してたんですけど、「子規庵」っていう東京にある、今から見るとそんなに広いとはいえない所に何十人って集まって…

佐伯)「密」ですねぇ。

青木)めちゃくちゃ「三密」(笑)。しかも結核って空気感染するので、皆さん、どれだけ対策をしてたかっていうのが…。してた人もいるかもしれませんけど、そんなにマメにやってたかなっていう気もするんですよね。

佐伯)時代的にもね。

青木)となると、(結核に)罹る確率というのはあったはずなのに、にも関わらず子規の周りに集まって話を聞きたいとか、子規と語りたいという人があれだけいたっていうのは、「罹るかもしれないけれども会って話したい」と思わせるものが彼(子規)にはあったのかなと。あとは彼の周りに何かそういう…これ高浜虚子なんかも書き残してるんですよ、何か“革命の熱気”って言うんですかね、「間違いなく新しいことがあの人の周りに今起きつつある」っていうのがすごい磁力みたいな、磁場みたいな感じで「そこに自分も居たい」っていう。20代とか30代の人だとそういう熱気みたいなのにすごく惹かれるものがあったみたいで。子規はなんかそういうの持ってたのかなっていうふうに考えないと説明の難しい集まり方かなとは思いますね。

佐伯)しかも集まっていた人たちが、後世我々が知ることになる名だたる人物。

青木)そうなんですよ。しかも当時ほとんど子規以外は無名に近くて。子規もそんなに全国的に知られていたかというと、そういうわけでもなかったっていう。でも「この人は間違いなく歴史に残る人だ」っていうのを、やっぱり虚子とかは若い頃から思ってたみたいですね。

佐伯)夏目漱石と正岡子規がとても仲が良かったというのは御存知の方も多いと思いますけど、他に「集まってたメンバーの中にこんな人がいたよ」っていうのはありますか?

青木)やっぱり高浜虚子と河東碧梧桐でしょうね。この二人が、しかも同じ松山出身で、この二人が近代俳句をほぼ、子規亡き後作った。しかも高浜虚子っていうのはもう近代俳句そのものってぐらいものすごい巨大な人で、これは僕の見立てですけど、芭蕉と同じぐらいの影響力を持ってた人なんじゃないかなと。虚子と子規はセットで考えてもいいと思うんですけど、それがこの松山から出て、その三人がずっと最後までいたっていうのは、お互い途中はちょっと色々ありましたけど、すごいなと思いますね。

佐伯)ほかにも、聞くところによりますと「野菊の墓」を後にしたためた伊藤左千夫も交流があった?

青木)そうですね。短歌の方で伊藤佐千夫とか長塚節。短歌関係なんかもけっこう人が集まってきて。

佐伯)あと画家の方なんかもいらしてたんですか?

青木)そうですね、中村不折っていう人とか下村為山っていう人とか。明治の初めに洋画を学びつつ、でも東洋のっていうんですかね、日本の絵のエッセンスもきちんと教育を受けつつっていうので、新聞とか雑誌とかそういうところで活躍した挿絵画家とか、そういう人達がけっこう集まったりしてたっていう。

佐伯)今の画家の方の名前なんか『鑑定団』でよく出てくるような、後に名作を残しているような方では(笑)

青木)そう、けっこう古書展の目録とか美術展の目録とかに売ってるような、なかなか僕はちょっと買えないですよ(笑)。

佐伯)そういう本当に才能を持った人たちが子規に吸い寄せられるように集まってくる。

青木)そうですね、なんで子規の周りに、そのあと後世に名の残る人が集まったんだろうって考えると不思議っちゃ不思議なんですよ。何かそういう新しいことができる時って、不思議に集中して出てくるんですよ。松尾芭蕉の時も、芭蕉の周りにすごい人たちがなぜか短期間で現れたり。革命って、そういう条件が揃うと起きるっていうのはありますよね。


 

 


[ Playlist ]
The Little Willies – Roll On
Tender Leaf – Countryside Beauty
Mighty Diamonds – Right Time
Roy Ayers Ubiquity – Sweet Tears

Selected By Haruhiko Ohno


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