今週、坂の上に訪ねて来てくださったのは、創風社出版代表の大早友章さん。地元にこだわり、文芸分野はもちろん郷土史からドキュメンタリーまで、35年間で約500冊を世に送り出してきました。数多くの作家との交流の中で印象に残る一人が、故・早坂暁氏。そのふれあいについて、こんなエピソードを語ってくれました。


 

佐伯)これまでたくさんの作家さん、著者の方々とお付き合いをなさっていったと思うんですけれども、「特にこの方とは」って言う方、どなたかあげられますか?

大早)そうですね、まあ色々ありますけど、早坂さんとの出会いは割と印象に残ってますけどね。

佐伯)早坂暁先生。

大早)そうです。夜ね、電話かかってきたんですよ、「創風社出版の大早さんですか?」って。「はい、そうです」って言ったら、「ちょっとお話がありますので、明日会えますか?」って。

佐伯)え、それまでは面識はなくて?

大早)全然ない。

佐伯)急に?ご本人からですか?

大早)はい。それで「あちゃ~」みたいな。

佐伯)なんで「あちゃ~」なんですか!?

大早)なんかとちったかなぁ、と思ってね(笑)

佐伯)え、とちるとは?

大早)だから早坂さんの著作権の問題だとか、何かに引っかかったんかなぁという。当然クレームだと思ってたから、「ありゃ~、なんか創風社として失敗したんかなぁ」という感じがあって、本当もうヒヤヒヤもので。そしたら「よく頑張ってるね」って言われて。「僕、君の所から本を出したいと思うんだけどどうだろう」って言われて、「え~!」みたいな。

佐伯)そうですか!じゃぁ、それ聞いた時はホント、「え?え~???」って。

大早)思いましたよ、「え~~~」って!

佐伯)もうその時点で早坂暁さんは大作家さん、ですよね?

大早)大作家というか、変な言い方ですけどすごく忙しかった時期は終わるぐらいの作家さんだった。完全なそのポジションがビシッと決まってるような。まぁ(電話が)かかってきた時は本当に「失敗した」と思ったね(笑)。どうしようかと思ってました。

佐伯)ところが「本を出したい」と。どんな本を、っていう構想は既にあったんですか?

大早)ある程度ね。それは今まで書いた本の、エッセイみたいなものをまとめる…だから全部はなかったんだけど、「こういうのをまとめたいんだけど」っていうリストみたいなものはありましたね。まぁ、もうね、選ぶような余地はないですよ、「ありがとうございます!」って(笑)。

佐伯)そうしてまとめられた本が?

大早) 『へんろ曼荼羅』ですね。

佐伯)あの『へんろ曼荼羅』!実は、ラジオを聴きの皆さん、この「へんろ曼荼羅」というのは、以前、南海放送のアナウンサーが朗読をリレーでしていくっていう番組をしていた時がありまして、その時に「『へんろ曼荼羅」を是非読ませていただきたい』ということで一度、もう15年ぐらい前ですかね、大早さんにお願いに上がって、読ませて頂いて…。あの本がその時の、早坂さんが出したいって言った本…

大早)そうです。

佐伯)そうですか!中身が本当に故郷のことであったり、それからやはり戦争のことであったり。私ももちろん読ませてもらったんですけれども、私が読んだパートは…妹さんと実は血が繋がってなかったんですよね。で、それは知らなくて血が繋がってる兄妹だから、ちょっとこう思うところがあったんだけれどもそれをお互い明かさずにいたところ、実は血が繋がってないということを言われたので、「会いたい」ということで。早坂さんが本土の方にいらっしゃったんですよね。で、(早坂さんに)会いに妹さんが瀬戸内海を渡った時に原爆に遭ってしまってっていう…もう本当に胸が苦しくなるようなパートだったので、よく覚えてるんですけれども。

大早)ありがとうございます。早坂さんにとっても妹さんは、やっぱ大きな存在だったですね。

佐伯)ですよね。そういう物語もちりばめられている『へんろ曼陀羅』っていうことで、一冊がものすごく濃厚なというか、凝縮されたようなものだったように思うんですけど。

大早)早坂さんは郷土愛がものすごく強かったんでね。だからもちろん愛媛県とか松山市みたいなとこもあったけど、特に北条に対しては、なんていうんですかね、ずっと「何とかしたい」「何とかできることがあれば何でもしたい」みたいなとこもあって、本当に地元愛の強い人だったよね。

佐伯)じゃ、あの本を、そのお声がかかってからどのくらいの期間でできたんですか?

大早)もう原稿的には出来てましたね、半年ぐらいだったんじゃないですかね。ただ割と、来られた時のやりとりになるんでね、他の人よりは時間かかりますよね。いわゆる打合せみたいなものは本当はこっちが行かなきゃいけないんでしょうけど、そんな余裕もないから(笑)。来られたり、「いつ行くよ」っていう話を受けて「はい、分かりました」みたいな感じですよね。だから、こっちもまあ結構緊張もしてますからね、「先生、来てください」みたいなことも当然無いし。

佐伯)打ち合わせはだいたいどういう所でなさる?

大早)喫茶店とかね、道後に常駐というかよく泊まってるホテルがあって、そこのロビーとかっていうのがあるんだけど。まあ、たいてい喫茶店あたりで打ち合わせをするんですけどね。緊張しましたね。

佐伯)そうでしょうねぇ。

大早)まあ、コーヒー飲んだりするじゃない。で、先生はそのまましばらくそこにいたりするから、「じゃぁ」って打合せが終わったら帰るじゃないですか。で、帰る時に「なんだろう、お金…こっちが出さなきゃいけないのかな」とかさ(笑)。ま、おごってもらおうとは思ってなかったけど、「割り勘でいいのかな」とか思うじゃん。そしたら先生が、「いいよいいよ」って。で、結局おごってもらうんですよね。

佐伯)なんかイメージですと、まぁそういう場合は出版社の方が支払うっていう…

大早)そうそう、本当にそうなんです(笑)。変ですけどね、素人の人で外で打ち合わせしたら、そのときの都合でね、「はい、じゃあ今日は僕(お勘定は)持ちます」 なんていうのがあるんですけど、早坂さんにはね、もう全部おごってもらう。夜、お酒飲みに行くのもなんか、「いいよ」って言われてね、全部おごってもらう(笑)。

佐伯)お酒飲みに行ったりもされたんですね。

大早)こっち来られたら「今から街に出るから、どこどこ行くから」ってね。いつもじゃないですけどね。で、呼ばれて行ってお話するじゃない。高そうなとこだったんでね、「どうしようかな」って思ってたんだけど、「いいよいいよ」って言われて、「あ、そうですか」って(笑)。

佐伯)ホッとしたりして(笑)

大早)ホッとしたというか、「こんなんでいいのかな?」って思って(笑)。

佐伯)そういう時は、もう打合せじゃなくてどんなお話されたんですか?

大早)色々です、本当に。たとえば僕らの、まあ言ったら出版についての助言みたいなものもあるし、やっぱ「頑張んなきゃね」みたいな話が多いですよね、基本的に。ただ、まあカラオケしたりとか、日頃の時事的な話とか…

佐伯)カラオケも!?

大早)早坂さんのカラオケは聞いたことないけど、周りにいた人が歌ってるみたいな店でしたからね、それを聞きよったりしてね。気さくな人なんです、そういう意味では。最初すごい緊張したけど。途中でもう慣れたんですけど、やっぱり冗談を言って肩をたたき合うようにはならなかったですね。

佐伯)いや、でも素敵な時間ですね。

大早)そうですね。僕としては、まあ偉い人と会うのは割と苦手なとこなんですけどね。やっぱああいう機会が持てて、自分の一生の中でも一つの記憶としては重要になるから、ありがたかったですね。

 

 


[ Playlist ]
The Beatles – Yellow Submarine
Dan Hicks & The Hot Licks – Strike It While It’s Hot
Bell & Sebastian – Waiting For The Moon To Rise
Nick Drake – Place To Be
Madeleine Peyroux – I’m All Right

Selected By Haruhiko Ohno


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