今回は「坂の上の雲ミュージアム」から、番組初の生放送!ゲストは、総館長の松本啓治さんです。明治の人たちの生き様が大きな魅力である小説「坂の上の雲」ですが、あまたの登場人物の中で、松本総館長が注目する人物の一部を伺うと…
佐伯)小説「坂の上の雲」には、すごい人数の登場人物がいるということなんですけれども、その中で松本総館長が、とにかく思い入れのある登場人物を何人か教えていただけますか?
松本)登場人物と言いますとね、僕、数えたことあるんですけども1100人。
佐伯)え~~~っ、そんなに!
松本)いたんですね。それを数えてね、リストにしてあるんですけど。
佐伯)スゴイ!
松本)その中でやっぱ好きな人物というと結構多いんです。明治という時代は、やっぱり覚悟を持った人、そういう生き方をされた人が多いんですよね。その中でのかっこいい生き方ですかね。そして自分の功績を自慢したりですね、実権を追求するような人、蓄財に走った、お金儲けに走ったような人というのは好きじゃないですね。主人公の中では、やっぱり松山の人はね、僕もそうですけども好古さんが好きじゃないんかなと。あと子規さんでしょうかね。まあそうなんですけども、その他の人物として僕が挙げるのは、柴五郎という軍人さんがいるんです。
佐伯)柴五郎?
松本)柴五郎さんは、明治維新の時に最後まで抵抗した会津藩の人なんですね。それが秋山さんと陸軍士官学校では同期だったんですね。その人が、明治33年ですから1900年になりますけど、北京の外国公使館というのがあって、そこを襲撃されるという義和団事件。
佐伯)ええ、ええ。
松本)なんか名前は聞いたことありますよね。そこの駐在武官の柴五郎中佐が指揮を取ってですね、各国の大使館員とかそこにいた女性の人たちを守るわけですね。その時の日本兵の勇敢さと礼儀正しさというのが、世界から大絶賛されるわけですね。戦いの後も柴五郎は、日本軍が略奪や虐待をしないように命令を出しているんですね。そして被害を受けた現地の中国人まで保護をしている。で、ロシアもですね、その時に鎮圧に参加していたんですけども、ロシアの中の将軍でリネウィッチ将軍というのがいるんですけど、その人は自ら略奪に参画してるんです。そういう将軍がいるかと思えば、柴五郎のような人もいて。そのことが逆に柴五郎の行動の素晴らしさというものを際立って輝いて見せているように思えるんですね。当時ヨーロッパには日本人はあまり知られていなかったんですけども、最初に知られた日本人という風に言われたそうです。
佐伯)そうですか。誇り高き…
松本)そうですね。その後で日英同盟というのが起こるんですけど、その後押しになったとも言われるんですね。
佐伯)はい。
松本)さらに、自分の功績を隠すというような人がいるんですね。これは、四国の中の高知に島村速雄という人がいるんですね。この人は、秋山真之の上司になるわけなんですけども。日露戦争の中で本土に送られてくる報告文というのがあるんですね。戦争の状況というのはこうなっていると、今こういう状況だというのを送ってくるんですが、それがもうあらゆる文章が常に名文なんですね。で、島村速雄が書いたんだろうということで、島村速雄を称える記事が出るわけですね。すると島村速雄は驚いて「いやいや、これは俺じゃない。部下の秋山真之が書いたんだ」と。それを、同僚の小笠原長生という人がいるんですけども、その人に「訂正記事を出してくれ」と言うわけですね。
佐伯)へ~、いい上司ですね~!
松本)本来ならね、上司ですから、部下のやったことも自分のものだと思ってですね…
佐伯)そういう人もいますよね(苦笑)
松本)そういう人もいるんだけども、「いやいや、そんなこと自分のもんじゃない」と言って。その後にもですね、各界の著名人の人気投票というのがあってですね、海軍の中では島村速雄が一位になったんですね。
佐伯)ほ~。
松本)その時もね、自分はそういう評価に値しない人間だと。記念品もあったんですけど、それすら受け取らないと。
佐伯)めちゃくちゃ謙遜されてる。
松本)いや~、すごい謙遜されてる、そんな人がいたんだなあという。軍人さんというのはやっぱり自分がいつ死ぬかも分からないというんで、ある意味覚悟を持った人って多かったんですよね。そういう中で際立って、やっぱりその島村速雄という人は凄かったなあというふうに思います。もう一人ね、日英同盟の中で非常に尽力した外交官として林董という人がいるんですけども、これも戊辰戦争の中では反政府側だったんですね。その中で五稜郭までずっと一緒に行って立てこもって戦った後、投降、降伏をするわけですけども、その時に捕らえられて。その中で薩摩藩の黒田清隆という人が、「林董というのは英語が上手いと言うじゃないか」と。英語が上手いというのは、すごくその当時は重宝されていたので、林董だけを助けようと思うんですけども、林董が言った言葉がですね、「皆が助かるんならいいけど、自分だけ助かるんは御免だ」と。そう言って断るんですよ。これもかっこいいですよね。ひょっとしたら死刑になるかもしれないんですよ。そんな中で「自分だけ助かってもいい」と思うのが今の我々ですよね。それをね、「皆助からんとダメだ」と言って…それで皆助かるわけですよ。
佐伯)そうなんですね。
松本)かっこいいなぁ~って拍手を送りたいんですけどね。そういう人物がいたというのは驚きですよね。まだたくさんいるんですけど。
佐伯)お話を伺ってますと、総館長はあれですね、「俺の手柄だ~!」みたいにどんどん行く人じゃない人がお好きなんですね。
松本)そうですね、あんまり自分で自慢したがる人いうのは、あんまり好きじゃないですよね。
佐伯)でも自慢したがる人っていうのも登場人物として出て来たりします?
松本)あのね、あんまり言うと語弊があったりするんですけども、司馬遼太郎さんも嫌いのようですしね、半藤一利さんという人も嫌いと言われるんですが…
佐伯)その人とは?
松本)山県有朋という人なんですよね。この人は長州の人なんですけどね、陸軍を作った人だとも言われているんですけど、権力主義なんですね。そして、金銭大好き人間なんですよ。
佐伯)それは!(笑)
松本)お金が大好きなんですよね。それで、まあ蓄財も精いっぱいやっていくわけなんですけども、天皇陛下でさえ利用しようとしたようなこともあるということを半藤一利さんが書かれてますけどもね。常に自分を権力の場というものに置いて、そこから絶対離さないぞ、というような思いを持っていた人の様なんですね。でもそれだけではなくて、そんな悪い面だけではなくって、今の官僚主義というのを作ったのは、この山県有朋の影響なんですね。自分ではあまり何もできないかもしれないけど頭のいい人をいっぱい集めて、そこで官僚機構というのを作って、この人たちに日本の政治というのを任してしまうというのはうまい方法ですよね。
佐伯)そういう功績もありつつも…
松本)更に功績があるのは、この人は短歌が上手かったんですね。それと庭園を作るのが上手くって、山県有朋が作った庭園というのが結構残ってます。京都には無鄰菴という結構質素な、派手な庭ではなくって「すごいなあ。こんな素晴らしい庭を、山県有朋は作ったのか」と思うような庭があって。小田原にもあってね、古稀菴というのがあるんですね。日本中に色んな所に、けっこう10カ所ぐらいあったんじゃないかな。そういう「いい面」もありますからね、悪い面ばっかりじゃない。人間は必ずどこかに「いい面」がありますからね。
佐伯)今のお話を伺った上で、改めてその登場人物が出てくるシーンを読むと、さらにまた前とは違った読み方ができるかもしれません(笑)
[ Playlist ]
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The Radio Dept. – What You Sell
Norah Jones – Toes
The Thrills – Don’t Play It Cool
Prince – Reflection
Selected By Haruhiko Ohno