今週、坂の上に訪ねて来てくださったのは、シネマニア宇和島代表の田部司さん。宇和島市で営むメガネ店の2階に「タナベ昭和館」なるスペースを設け、映画全盛期の宇和島や愛媛ゆかりの作品・人物を展示されている、まさにシネ(・・)マのマニア(・・・)!特に、愛媛出身で「時代劇の父」と言われる映画監督・伊藤大輔に造詣が深いということで、かなりマニアックなエピソードも披露して頂きました。


 

佐伯)伊藤大輔が「時代劇の父」と言われるようになった由来、これはどういうものだったんでしょう?

田部)一番にはね、大正12年に「女と海賊」っていう時代劇があるんですよ。これは野村芳亭さんが映画監督で初期の松竹の撮影所長なんですよね。その映画で、脚本が伊藤大輔なんですよ。この時に、それまでの時代劇じゃなくて“新しい時代の劇”であるというので、「新時代劇」と名付けたんですよ。

佐伯)それまでの映画って、さっきもおっしゃってたように特に話の内容もないようなものであったり…

田部)歌舞伎をそのまま映してるとか、あとは舞台中継をただずっとしてるとか。ま、ストーリーもそんなにはないですね。

佐伯)で、撮影というのは?

田部)これ「時代劇の父」にも関連するんですけど、この人は伊藤大輔をもじって「移動大好き」とも言われました。

佐伯)移動大好き!?どういうことですか???

田部)それは「移動撮影が好きである」ということなんですけども。

佐伯)移動撮影?それまでは移動せずに撮ってたってことですか?

田部)固定カメラでずっと、もうワンアングルというか。

佐伯)あ、そうなんですね。

田部)だから「時代劇の父」というのは色々な要素があるわけなんですけど、ひとつにはそれがあって。

佐伯)今まで固定カメラで撮ってたものを、移動しながら撮る手法を取り入れた!

田部)そうですよね。

佐伯)これ革命的ですね!

田部)革命的です。瀬田の唐橋かな、あれなんかも…瀬田の唐橋っていう長い橋があるんですよ。あれを板妻(坂東妻三郎)さんの映画やったと思うけど、延々と斬りながら走るんやけど、これずーっとトラックやってるんですよね。

佐伯)あのレール敷いたところをビーって行くような感じなんですか?

田部)いや、そういうものが無い時代に、そういうことをやってるっていう。

佐伯)あ、無いけどやってたんだ!人間が一緒に移動しながら撮ってたってことですね?

田部)そうです。それと、大正か昭和時期のトリオの項に、「伊藤大輔・唐沢弘光・大河内傳次郎、この三人をもってトリオと言う」と出てたらしいんですけども。もともと映画やってた伊藤さんの意を受けた唐沢弘光さんって天才的なカメラマンがいたんです。大河内さんが動くと共に首にカメラぶら下げていくんです。「長恨」っていう短い12~13分の映画が発掘されてますけど、大河内さんと伊藤大輔の第一作です。あれも、首からカメラをぶら下げて、役者が延々と立ち回りをする。最後の13分だけ残ってるんですけど、ずっとカメラマンが追いかけて行ってるわけですよね。

佐伯)今までは固定カメラで撮ってたものを移動撮影することによって、何が描けるようになったんですか?

田部)画期的やったいうのが、さっきの映画だと、ストーリーは傷ついた自分の弟とその恋人を助けるために、大河内さん演じるお兄さんの方が延々と大立ち回りをやるわけです。そこで1分でも時間稼ぎをすれば、弟の方は足も斬られてケガしてるんだけど、ちょっとでも遠くに逃げられるんですよ。その時に言われたのが「人間の声が聞こえた」ということですよね。

佐伯)その立ち回りを移動撮影することによって?

田部)伊藤さんの場合は無声映画で声が出ないんですよね。だけど、例えばお兄さんが弟を呼ぶ声とか、弟は兄の声が聞こえたとか、立ち回りをずーっと延々とやるわけですけど、それで本当に聞こえてるように見えるという。そういうことは、かつての映画には無かった事なわけですよね。

 

 


[ Playlist ]
Hindi Zahra – Fascination (Album Version)
Donny Hathaway – Love, Love, Love
Bruce Lash – Pump It Up
Asylum Street Spankers – Going Up To The Country, Paint My Mailbox Blue
The Colour Field – Thinking Of You
Belle & Sebastian – There’s Too Much Love

Selected By Haruhiko Ohno


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