今週、坂の上に訪ねて来てくださったのは、坂村真民記念館館長の西澤孝一さん。じつは、西澤さんの奥様が真民さんの娘さん!ということで、ご家族として晩年の真民さんと共に過ごされた方です。そんな西澤さんが語る真民さんの姿には、新たな気づきが散りばめられています。


 

佐伯)西澤さんは去年の11月、「坂村真民箴言詩集 天を仰いで」を出版されたわけなんですけれども、この「箴言」というのは自分に向けたということですか?

西澤)そうですね、ちょっとあまり使わない言葉なんですけども、教訓あるいは自分への戒め。ラジオだからちょっと字をお見せすることができないんですけども、いわゆる鍼灸=はり、とありますよね。あの時に使うその鍼という文字の竹冠なんですね。鍼灸の場合は金偏なんです。どちらも同じ「針」なんです。ですからこれは「竹の針」なんです。昔、中国では金の針ができるまでは竹で針を作ってたんですね。その針で自分を刺して自分を戒める、そういうところから箴言という言葉ができたんです。坂村真民の場合は、いつも自分に向けてですね、「この生き方でいいのか」、そういうのを自分に問いかけながら、そしてその答えとしてこういう箴言詩というのもいっぱい書いてるんですね。この本は、そういう真民の生き方というものを最もよく表している箴言詩の中から、代表的なものを87編集めて編集した詩集なんですけども、悲しい時とか苦しい時にですね、この本を読むとなぜか心が休まり、そして自分を冷静に見つめて「これではいかん、もう少し頑張ってみようか」と思う気持ちになると思うんですね。坂村真民の自分を厳しく戒め、そこから前に向かって生きようとするそういう姿の詩もあります。前に向かって生きる希望というものを感じる詩も、実はこの中に入っています。

佐伯)読ませていただくと、真民さんがあれほどの詩人でありながら晩年になっても「まだまだだ」というような、自分をまさに戒めるような詩がたくさんありまして、ちょっとそれを前に自分も反省すると言いましょうか、身が引き締まる部分もありました。割と皆さん、その詩によって励まされているから、みんなに向けて書かれている詩なのかなと思ったら、自身に向けての戒めがまた遍く多くの人の心を動かすというのも凄いですよね。

西澤)そうですね。こんなに真民さんというのは、自分に向かってこんなに厳しく生きていたのかっていうところで、「自分も、じゃあもうちょっと少しそういう頑張ってみようかな」と。このような真民のような生き方っていうのは絶対に、私なんかも到底できない厳しい生き方なんですけども、でもこういう気持ちを少しでも持ちたいなという思いはありますよね。

佐伯)その中からいくつかご紹介させていただこうと思います。まずは「天を仰いで」。まさにこの詩集のタイトルにもなっている作品です。これが86歳の時の作品なんですね。
「心が小さくなった時は 天を仰いで 大きく息をしよう 大宇宙の無限の力を 吸引摂取しよう」
という詩なんですけれども…

西澤)この詩はですね、86歳というのがちょっと特別な年なんですね。というのは真民の妻が脳梗塞で倒れて、そして大きな手術をするわけですね、頭の。その手術をした翌日にこれを作ってるんですね。ですから心が小さくなった時っていうのは本当に妻のことを思ったら「どうなるんだろう」と。「もし妻が亡くなったらどうして生きよう」とか、そういう自分の思いを重ね合わせて、でも天を仰いで大きく息をして、自分自身に「頑張って行けよ」という、そういう気持ちを持たせてくれる、そういう思いを書いた詩なんですね。

佐伯)その「大きく息をしよう」というのが誰かに呼びかけているのではなく、自分に…

西澤)自分にですね。少しは心を落ち着かせ、そしてもう少しゆったりとした気持ちになりたいという、非常に動揺してる時なんですね、真民の心の中としては。

佐伯)実際にこの詩を目にして、私単純なので、大きく息を吸ってみたんですよ。すると「あーそういうことか」みたいな。こう何か感じるものがありましてね。本当に共感できるなと思ったところなんですけれども、是非ラジオをお聴きの皆さんも今大きく息をしてみてください。

西澤)そうですね。

 

 


[ Playlist ]
April Showers – Abandon Ship
Beth Orton – Love Like Laughter
The Beatles – For No One
Booker T – Watch You Sleeping featuring Kori Withers
Anita O’Day – You Turned The Tables On Me

Selected By Haruhiko Ohno


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