今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、社会福祉法人「愛媛いのちの電話」理事長で心理カウンセラーの武井義定さん。社会福祉法人として40周年を迎える「愛媛いのちの電話」では、無償のボランティア相談員が約90名で電話相談活動をしています。身近な人には相談出来ない悩みを抱えた人が電話を通して相談員とつながることで、生きる意欲を自ら見出せる
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
武井)「きく」というその言葉、よく使いますけれども実は漢字で表しますと三つの漢字で表現するんですね。一つには言偏(ごんべん)の「訊く」、一つには門構えの「聞く」、一つには耳偏(みみへん)の「聴く」、その三つの「きき方」というものがあるんですね。で、言偏の「訊く」っていうのは、訊問の「訊」の意味ですけど問い詰めていくわけです、何で何で何でというふうに。それ実際に佐伯さんと、その違いがどんなものなのかやってみましょうか。
佐伯)あ、いいですか?
武井)はい。
佐伯)三つの「きく」の違いですね。
武井)はい、私がワーカー=相談を受ける側で、佐伯さんがコーラー=相談する側になってください。だいたい電話相談というのは困ったこととか悩んでることを話していきますので、佐伯さん、実際に今悩んでらっしゃることとか困ってることから話を始めていただけませんか。
佐伯)はい。困ってること…、そうですね、よく同僚と話すのが、何か大きな仕事が控えているときは、もう数日前から、別にそのことを考えながら寝たわけでもないんだけれども、何か夜中に何度も目が覚めて眠りが浅くなってしまって、ときには夢にまで出てきて。失敗するような夢ですね。
武井)ああ、そうですか。
佐伯)はい。それで日中、睡眠が足りてないわけですから眠たくなってしまって、なんか本末転倒だなっていうか、そういうようなことが最近あるななんて思ってるんですけど。
武井)だけど佐伯さん、なんでそういうふうにですね、いろいろ今まで経験があるのに、どうしてそんなにびくつくようなことになるんでしょうね。何か自分で何か問題があるんでしょうかね。
佐伯)うーん、なんでしょうね、やっぱなんか逆に歳を重ねて集中力とかが長続きしなくなってきたんで失敗するんじゃないかなって…
武井)まあそれはわかりますけども、度胸がついてるはずですよね。
佐伯)どうしてなんでしょう…
武井)こういうふうに問い詰めていくことが、この言偏の「訊く」なんですね。
佐伯)あ、いま私尋問されたんですね、「何であなた悩んでるの」って。
武井)そうそう。
佐伯)今の私の正直な気持ち言っていいですか?
武井)はい。
佐伯)「いや、それがわかんないから困ってるのに!」っていう(笑)
武井)だけど日常会話というのは、この言偏の「訊く」と、それから次の門構えの「聞く」で大体9割占めてるわけですよ。9割以上かもしれません。もう一度、佐伯さん、さっきのお話を言ってみてください。
佐伯)悩み、大きな仕事が控えていると、数日前からそれが気になってか
武井)ふーん
佐伯)夜中に何度も目が覚めてしまうんですよ。
武井)はぁはぁ。
佐伯)え?で、目が覚めて睡眠不足になるので
武井)ふん
佐伯)日中の仕事が何かおろそかになるときがあったりして…
武井)ふうん。…というのがこれ門構えなんですね。だいたい「ハ行」で済むんですよ(笑)
佐伯)確かに!「はー」とか「ふーん」とか(笑)
武井)「はぁ」「ほぉ」「へぇ」というふうな、そういう「ハ行」で受け答えをする。ですから、右から左へともう流れていってるんですね。
佐伯)なんか「本当に聞いてくれてる?」っていう…
武井)暖簾に腕押しとかね。
佐伯)そうですね!
武井)だから「あなたのことに関心を持って話を聴いてますよ」「あなたのことに心を向けてますよ」っていう、そういう聴き方が耳偏のなんですね。じゃあもう一度佐伯さん、さっきの佐伯さんの悩み事を私におっしゃってください。
佐伯)はい、大きな仕事が控えていると、数日前からそれが気になってか夜中に何度も目が覚めてしまって、日中なんか眠たくなってしまって、仕事にちょっと支障があるようなことが…
武井)なるほど、佐伯さんが最近困ったことは、翌日大きな仕事を控えてると、そのことが非常に気になって、夜眠りが浅くて、いざ仕事の場面になってくると、十分眠ってもないもんだから、なかなか集中できない。そういうふうな悩みを持ってらっしゃるわけですね。
佐伯)そうなんですよ。
武井)というふうに、オウム返しというんですけども、その方の悩みをもう一度、その方の言葉を使ってお返しをするんですね。そのことによって「私は話を聴いてもらってる」という合図に、サインになるんですね。
佐伯)はい。伝わったんだなっていう感じがします。
武井)それを門構えで聞き流すと「本当にこの人、話を聞いてるのかな」って。
佐伯)そうそうそう!
武井)で、また言偏で訊いてしまうと、「なんか私批判されてるな」というふうになりますから、もう心を閉ざしますよね。
佐伯)はい。
武井)それを、相談事を困り事をとにかくまず…フィードバックというふうに言うんですけども、同じ内容の話をお返しをする。そうすると「私の話を聞いてくれてるんだな」というふうに思うし、私の心が「鏡」になるんですね。ですから佐伯さんとの合わせ鏡になるんですね。で、私の鏡の中に佐伯さんの悩みごとが映って、「私はこういうことで悩んでるんだ」。そうすると、悩み事がイメージとして見えてきますので、どういうふうにすればいいのかな、ああいうふうにすればいいのかなということで、自分で解決の糸口を見出すことができるように、不思議となることがあるんですね。
佐伯)確かに、なんでしょう、本当にもうすごくつらいときに聞いてくれるだけで気が楽になることがあるじゃないですか。
武井)そうそうそう。
佐伯)それをしかもその人が私の言ったことを返してくれることで「この人はそれを受け取ってくれた」という感覚を持つことができますよね。
武井)私のことを全然批判はしてない、否定はしていない。私のことを心配してくれてるんだな、思ってくれてるんだなって。言うならばその温かい思いが伝わっていくわけですね。その温かい思いが伝わるということがとてもとても大切なんです。相談の電話のときも、実際対面での相談のときにも。
[ Playlist ]
Seu Jorge – Rebel Rebel
Prince – Reflection
Bibio – C’est La Vie
Selected By Haruhiko Ohno