今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、直木賞作家の今村翔吾さん。中世の伊予の豪族・河野氏の中興の祖と称される河野通有(こうのみちあり)を主人公にした小説「海を破る者」を手掛けられたご縁で、このほど伊予観光大使に就任されました。じつは今村さん、他の地域でも観光大使を務められているほか、書店経営もされています。今週と来週の2回にわたって、「海を破る者」の制作秘話をはじめ、「神風だけではなかった」「作家視点の文化の掘り起こし」「歴史を現代とつなぐエンタメ」という3つのキーワードで、熱い想いを今村さんに語っていただきます!

番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)河野通有に目をつけられたっていうのは、どういう経緯だったんでしょうか?

今村)創作のところのブロックでも話しますけど、結局まずは元寇を書こうと思ったんですね。

佐伯)元寇を。

今村)元寇を書こうと思ったんですよね。そのときに調べてる中で、何か訳わからん行動してる奴が一人いるなと。

佐伯)はい。

今村)有名なのが「河野の後築地」うしろつきじとかついじ」とかっていうんですけど、要はせっかく何年もかけて防波堤みたいに石垣を積んで浜辺に作ったのに、河野だけその石垣の前に布陣するっていう謎の行動をとるんですよね。これを当時の御家人の記録とかで言うと、「河野は勇敢さを示そうとしてたんだ」とか「無謀だ」とか、「そこまでして手柄を取りたいのか」みたいなことが書かれてるわけなんですけど、そうじゃない理由やったら何だろうって考えたときに、逆算すると「こんな物語が…」っていうのが、全部逆算でぶわって思い浮かんできたんですね。

佐伯)へえ~、そうなんですね!

今村)何をしに石垣の前に出たのか、これが全く「戦うため」と違うことだったならば、どう
いう人生を送ればそこに、この鎌倉時代の御家人が、意識がチェンジされていく過去があったかってことを考えていったって感じですね。

佐伯)は~、小説家ってそういう思考回路というか…、そうなんですね!

今村)調べていったら、そこにいろんな一族の葛藤とかがあるんで、この葛藤も元寇の手前で急激にまとまってる、お家争いもまとまってるんで、その何かピースがあるとしたらどんなんだろうって考えたりとか、いろんな場面を広げて世界に目を向けたりとかしてる中で、こういう物語がどんどんどんどん構築されていったって感じです。

佐伯)実はこちらの番組で河野通有、河野氏ということで取り上げたんですけれども、先ほどお話に出た「後築地」の話もしてもらいましたし、そういう史実はもちろんあるわけですよね。で、私なんかそれを聞いて「ああ、そうだったんだ。勇敢だったんだな」とか、あの「中興の祖と言われています、この活躍から」という話を聞いて「なるほど」と終わるんですけれども、そこから「いや、そうじゃない理由は…」っていうふうに考えていかれる?

今村)そうね、やっぱりちょっと奇異というか奇妙というか、感じたんですよね。

佐伯)へ~、そうだったんですね。

今村)だからやっぱり「これに対して物語があるとすれば」っていうのが、やっぱ僕の考え方ですね。

佐伯)そうでしたか。で、こちらの神風が吹いて…元寇ね、モンゴルを退けたっていうのもなんか教科書で習ったような気がするんですけど、それもそうじゃないぞと。

今村)そうじゃないね。だから教科書が間違ってたよね、長い間。間違ってるとも言い切れんねんけど、神風的な台風が来たんは事実なんですけど、それ以前にだいぶ戦ってますからね、鎌倉御家人。

佐伯)でもそれも実は私、この本を読んで初めて気づくっていう。

今村)そうでしょう。攻められて守ってるどころか、人の船に乗り込んで戦ってますからね。やっぱりね、ちょっとね、モンゴル軍たちも、ちょっとびびったみたいね、この戦意の高さに。

佐伯)今まではそこまでではなくて攻めてきたのに

今村)そうそうそう。

佐伯)なんだこの国はという。

今村)モンゴルって東は日本が最東端ですけど、最西端ってどこかって知ってます?

佐伯)え?

今村)最西端はね、ポーランドなんですよ。ポーランドから日本まで戦ってるんすよ、あの人ら。

佐伯)めちゃくちゃ強大な。

今村)そう。だからドイツの手前まで行ってる。で、ポーランドの騎士団、ヨーロッパ諸国の騎士団連合が戦うんやけど、一日で壊滅させられてますからね。

佐伯)それほど強い!

今村)しかもそんな強いモンゴル軍を日本は2回にわたって退けたと。退けた退却中に台風にあって余計にとかっていうバージョン、1回目はそうだったりとか、そんな感じかな。だから強いんよね。

佐伯)それはやっぱり志の高さなんです?

今村)なんだろうね?けどね、僕ね、なんかね、意外と武士…この当時の鎌倉武士という荒っぽいっていうのもあるんですけど、日本人の性質なような気もするんですよ。

佐伯)と言いますと?

今村)これね、イギリスでも同じようなことが起こると思うんですよね。たぶん第二次世界大戦のグレートブリテンの戦いとか、本土攻撃に対してすごい防衛力発揮するっていうか、一気にスイッチ入るのが日本人かなと、島国だけに。

佐伯)いや思ったんですよ、どちらも島国ですよね。

今村)島国ってそんな傾向があるんかなっていうのは、歴史見てると思いますね。

佐伯)へ~、面白い。

今村)だから陸続きに隣に国があると、普通に往来もあるし、仲良くもなるしっていう良い方にもふれるんですけど、悪いときにも、いうたらそういうきっかけであんまりこうやられても免疫力が低下してるっていう。

佐伯)は~。

今村)日本人は、たぶんそこに対してアレルギーがめちゃくちゃ…いいも悪いもあるんだと思う。今のこのインバウンドでどうやこうやっていうのも含めて。

佐伯)ああ、そうですね。その島国日本の、さらに島国であるこの伊予の国。

今村)そう。

佐伯)の、河野氏なんですが、一方でこの伊予の国、踊り念仏で知られる一遍上人も、この小説には登場しますね。

今村)そうなんですよ。彼の一族なんですよね、河野一族。

佐伯)はい、河野一族。

今村)おじいちゃんの弟の子供かな。って言うことになるんですけど、ほんまにね、一遍上人ね、これ僕知らなくって、言われてみたら確かに河野氏やなと思ったけど、同時期の人物って何か繋がってなくて、調べてる中で一遍上人出てきて。やっぱりこの物語は主人公たちだけ、主人公と脇役だけじゃなくて、もう一人必要やってやっぱ思ってたんですよね。

佐伯)ほ~。

今村)それは、それこそ「坂の上の雲」の正岡子規のポジションがいると思ったんですよ、僕は。だからそれも愛媛の話で思いついたんですよね。「坂の上の雲」ってどうなってたんやろと思ったら、やっぱ一つは秋山兄弟とは別の俯瞰した見方とか残った国の描き方とか、何かそこに入ることによってより深みが出るんじゃないかなと。

佐伯)へ~!じゃ、この小説「海を破る者」における一遍上人は、「坂の上の雲」における正岡子規なんですか!

今村)っていうポジション。

佐伯)ええ!本当に鍵を握ってますもんね。

今村)そうそう、やっぱり主人公の壁打ちというか相談相手でありながら、実はやっぱこう…なんか同じことを思いながら、別の道でこの人間の世の中を少し良くしようとしてるっていうか、志は一緒なんだけど、別々の道を歩いている一族の話でもあるんかなっていう。うん…

佐伯)うわぁ、まさにそれを聞くと本当にそこがオーバーラップしてきました。

今村)そうでしょ(笑)

 


[ Playlist ]
Scissor Sisters – Take Your Mama
The Heptones – Ob-La-Di, Ob-La-Da
Torch – Springtime
Belle & Sebastian – There’s Too Much Love
Todd Rundgren – It Wouldn’t Have Made Any Difference
Jocelyn Brown – Daydreaming

Selected By Haruhiko Ohno


この記事の放送回をradikoタイムフリーで聴く