「えひめ国際映画祭」開催中の今週、坂の上に訪ねて来てくださったのは、NPO法人ジャパン・フィルムコミッション理事長の泉谷昇さん。映画やテレビドラマのロケ地を誘致したり、県内ロケに係わる情報提供や公的手続きの支援をするフィルムコミッションは、全国で100以上にのぼっています。観光や地域の魅力PRにもつながる活動の裏話も教えていただきました。


 

佐伯)これまでにフィルムコミッションとして誘致したものの中で、泉谷さんが個人的に印象に残っているものをいくつか教えていただけますか?

泉谷さん)やはりですね、最初の大物っていう表現なんですけど、やっぱり「世界の中心で、愛をさけぶ」。

佐伯)セカチュウ!

泉谷さん)避けて通れない、ですよね。

佐伯)きょう、なんとその台本をお持ち頂いております。ちょっとよろしいですか?白い表紙でゴシック調のロゴですよね、「世界の中心で、愛をさけぶ」。東宝のマークがボーンと入ってますけれども、こちらが2003年って書いてますね。

泉谷)そうなんです。相当古いんですけども、処分もできずにですね。

佐伯)いやいや、これは処分しちゃダメです!原作の片山恭一さんが宇和島のご出身で、そして脚本が、あの坂元裕二さん!

泉谷)その通りです。

佐伯)そして行定勲さん!

泉谷)その通りです。

佐伯)監督も行定さんということで、今見たらめちゃくちゃ豪華。

泉谷)いやもう本当その通りです。年を追うごとに「すごい人たちと仕事したな」って思います。最初に話が来た時はですね、正直言ってヒットするなんて全然わからないまま引き受けたんですよね。当時としても、もう既に200~300万部、本自身が売れてベストセラーになってたんですけれども、まあそれを映画にするからといってヒットを約束されてないわけですよね。

佐伯)逆にベストセラーであるからこそハードルが高い。

泉谷)ええ、それは言ってましたね。私もまだフィルムコミッションを始めて翌年というか2年目でしたので、その規模と言いましょうか、どこまで支援したらいいのかわからないまま。そこで行定さんとかにですね、直接実は教えを乞うてですね。フィルムコミッションって支援する側ではあるんですけれども、監督に一緒に行動させてもらって。それこそロケハンの仕方だとか、アングルの取り方とか、当時は相当濃い、今では本当に贅沢な時間だと思うんですけども、ついて回ったのを覚えてます。

佐伯)じゃあもう本当に最初の最初の最初の作品。

泉谷)そうなんですよ。ですから大変なことっていうのもよくわからないまま、もう一生懸命やるしかなくてですね。“道路封鎖”なんて表現があるんですけども、「県庁前の国道11号を400~500メートル封鎖して撮影をしたい」っていうのをですね、大変なのはなんとなく漠然として思いますけども、どう大変なのかわからないわけなので、実現に向けて動くしかなくて。で実際にやった後に、周りから「とんでもないことしたなぁ」みたいな話とかですね。

佐伯)たぶん一番町を封鎖するのって愛媛マラソンぐらいしかないのかなと今思いましたけれども(笑)。これ実際の撮影は、いつ頃の何時ぐらいに?

泉谷)ええとですね、たしか11月に。そのためにですね、3カ月ほど前からはずっと警察とか関係者に相談をしに行ってたんですね。もちろん最初は門前払いじゃないですけど、「封鎖する必要性があるのか」みたいなところからスタートしまして。でもですね、どうしても監督のイメージを実現させてあげたいということで通いまして、最終的には「11月の祝日の朝5時から8時までの3時間はよろしい」っていう話になったんですね。でも朝の5時から8時までって言うと、その準備は真夜中にやらないといけないっていうことで。

佐伯)しかも11月の朝5時ってまあまあ寒いですし、明るくなくないですか?

泉谷)そう、暗いんですよね。通行止めができるっていう話を監督にして、「よし」って話になったんですけども、その準備のためにはもう本当1時とか2時から、真っ暗の中準備をしないといけないんですね。で、なおかつ協力してくださる中にはですね、伊予鉄道さんですとか、いわゆる“劇用車”って表現を使うんですけども、一般の方が乗らない路面電車、それも調達しなければならなくて相談をさせて頂いて。なんとか2台だけ通らせましょうっていう話しで、だから撮影のチャンスとしては2回しかなくてですね。

佐伯)うわ、痺れますね…

泉谷)さらに監督からはですね、道路封鎖すると一切誰も入れなくなってしまうので、「ちょっとなんか味が足りないよね」なんていうことで。当時走ってた車、「世界の中心で、愛をさけぶ」の舞台設定というのは1986年頃なんですね、その当時走っていた車が欲しいという。

佐伯)撮影したのって2003年ですよね?

泉谷)ですからその時のですね、1986年当時に走ってた車っていうのを、事前に準備してですね。

佐伯)はあ。どうやって探すんですか、そういうの?

泉谷)これですね、それこそ大きなショッピングセンターとかの駐車場に行ってですね、そういったところ走ってる車を見つけては相談してですね。

佐伯)え~、そんな地道な探し方なんですか?!うわ、大変。

泉谷)で、集めて、その方々の車とですね、もう夜中2時に集まってくれませんかみたいな話でですね。で、リハーサルを繰り返して、朝の5時から8時までの3時間で、なんとか本番を撮り終えたっていう。

佐伯)これは忘れられませんね…。

泉谷)ただご覧いただければわかるんですけども、その辺のシーンって1分ぐらいです。

佐伯)うわ~。でも、そういったご苦労の積み重ねで、あれだけの名作に仕上がったという。

泉谷)そうですね。だから我々もですね、そのセカチュウに関して言えば、もちろん劇中でもジーンとくるんですけれども、あのエンドロールですね、最後の、クレジットっていわれる。そこに「撮影協力 えひめフィルムコミッション」っていうのが出た瞬間に泣いたっていう、ね。

 

 


[ Playlist ]
SLY MONGOOSE – Make Your Mind Up, Little Girl
Rasa – Everything You See Is Me
Swing Out Sister – Heaven Only Knows
Povo – Million Ways
Roy Ayers – Time And Space
Phoenix – Love For Granted

Selected By Haruhiko Ohno


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