今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、松山歌人会会長の片上雅仁さん。小説「坂の上の雲」の主人公の一人・秋山好古は「日本騎兵の父」と呼ばれ、軍人としての功績がよく知られていますが、片上さんが注目するのは「晩年の秋山好古」。当時、陸軍大将まで務めた人物が郷里の小さな中学校の校長として戻ってくるのは極めて異例のこととして捉えられていましたが、その好古の晩年にこそ、彼の本質がよく表れているというのです。キーワードは、「たった10分で決まる」「校長の責任とは」「生徒は兵隊ではない」の3つです。

番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)このブロックのキーワード「校長の責任とは」というところでは…

片上)残念ながら、ちょっと事故とか事件とか、学校は生徒たくさんいますからありました。北予中学校では当時、毎年、今の梅津寺海水浴場のあたり、あそこの海岸で学校を挙げてのボートレース大会っていうのをやってた。で、大会終わって、今と同じで電車が通ってる、伊予鉄道の。それに乗るために生徒が集団でプラットフォームを、ドーッと引き揚げてきたときに突然、雨が降り出した。激しい雨が降り出して、そしたら早く、濡れたくないから早く乗りたいですよね。そうすると入ってきた電車に、ちょっと先を争ってザーッと乗り込もうとたんですが、まだ電車が少し動いてたらしい。一人生徒がプラットフォームの線路の方に落ちましてね、電車に当たって亡くなったっていう事件があった。

佐伯)そうなんですか。

片上)そうすると、人が一人死んだっていうので「誰が押したんだ」とか、いろいろ噂話が立ったりして、当時の地元新聞なんかもそこら辺をいろいろ取材しようとするんですけども、好古は「全く人波をくらってしまったのだ」と、「誰が押したというわけではない。まことに遺憾極まることであるが、全ての責任は校長にある。どの生徒の責任とかいうわけではない」と言ってですね、生徒を守った。で、「責任は校長にある」と。

佐伯)なるほど。

片上)で、「それだったら辞めろって言うのなら辞めるよ」っていうあれがあるわけですね。

佐伯)ほ~。本当にそういうとき「いや、俺はそこにいなかったから」とかなんかね、今のなんかだったら言いそうですけど、ちゃんとそこは「自分の責任なんだ」ってハッキリ…

片上)こういう経歴の地位の人がそこまで言うと、あと誰も何も言えなくなるっていう。

佐伯)なるほどね。そのあたり責任感もしっかりと。

片上)はい、わざとに押したわけじゃないんだよと。もちろん最後に当たった生徒はいるんだろうけど、それを押した生徒がいて、またそれを押した生徒がいて、本当にわからないですよね。わからないっていうか、誰の責任ってわけでもないですね。例えばそういうふうにして、生徒を守る。それからですね、実は北予中学校の生徒が喧嘩沙汰の事件をちょっと起こしたことがあります。ちょっと警察に、今で言う「補導」されたんですね。それも好古は「このような事件を引き起こしたのは全くこれも校長の責任である」と。「責任取って辞めます」って、理事会に辞表を提出したんですね。せっかく呼んできたのに、この程度のことで辞められたんでは周りはたまらないので、「いやいや、どこの学校にもこの程度のことはあるものですから」といって、留任してくださいとお願いされたが、好古はなかなか撤回しない。最後は県知事が乗り出して「どうぞお願いしますから、北予中学校長続けてください」と。それで何とか続けたという。

佐伯)なんか本当に時代は全く違いますけれどもね、最近でもいろんな不祥事を煙に巻こうみたいなところってありますけど、全く真逆の人間性が見えてきますね。

片上)そうそう、あのね、何か不祥事があったら下の者に責任を押し付けて上の方は逃げ切ろうみたいな話もしばしばあるわけですけど。会社でも役所でもね、いろんなとこであるわけですが、そうではなくてやっぱり最後、一番上の者は責任とるという意識は、その責任感といいますかね、そうじゃなきゃ、人の上に立つ資格はないみたいに思ったんだと思います。

佐伯)いつでも辞する覚悟で職務に臨んでいるという。

片上)そうです、そうです。

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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