今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、西予市産業部農業水産課野村シルク博物館係長の清家卓さん。オープン30周年を迎えた野村シルク博物館は、蚕を育て、糸づくり、製品化するまでの絹織物の全工程が学べる、日本で唯一の施設。「四国山系の水を使い、愛媛県産の繭を、明治時代に開発された多条繰糸機と呼ばれる機械で繭からゆっくりと糸を引き出す」という定義をクリアしたもののみが名乗ることのできる「伊予生糸(いよいと)」について、「蚕のルーツ」「繭をゆっくりとくる」「蚕でSDGs」という3つのキーワードで語っていただきました。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
佐伯)今このブロックのキーワードが「ゆっくり」っていう言葉入ってますけれども?
清家)はい、そうですね。シルク博物館の方では、多条繰糸機といった機械を使って糸を繰っております。
佐伯)多条繰糸機、これは?
清家)これはですね、人間の目で見ながら、手を加えながら繰糸するやり方なんですけれど、今、今というか一般的な大量生産のやり方は自動繰糸機という機械で、1分間に200回転まわります、自動繰糸機の方は。
佐伯)はい。
清家)うちの方では1分間に100回転。
佐伯)全然違いますね。
清家)約半分のスピードで、糸を繰っております。
佐伯)このゆっくりとっていうところは、どんないいことがあるんですか?
清家)そうですね、蚕はですね、糸を作るときに頭を振りながら8の字を描きながら、繭を作っていくというふうに言われております。それをそのまま自然の中でほどいていくと、ウェーブのかかったような糸になるんですけれど、それをあんまり早く引っ張りますと、そのウェーブのしなやかさがないような、ちょっと針金というか、ピンとテンションがかかったような糸になります。
佐伯)はい。
清家)うちの方ではゆっくりと引いてますんで、そういったウェーブが保たれたまま糸ができるというふうな利点があります。
佐伯)あ、だから、ピーンってテンションがかかってないから、ちょっとふんわりと柔らかい風合いになるということですか。でも生産効率っていう意味で言うと、結構あれですよね、丁寧にやっているから、たくさんっていうのは作れませんよね。
清家)そうですね、冷蔵保存にしろ多条繰糸にしろ、効率よりも品質ということを大切にしてやっております。
佐伯)なるほど。その多条繰糸機ですか、これも珍しい機械と言えますかね?
清家)そうですね、明治の終わりから大正時代、昭和初期にかけては一般的な機械だったんですけれど、もう今はこういったのを使われているところは、日本でうちだけというふうに聞いております。
佐伯)へ~、そうですか。じゃ、壊れちゃったりしたらどうするんですか?
清家)そうなんです、ここが問題なんです。
佐伯)問題なんだ!
清家)作っているメーカーも今ないんで、館長を初めスタッフが修理をしながら大切に使用してます。
佐伯)え~、じゃあその技術は館長さんだけじゃなくて、これ清家さんも受け継がないといけませんね(笑)
清家)頑張ります(笑)
佐伯)そして、伊予生糸の条件の中の、また別の一つが「四国山系の水を使う」ということですよね。
清家)そうですね、四国山系の石灰質を含んだ水を使って糸を繰ると、糸を覆っている成分のセリシンが溶け出しますので、四国山系の水を使うというふうなのが条件としてなってます。
佐伯)ほ~、四国山系の水には石灰質が含まれていて、それが、その糸を覆っているセリシンを溶かす…
清家)はい。
佐伯)溶けるとどうなる?
清家)糸がですね、ほどけやすく繰りやすくなります。
佐伯)じゃあやっぱりこれもふんわりしてくるっていう感じですか?
清家)そうですね、はい。
佐伯)で、セリシン、なんか聞いたことあるなと思ったら、シルクってけっこう美容の分野でも、その成分が注目をされていると思うんですけれども…
清家)そうですね、シルク成分ということで、石鹸とかシャンプーとか、そういった肌につけるものに多く使用されている場合がありますね。
佐伯)はい、これは何かいい成分だっていうことで理由があるんですか?
清家)そうですね、紫外線から肌や髪を守ったりだとか、高い美容効果も期待できるというふうに言われております。うちで働いている製糸されている方、スタッフの方々はもう、水仕事なんですけれども、とても手が綺麗です。
佐伯)へ~、そうなんですね!よくほら、酒蔵の方はなんか手が綺麗とか、麹を使う人はね、なんていうのを聞いたことありますけれども、そうですか、この製糸工場でも、皆さん水仕事だけど手が綺麗!
清家)すべすべしてます。
[ Playlist ]
Povo – Million Ways
Emilie-Claire Barlow – What a Little Moonlight Can Do
V. Duke, Jane Monheit – Taking a Chance on Love
Yumi Zouma – December
Selected By Haruhiko Ohno