今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、石積み修繕士で西予市地域おこし協力隊隊員の亀井彩香さん。石積み修繕士、聴き慣れないお仕事ですが、愛媛を代表する景観のひとつでもある段々畑で見られる、あの石積みを修繕する仕事です。九州出身の亀井さんと愛媛の最初の御縁は「みかん」にまつわるもの。そこから、「石積みの技術継承と柑橘栽培」がミッションの地域おこし協力隊へ応募し、移住後、愛媛で結婚、出産。現在は子育てをしながら地域を元気にする仕事に取り組んでおられます。そんな亀井さんに、「石積みに正解はない」「300年もつ構造」「石積み甲子園」というキーワードで、「石積みの継承」について語っていただきました。

番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)では、一つ目のキーワードです。「石積みに正解はない」ということなんですが、これどういう意味でしょうか?

亀井)はい。石積みは、使う石はもうそれぞれ同じ形って一つもないので、一つの石を置く場所に正解はないって言われてて。より良い場所に置くとか、より良い形で角度で置くとかはあるんですけど、「これが一番良い」っていう正解はなくて。

佐伯)絶対ここじゃなきゃいけないみたいなことではない。

亀井)そうです。石の形もですけど、積む人も違うと全然見た目も変わってくるし、強度も変わってくるし、そこが難しさでもあり面白さでもあるっていう感じです。

佐伯)実はこの番組で東温市で「伝説の石工」と言われた菅能宇吉さんっていう方をご紹介いただいたことがあるんですけれども、その方はお城の石垣を修復されてた方なんですけど、やっぱりそういう名人がすると美しさとか強度とか全然違うっていうのを聞いたんですが、ここはその石積みにも通じるものがありますね。

亀井)そうですね。お城はもうこだわり抜いて、考え抜いてやられてるから。でも、農地とお城が大きく違うのは、何よりも農業の土台を早く作ることなので…

佐伯)早く?

亀井)早く、効率的に。その石積みが直接お金になるわけでも、実りに直接的に繋がるわけでもないので、いかに早く強く積むかっていうのが大きく違うことだし、正解を求めすぎないのが農地の石積みかなって思ってます。

佐伯)じゃ、その段々畑の石積みのポイントっていうのはどういうところですか。

亀井)石積みは構造として、前から見える積んでる石の後ろに「ぐり石」っていうのを詰めるんですけど…

佐伯)ぐり石?

亀井)はい。積み石のガタガタを留めたりとか、後ろの土からの圧を止める。

佐伯)へえ~、二重構造みたくなってるんですか?

亀井)そうですね。お城とかも一緒だと思うんですけど、その「ぐり石」が何より大事と言われていて、どんだけの量を詰めるかとか、どんだけガチガチに詰めるかっていうので石積みの強さが変わってきます。

佐伯)やっぱりこれも作る人によって変わってくるということですか。

亀井)そうですね。昔から言われてる言葉で、「一.ぐり、二.石、三.に積み」っていう言葉があるんですけど、一番「ぐり」を重要視しなさいっていう。二番目が石の質とか大きさとか、三番目が摘み手の技術って言われてるんですけど、何よりも「ぐり」!

佐伯)そうなんですね。私たちからは見えない、今は見えてない、その積み石の後ろで支えてる「ぐり」が大事なんですね。

亀井)そうです。

佐伯)なるほど。そういうことって修繕士として取り組む中で覚えていったことなんですか。

亀井)はい、そうです。師匠に教えていただきました。

佐伯)中には裏の石とかが適当だったりするのもあるんですかね?

亀井)そうですね(笑)やっぱ崩れてるところを直してると、「全然ここ奥側に石入ってないな」とか…

佐伯)あるんだ!

亀井)はい。結構あります。

佐伯)それはやっぱ早くやんなきゃいけなかったからとかいうことなんですかね?

亀井)たぶん、その「ぐり石」、小石を集めてくるっていう手間も結構かかるんで。量的に言ったら、積み石と「ぐり石」の量は同じぐらい必要って言われてて。だからそれを省略してでも早く畑を作って早く作物を育てたかった、みたいなのがあったんじゃないかなとも思える…

佐伯)なるほど、いろいろ修繕する中で、それぞれの畑の石積みに込められた歴史だったり人の気持ちだったりも見えてくる。

亀井)そうですね、もう想像するといろんな方向に飛んでっちゃって、いろんなことを想像しちゃうんですけど、それも面白いですね。

佐伯)そうですよね。今は石積み修繕士って亀井さんみたいに知識のある方が直してらっしゃるけど、その昔はやっぱ地域の人がみんな自分たちでやってたってことなんでしょうかね。

亀井)そうです。今も農家さんは直せるんですけど。

佐伯)ああ。

亀井)直す間がないというか、だんだん人口が減ってきて、1人当たりの耕作面積も増えてきて。今みかんのお世話で手一杯で、石積み直す暇がないみたいな状況です。全国的にそうじゃないかなと思ってます。

佐伯)そうであるからこそ、石積み修繕士さんの役割の大切さっていうのが増していきますね。

亀井)そうですね。私だけでも直せないので、やっぱり外からの力を借りつつやっています。

 


[ Playlist ]
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Kings Of Convenience – Gold In The Air Of Summer
Rumer – Blackbird
America – Ventura Highway
Neil Young – One Of These Days

Selected By Haruhiko Ohno


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