今週は、「坂の上の雲ミュージアム」特設ブースからの生放送!現在、坂の上の雲ミュージアムで開催中の特集展示「『坂の上の雲』をめざしたひとびと」について学芸員の長谷川巴南さんに、また来年7月のオープンに向けて着々と工事が進む「こども本の森」について主任の藤井萌々さんに、それぞれお話を伺いました。本番前に長谷川さんにご一緒していただき、特集展示を見せていただくと、総勢35人の登場人物に関する貴重な資料がぎゅぎゅっと詰まっていてかなりの見応え!中には、かの有名な「皇国の興亡此の一戦にあり」という一文を東郷平八郎が書にしたためた直筆の掛け軸など貴重な資料もあります。また、特設ブースからも見える「こども本の森」の建物は、ガラス窓がはめこまれ足場の一部が撤去されるなど、工事の進捗がよくわかります。オープンへ向けてのプレイベントやクラウドファンディングなどについても聞きました。
佐伯)それでは早速、いまミュージアムで行われている特集展示の資料について伺っていきます。まず一点目に挙げていただくのはどんな資料でしょうか?
長谷川)はい。1点目は「桜田大我あて正岡子規歌書簡」です。
佐伯)桜田大我宛て…。桜田大我さん、ごめんなさい、私存じ上げない人物なんですけれども…。
長谷川)その通り、ですよね、はい。この手紙を送った相手である桜田大我というのは、正岡子規の勤め先である日本新聞社の同僚記者でした。
佐伯)記者の方なんですね。
長谷川)はい。1900年、だいたい明治33年の7月ごろ、子規が桜田大我に送った手紙ということです。
佐伯)はい。子規が当時どういう思いで送った手紙なんでしょうか?
長谷川)当時、中国…当時の清国では北清事変が勃発しており、その取材のために従軍記者として清国へ渡る桜田に、子規が壮行の意を込めて歌を贈ったものです。
佐伯)じゃあ、戦地へ向かう記者に向けての手紙ということなんですね。その歌っていうのは、どういう歌でしょうか?
長谷川)中身をちょっと読んでみますと、歌で始まるんですね、これが。「薄織の 夏着の衣のかくしどに 筆さし入れて いくさに行くも」。これが一首目で、二首目に「言さえぐ から(唐)山越えて いくさ見に 再び行くを再び送る」と、従軍記者がこの筆を携えて、自分のお洋服に筆を携えて中国に取材に行くことを描写しているような歌になっています。
佐伯)いずれも「いくさ」という言葉が入っているんですけれども、この二つの注目ポイントはどこでしょうか?
長谷川)そうですね。この二首目の最後に「再び行くを再び送る」というところが、見てほしい一つのポイントですね。
佐伯)「再び」が繰り返される。
長谷川)そうですね。この「再び行くを再び送る」については、実はこの5年前の明治27年に起きた日清戦争の際も、この桜田が従軍記者として清国に渡っていて、子規はこのときにも桜田を見送っているから再びということなんですね。この資料では今回が2回目であるっていうことを、「再び行くを再び送る」というこの言葉に読み込んでいます。
佐伯)なるほど、確か正岡子規も日清戦争の折には従軍記者として海を渡っていますよね。
長谷川)はい、そうですね。日清戦争の際には、明治28年、この桜田が行った次の年に従軍記者として清国に渡っています。
佐伯)そうか、じゃあ前の戦争のときには自分も行ったけれども、今回はその桜田は行くけれども自分は行けないっていう状況ですか。
長谷川)そうですね、この書簡を送った明治33年には既に子規は病床に伏せていたので、歩くこともままならないような状況でした。この子規の病苦を踏まえた心境というのが、「再び行くを再び送る」の言葉に詰まっていますね。
佐伯)そういう歌なんですね。他のポイントもありますか?
長谷川)他のポイントとしては、この歌であるというような、この歌書簡という形態に注目してほしいです。俳句のイメージが強い子規なんですけど、この資料は、短歌で書かれた資料です。ちょうどこの時期、正岡子規は、短歌革新をしているタイミングでした。
佐伯)その子規が書いた、これ直筆の資料ということになりますか。
長谷川)はい、そうですね。直筆で書かれた資料なので、子規の筆遣いというのも感じられるような資料になっていますね。
佐伯)とってもね、伸びやかな文字だなという。実は原稿用紙に書かれていて…
長谷川)はい、資料は原稿用紙に書かれています。
佐伯)なんですよね。いま私、原稿用紙っていうとなんだろう、ちょっと緑色っぽい枠線が書かれてあって、マスが並んで20字×20行…
長谷川)400字詰め、みたいな(笑)
佐伯)そう!だけど、そのマスが並んでいる感じのイメージっていうのは今と同じだけど、これ何字詰めかなと思って、私とりあえず縦何文字かなというのは数えてみたんです。
長谷川)はい。
佐伯)24だったと思うんです。
長谷川)あら。
佐伯)気になる人いると思いますよ(笑)。でもそれがね、あの線が赤なんですよね。
長谷川)はい、赤色の原稿用紙。
佐伯)その原稿用紙に伸びやかに書かれている、その子規の文字っていうのが。ただ、その奥には「今回は自分は従軍記者としては出かけられない」…いろんな思いが詰まってるんですよね。
長谷川)そうですね、本当は自分も行きたかったのかもしれないですね。
佐伯)でしょうね。そういう思いもわかった上でこの資料を見ると、またいろいろな見え方がしてくるのかなと。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
[ Playlist ]
Donny Hathaway – Love, Love, Love
Alessi – Love To Have Your Love
Feist – One Evening
Abyssinians – This Land Is For Everyone
Selected By Haruhiko Ohno