今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、八幡浜市真穴地区公民館館長のこうの河野眞典さん。明治から大正にかけて、アメリカンドリームを夢見た多くの市井の人々が八幡浜から大海へ漕ぎだした史実をご存じでしょうか。しかも、帆掛け船で!もちろん成功して大金を手にした人もいれば、失敗して命を落とした人も多くいたそうです。河野さんは、そうした史実を「太平洋の虹橋 帆掛け船でアメリカンドリームを追った男たち」という本にまとめられています。今回は「宇和海のコロンブスと言われた男」「アメリカンドリームの行方」「和田重次郎とイヨ県人」というキーワードで、ロマンあふれる男たちの挑戦についてうかがいました。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
佐伯)今日のテーマは「宇和海からアメリカンドリームを夢見た男たち」ということで、男たちというからには複数人だと思うんですけれども、どういった方たちなんですか?
河野)宇和海周辺の村人たちですね。例えば、農民とか漁師とか、船大工や運送業、また木挽き職人、こういう人たちが一攫千金を夢見てアメリカへ渡っていったんです。
佐伯)じゃあ政府に関係している人とか実業家とかいうわけではなくて、いわゆる一般市民という人々ですか。
河野)そうです。一般市民が金儲けといいますかね、そういう目的でアメリカに渡ったんですけど、明治45年から大正4年までの4年間に、6隻の帆掛け船が密航という形で太平洋を越えてアメリカに渡っているんです。
佐伯)何人ぐらい?
河野)人数にいたしまして84名、そのうち成功者が18名で、66名は向こうで捕まって強制送還されております。
佐伯)なかなか厳しい道のりだったという感じですけれども、これ、密航なんですか?
河野)そうですね。鎖国が解けて多くの日本人が、一旗揚げようと思って海外に飛び出していったんです。
佐伯)明治時代に。
河野)はい。当時のアメリカの労働賃金は世界最高水準で、日本の他、世界各国からたくさんの移住者が移り住んでいたんです。特に日本人は、安い賃金で朝から晩まで一生懸命働くので、アメリカの労働者たちに、ちょっと危機感を抱かせまして…
佐伯)あ、仕事を奪われちゃうんじゃないかということですか。
河野)そうですね。そのうえ獲得した賃金収入は全部ほとんど日本へ送金して、アメリカの経済にはほとんど貢献してなかったわけです。そういうことで、排日運動が起こりました。日本政府は仕方なく、明治41年に日米紳士協定を交わしまして、労働目的の渡米の制限をしたわけです。
佐伯)ほぉ。
河野)旅券を発給できるのは、一般旅行者とか役人とか実業家だけでした。労働を目的としたものには、パスポートは発給されませんでしたので、もう密航する以外になかったんです。
佐伯)そういう背景があったんですね。アメリカに渡った日本人といいますと、そこからさかのぼって、高知出身のジョン万次郎を思い浮かべる方も多いと思うんですけれども、それとはまた違うパターンでっていうことですよね。
河野)そうですね、ジョン万次郎は江戸時代の後期に、乗り込んでいた漁船が暴風雨のために操船不可能になって、鳥島へ流れ着いたんですけど、無人島で生き延びていたときにアメリカの捕鯨船に助けられましたが、当時日本は鎖国状態でありましたので、仕方なくアメリカへ送られたということで、もう全く意図せずにアメリカへ行ったということですね。
佐伯)なるほど。あと愛媛でアメリカというか海を渡ったっていいますと、西条出身の探検家、アラスカ開拓の先駆者と言われる和田重次郎。“オーラになった侍”ですよね。こちらを思い浮かべる方もおられると思います。
河野)彼は愛媛県ではアラスカに関しては有名な人で、彼は4歳のときに父親を亡くしまして、母に楽な生活をさせたいと思いまして、17歳のときアメリカに密航しました。現地の人でさえ踏み込めなかった北極圏を犬ぞりで探検して、多くの金鉱や油田を発見したわけです。
佐伯)この話はよく知られているところでもあります。では宇和海周辺に住む人々は、どうして密航してまで渡米したんでしょうか?
河野)はい。密航の首謀者になるものはですね、以前アメリカで一度働いていた経験があったんです。アメリカに滞在中、日露戦争が勃発しまして、日本が勝ったというニュースが世界中を駆け巡ったんです。アメリカにいる彼らは「日本も大したもんだ」と思って、一度帰国してみようと思ったわけですね。帰ったことはいいんですけど、帰国後、ちょうど運悪く日米紳士協定が成立いたしまして、もうアメリカには戻れなくなってしまったんです。
佐伯)ああ。
河野)ということで、密航の首謀者になっていったということですね。
佐伯)一旦はアメリカで働いていて、その豊かな賃金などを手に入れていて、一時帰国した際に、もう正式なルートではアメリカに戻れなくなっていたということなんですね。
河野)そうですね。彼らはやっぱアメリカで甘い汁を吸ってますので、国の法律を犯してでもアメリカに行きたいと思ってたわけです。これは法律を犯すことでございますので、渡米した人はもちろんですが、家族の者、地域の者も口を閉ざして長い間秘密にしてたんですが、それから120年経過いたしまして、彼らの挑戦は近代日本の躍動を物語る大冒険として、語り継がれるべきものだと考えております。
[ Playlist ]
Roos Jonker – Man In The Middle
Dawn Penn – Here Comes The Sun
Tracey Thorn – Hands Up To The Ceiling
Booker T – Broken Heart featuring Jay James
Selected By Haruhiko Ohno