今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、一般社団法人一粒萬倍制作委員会代表理事の松浦靖さん。西日本豪雨で大きな被害のあった宇和島市吉田町の復興イベントとして2022年に上演された舞台「一流萬倍 A SEED」が、今年12月に愛媛県民文化会館で再演されます。これを前に、映像ディレクターとして世界的CMコンクールでの受賞歴もある松浦さんが舞台製作に挑むようになった背景、この作品に込めた思いなどを「セリフはほぼなし」「いただきます」「子どもたちに本物を」というキーワードで熱く語っていただきました。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)とっても日本的な要素が大きいと思うんですよね、古事記が軸になっているということで。これをどういう形で表現していってるんですか?

松浦)舞踊と、邦楽、洋楽が、あと和太鼓が融合した演奏と、最後、花いけが大きな軸になってるんですけども、これを初めて作ったときに自分の中のイメージは…アメリカでシルクドソレイユを、初めて何十年か前に見たときに、サーカスがこんなに素晴らしい芸術になるんだっていうのがものすごい感動だったんですよね。言語の壁もなく、見てる人の感性で感動しちゃう舞台だったんです。ですから、何かそれを日本の美意識というか、日本ならではの表現で作りたいなということで、本当に五穀の種の誕生、稲穂の誕生、八百万の神の誕生物語を、日本風のシルクドソレイユ風にしたという…

佐伯)だからセリフはないんですね!あえて。

松浦)あえて、そうです。もう世界中の人に言葉の壁を越えて楽しんでもらうというか、感じてもらいたい。そこに日本の美を感じてもらいたいという思いで作った舞台です。

佐伯)そうですか。私、チラリとその映像も拝見したんですが、個人的にですよ、すごく印象に残るのが、お能の役者さん出てくるじゃないですか。あの空気感っていうのは本当に独特だなと。

松浦)そうですね。あそこは本当に宇宙の始まりをイメージしてるシーンでして、宇宙というと、真空の世界じゃないですか。音がないんですよね。だから、お能のあのシーンは、もう本当に県文の大劇場でも、5階から見ててもですね、何かあのお能を演じている能楽師の方の中で、呼吸とか心臓の音が聞こえてくるというか感じてくるぐらいの静寂に包まれてるんですよ。
ですからもう、ちょっと動いてふっと腕を動かす、舞う衣擦れの音が劇場の後ろにいても聞こえるんじゃないかぐらいの静寂ですね。だから、静寂という音なんですよね。それで何かそこの中にも、もう私達が言う、万物に宿る八百万の神、つまり静寂の中にも神が宿ってるんじゃないか。何かそういう瞬間を、あのシーンでは感じてもらいたいなと思って作ったシーンですね。

佐伯)こちらも何か息するのを忘れちゃうような、なんかそういう空気感を感じて。

松浦)そうですね、見てる人皆あそこはもう固唾を飲んで…

佐伯)ああ、もう本当それがぴったりですね。

松浦)もう見入るぐらいですね。

佐伯)はい。でもちょっとここまでお話を伺ってますと、その和楽と洋楽の融合したものにお能も絡んでくるし、それから舞もあって花いけ=お花をいける場面もあってっていう…ラジオを聞いている人は「一体どういう舞台なんだ!?」っていう、ちょっと混乱してるかもしれないんですけれども(笑)、それはどういうふうに説明したらいいでしょうか?

松浦)まぁ百聞は一見にしかずなんですけど(笑)、一言で言うと本当に物語は八百万の神と稲穂が誕生する物語を…なんていうんですかね、日本人の考え方、八百万の神の考え方ってものすごくおおらかで、どこにでも神様がいるし、何でも OK みたいなところがあるじゃないですか。

佐伯)独特ですよね、世界でも。

松浦)ですからこの舞台を作るときも、日本のそういう良さを表現するに当たって、世界最高の演劇って言われてるのが能ですよね、ということは、宇宙の最初に姿を現したアメノミナカヌシは、もう世界最高の演劇の能だろうみたいな。ですからアメノミナカヌシ役は能楽師の方に演じていただいて、そっから次は日本舞踊になって、そこでイザナギ・イザナミは日本舞踊なんだけども、どんどん生まれてくる神々が今度現代舞踊で表現。ですから日本舞踊と現代舞踊がコラボして、イザナギ・イザナミの国生みで生まれてくる神々を表現していく、というようにですね、万物は一つに繋がっているというコンセプトで、芸能も一つに繋がっていると。よくすり足とかの話もするんですけど、日本の芸能ってやっぱ重心がですね、やっぱ下なんですよね。

佐伯)そうですよね、いっつもそこ見ちゃいます、お能のときに。腰がぶれてないかを、はい。

松浦)あれは僕、すり足っていうのはやっぱり相撲の四股もそうなんですけど、邪気を払って四股は五穀豊穣の恵みを祈るみたいな意味があるんですけど、やっぱ日本人って大地と一体になる、大地の恵みに感謝するっていうのが、日本人のなんか感性というか美意識なのかなということで、そういう意味で実は現代舞踊とかクラシックバレエやってる人にも、ここの時はピョンと空中に意識するよりも、大地を感じるように動いてくださいとかっていう、結構無茶ぶりをお願いしてるんですけど、そういうふうに何か日本の良さを軸としていろんなものを組み合わせて、もうおおらかにみんな一つに繋がってるんだ、一緒にいろんな芸能も一つになって、日本の物語を表現しましょうというのがこの舞台ですね。

佐伯)いや、すごくよくわかりました。

 


[ Playlist ]
舞台「一流萬倍 A SEED」のライブ音源の中からお送りしました。


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