今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、愛媛鏝絵美術館館長の梶田高弘さんです。鏝絵というのは、左官職人が漆喰を塗った壁に鏝で浮き彫り細工を施したもの。梶田さんが、この鏝絵に特化した美術館を松前町に設立したのは2年前。こうした美術館は、全国でも数か所しかないんだそうです。左官職人歴数十年の梶田さんの鏝絵にかける思いを、「鏝絵の歴史」「鏝絵ができるまで」「鏝絵を未来に」という3つのキーワードで語っていただきました。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。


佐伯)実際にどんなふうにして作っていくものなんですか?

梶田)そうですね、松山のお城の…桁とか垂木とかいうのわかります?

佐伯)垂木、はい。(※屋根を支えるため、棟から軒先に渡す長い木材)

梶田)ああいう垂木に、漆喰でものすごい大きさに作っとんですが、松山城の垂木には。ああいう垂木の場合は、藁。縄で編んだ藁、ああいうのを巻きつけて、又釘(※U字型に曲がった釘)みたいなんで綺麗に留めてね、その藁に食いつかすために土を塗っていって、すさの入った土をね(※すさ…壁土にまぜて、ひび割れを防ぐつなぎとする材料)。そういう風にして何回も何回も塗って、最後に漆喰をかけるんですが。木に塗りつける場合はね、桁とか丸太、そういうものにやるときは藁を塗りつけていく。そして僕が梁の木口なんかに塗る場合でも、今は水が入らないようにフエルトいうてね、防水する、水を弾く紙、これをホッチキスみたいな、鉄砲いうて、僕らは言うラス鉄砲言うんですけど、こんなんで打ち付けて、そして引き剥がれないようにその上に網を張って、いちおう今はモルタルでね、こすった上に土を塗って仕上げて、最後の漆喰で塗るとか、そういうふうな工法に変えてますけどね。

佐伯)何重にもいろんなものが塗り付けられて、最後に漆喰が塗られているという。

梶田)そうです、たいがい5層から6層ぐらいかかりますね、仕上げるまでに。

佐伯)そうなんですね。

梶田)はい。僕が額にした鏝絵なんかの場合だったら、いちおう下地のコンパネもしくはケミカル板いうてね、6ミリぐらいのものの上に接着剤かけて、接着剤かけたら上に材料をつけたときに剥げにくいんです。そんなんをある程度、いっぺんずっとこすったときに肉盛りして。例えば10センチ、15センチ肉盛りしたいなというときには、それまでいっぺんに全部材料をかけたときに重いでしょ。だから軽くするために、いっぺんこすって柔らかいときに、ここに絵を描きたいな言うたときに、発泡スチロールを中にあんことして詰めるんです。

佐伯)へえ~。

梶田)例えば10センチぐらいで仕上げるのかなと思ったときには、7センチぐらい発泡スチロールをずっと削って、柔らかい材料を塗りつけたときに発泡スチロールをずっと押し込むんです。それで食いつかせとって、その上にいっぺん接着剤を綺麗にかけて、こすりからまた上げてくるんです。形をとって、鏝でずっとね。だったら中が発泡スチロールだから軽いわけ。そして接着剤かけてるから外れない。ただもう一般のお客さんは、これだけ肉盛りしたら重たいでしょう、なかなか描けるの言うけど、見たほどでもないですよ、そういうふうにしてやれば。

佐伯)でもそれって梶田さんがいろいろ試行錯誤して、そのコンパネとか接着剤とか発泡スチロールとかを使って今、作り上げてるってことですよね。

梶田)そうです。これはもう全部自分で工夫して。

佐伯)へ~。昔ながらの方法っていうのはどんな感じだったんですか?

梶田)これはね、昔ながらの方法というのは、僕はこさえとるみたいな額ではまずないと思います。だから戸袋なんかに描いとる下地をのけても、やはり藁を。

佐伯)藁を編んで…

梶田)藁で編んだ縄を戸袋にずっと打ち付けて、それに土を食いつかす。そういうような感じが多いですね、やっぱり昔ながらのやり方は。昔の方はね。それがだんだん時代に応じてやはり薄塗りで出来るとか、そして剥げないようにやっていくとか、そういうような工夫でやっていくようになっております、今は。

佐伯)その意匠の魅力っていうのは引き継がれながらも、材料っていうのは進化していってるんですね。

梶田)そうですね。でも僕はやはり昔ながらの、土の材料は意外と多いですね。室内に置いた場合は、土は雨に濡れたら駄目ですけど、室内で置いとったら湿度調整してくれる。

佐伯)ああ、はい。

梶田)湿度のあるとき、梅雨時にはジメジメしたときには土が湿度を吸収してくれ、そして暑くなったら乾燥して出してくれる、湿度を。そして、もういらなくなったな思うたら雨降りに外へ出しとくんですが。そしたら自然に元の土に戻る。だから全然、害はないんです。

佐伯)SDGsなわけですよね。

梶田)もう、それはね。

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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