今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、宇和先哲記念館職員の泉仁美さん。記念館のある西予市宇和にゆかりの「オランダおイネ」こと、シーボルトの娘で日本初の女性産科医・楠本イネについてお話を伺いました。楠本イネは西予市で少女時代を過ごし医師としての夢を志したことから、その功績を称え女性の活躍推進を図ることを目的とした「西予市おイネ賞事業」が設けられるなど、地域の方に親しまれている人物です。今回は「二宮敬作を頼って」「宮内省御用掛かり」「銀河鉄道999・メーテルのモデル」というキーワードで、おいねさんの足跡をたどりました。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
佐伯)それでは、二つ目のキーワードです。「宮内省御用掛かり」ということなんですが、二宮敬作らから医学について学んだおイネさんのその後はどうなっていくんでしょうか?
泉)はい、おイネさんはとても勉強熱心だったので、その後もシーボルトの弟子だった複数の医師のもとで学んでいくことになります。先ほども出ました岡山の石井宗謙のもとで、産科を7年ほど学んで、大村益次郎(村田蔵六)からもオランダ語を教わっています。
佐伯)え、大村益次郎って言ったら、幕末の…
泉)そうです、そうです。
佐伯)有名な。
泉)はい、幕末の政治家であり医師である、日本の陸軍の創始者、維新十傑の1人であります。
佐伯)その大村益次郎にオランダ語を教わったんですね。
泉)そうなんです。益次郎は、宇和島藩で西洋兵学・蘭学を教えていて、敬作からイネさんを紹介されて蘭学を教えるようになります。後年はイネが、益次郎が襲撃された際に看病し、最期を看取っています。
佐伯)そうだったんですね。
泉)さらにオランダ軍医のポンペイからも、眼科などを学んでいたそうです。
佐伯)じゃあ産科についてだけではなくて、広く学ばれていたんですね。
泉)そうですね。
佐伯)ただ、その当時の産科医を巡る状況というのは、どんなものだったんでしょうか?
泉)はい、江戸時代、当時はお産はちょっと汚らわしいものとして扱われていたところもあって、隔離されて出産をされるようなこともあったみたいです。また男性医師しかいらっしゃらなかったので、恥ずかしさから診察を受けない女性もいらっしゃったみたいで、そこで命を落とされるっていうこともあったみたいです。
佐伯)は~、そうなんですか。
泉)お産は命掛け、母も子も命掛けで行っていたという状況にありました。そこで敬作先生はイネに、「これからは女性のための女性の医者が必要だ」ということで産科医をすすめたそうです。イネが西洋医学を学んだ医師として、日本の女性たちに科学的な見地に基づく出産を説いていくようになります。
佐伯)なるほど。
泉)日本の産婦人科の発展に多大な影響を与えた人物へと成長していきました。
佐伯)そうなんですね。そういう重要な学びを卯之町、今の西予市宇和町から始めていったというおイネさんなんですけれども、その後はどういうふうに…
泉)はい、その後は1870年、明治3年頃に、シーボルトの異母弟になるアレキサンダーなどの支援で東京の築地に、43歳のときに産科医を開業しています。また47歳のときには、福沢諭吉のすすめで「宮内省御用掛かり」に任命されます。
佐伯)ここでキーワードの「宮内省御用掛かり」が出てくるわけですね。
泉)そうです。
佐伯)宮内省って言いますと、今の宮内庁ですよね。皇室と深い関わりのある省庁ということになりますが、当時はどんな感じだったんですか。
泉)はい、明治天皇の女官であった葉室光子さんの出産に立会います。残念ながらお子様は亡くなられてしまうんですが、光子様のお産に立ち会うという大きな仕事をされたと思います。
佐伯)はい。
泉)明治8年に医術開業試験制度が始まるんですが、女性は受験制度がなくって、当時医者として豊かな経験を持つイネは受験する必要もなかったんですが、そのあと明治17年に女性にもその試験が受けられるように門戸が開かれるようになります。その明治17年のとき、イネは57歳であったことから、また既に開業医として働いていたので、試験は受けませんでした。
佐伯)なるほど、もう既にお医者さんとして活躍されてたわけですからね。
泉)そうですね、はい。国家試験に合格した点においては荻野吟子さんが日本初の女医となりますが、それよりも前におイネさんが女医として活躍していたことは間違いないと思います。
[ Playlist ]
Neil Young – One Of These Days
Kings of Convenience – Mrs. Cold
大貫妙子 – Summer Connection
Dan Hicks & The Hot Licks – Strike It While It’s Hot
Maria Muldaur – Midnight At The Oasis
Selected By Haruhiko Ohno