今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、愛媛県歴史文化博物館学芸課長の井上淳さん。「瀬戸内海国立公園」が国立公園に指定されて90年になるのを記念して、歴博では特別展「瀬戸内海ツーリズム」が現在開催されています。江戸時代から近現代まで、様々な人々が瀬戸内海の旅を記録に残しており、その記録から改めて瀬戸内海の旅の魅力について紹介しているそうです。そこで今回は「江戸時代 瀬戸内海の人気スポット」「いもの子を洗う如く候」「風待ち、潮待ち」という3つのキーワードで、瀬戸内海の旅について語って頂きました。
佐伯)それでは3つめのキーワードです。「風待ち、潮待ち」 ということなんですが、やっぱり江戸時代の船旅はお天気に大きく左右されるということが多かったんじゃないですか?
井上)そうですね。エンジンがついてるわけではなくて、帆に風を受けて進んでいくということで「風まかせ」ということでですね、日記を見ていると、旅はその風の強さとか方向、どこから吹いてるとかいうのを細かく書いてたりとかですね、あと潮の流れとかも重要だったみたいで、そういう流れのことを書いてたりとかしてますね。で、日にちや時間によって変わる潮や 風の流れをですね、丁寧に記述してますね。で、たまに風が強かったりとか潮の具合が良くないっていうことで、もう一日同じ場所にずっと停泊してるっていう事がありますね。
佐伯)ああ、そうでしょうね。
井上)ただそういう時もがっかりしなくてですね、今の人だとまあ急がなきゃあってなるんですけどのんびりと、動かなかった時は上陸して、そして街歩きを楽しんだりとかしてる記述もありますね。
佐伯)そうなんですね。例えばどんな風にして過ごしてたんでしょうか?
井上)そうですね、一例としてはですね、大山祇神社に着いたあたりとのところをちょっといってみますと、暮れ過ぎに大三島に着いてますね。
佐伯)じゃ、夕方?
井上)そうですね。で、翌日すぐ出発しようとしてたんですけれども、潮の具合が良くないので、良くなるまでにということで、伊予の総鎮守とされる大山祇神社を参拝してますね。で、その日の夜には芝居があるっていうことだったんですけれども、参拝が終わって帰ると潮の具合も良かったっていうことですぐ船を漕ぎ出してるっていう。もう潮次第ってことですね。夜芝居があっても待たずに、じゃあもう潮の具合がいいから乗って行けっていう感じですね。
佐伯)なるほど、もう額田王の時から「潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」ということなんですね(笑)
井上)そうですね。で、出たと思ったら今度ですね、雨天になって潮の具合がまたうまくいかなくなって、御手洗っていう広島県呉市のほうに停泊して、その晩はそこで泊まってますね。
佐伯)あれ、御手洗港って島、ですよね?
井上)そうですね。
佐伯)けっこう大三島から近いところじゃないですか?
井上)近いところです、ええ。16kmぐらいなんですかね。
佐伯)ほぉ。
井上)ですんで、まあもっと行けるはずなんですけれども、具合が悪いとそういう風待ち港ということでですね、御手洗港に入ってますね。
佐伯)じゃあやっぱり自然に大きく左右されるから、予定通りにはなかなか…
井上)予定通りにはなかなかいかないですね。
佐伯)いかない旅、なんですね。
井上)で、御手洗から先はですね、三津浜に向かっていくんですけど、その翌日は雨が降ってるんだけれども東風、東からの風っていうことで西に行くには非常に条件がいいってことですねそれで船を出してですね、雨は時々降るんだけど追い風なのでどんどん走っていって、正午過ぎには三津浜に着いてるっていうことで…
佐伯)はやい!
井上)そうなんですよ。条件が良かったらものすごく早いし、悪いともうなかなか先に進めないっていう感じですね。ただ着いてもですね、引き潮のために船を波止の脇に寄せることができないという。港に着けることができないということで、しばらく引き潮で潮が満ちてくるまで沖合でじーっと待ってるんですね。で、潮が満ちてきたらようやく上陸ということになるんですけど。だから早く着いてもようやく上陸できたのは夕方になってきて、「風呂の準備ができたぞ」ということで知り合いの船宿から連絡が来て、それでようやく夕方に上陸してっていうような流れになってますね。
佐伯)本当に思うようにいかないわけですね(笑)
井上)じつに「風まかせ、潮まかせ」の旅だったということがわかりますね。
[ Playlist ]
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Selected By Haruhiko Ohno