今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、越智郡上島町教育委員会学芸員の曽根大地さん。明治から昭和にかけて活躍した女性実業家・麻生イトについて、お話を伺いました。広島との県境に位置する上島町ですが、麻生イトは尾道出身。紆余曲折を経て、因島で造船所への人材派遣や旅館を手掛け成功。男社会の造船業との仕事は苦労の連続だったことは想像に難くありません。それもあってか髪を短くして男装するようになったイトは、「男装の女傑」と呼ばれたとか。余生は因島で過ごし、彼女が手掛けた三秀園は上島町生名島のシンボルになっています。今回は、「男社会に飛び込み傷害事件に発展」「政治家から文人まで華麗なる交流関係」「イトを語り継ぐ生名の人々」というキーワードで、その足跡をたどりました。
曽根)麻生旅館には文筆家の宿泊客も多かったようで、愛媛県松山市出身の俳人・河東碧梧桐…
佐伯)へ~。
曽根)その方が 昭和8年のエッセイで、「山を水を人を」という中にイトさんのことを描写しております。
佐伯)どんな風に文人からはイトさんが映っていたんでしょうか?
曽根)「前額から後頭部にかけて一文字に深い刀疵が…」
佐伯)ああ、さっきのアレですね。(※イトは41歳ごろ、仕事のもつれから日本刀と短刀で襲われた)
曽根)「髪をジャン切りにして、筒袖に兵児帯。五尺にも足りない小柄ながら、少々四角ばった顔のイカツイ格好にそぐう目の威力が。ぞんざいな関西べらんめいの話しぶりにも耳をかしげる魅力がある」
佐伯)ふ~ん、関西弁だったんですね。しかも、べらんめいという(笑)
曽根)各地を転々としていた時に大阪とか神戸にも行かれたようで、たぶんそこで関西弁が身についたんだと思います。
佐伯)だけど、ちょっと角ばった顔で目の威力が…っていうのがね、なんだか想像できてしまう感じなんですけれども(笑)
曽根)あとは林芙美子の短編小説「小さい花」にも、“おりくさん”という名前でイトさんが登場します。
佐伯)あ、林芙美子さんは尾道(イトの出身地)にも縁がありますもんね。
曽根)そうですね。
佐伯)林芙美子さんは、どんな風に…
曽根)はい、「髪を男のように短く刈り上げ、筒袖の粋な着物に角帯を締めて、その帯には煙草入れ」という風に表現されています。
佐伯)お~、そうなんですね。やっぱり本当に男性のいでたちで過ごしてらした、それが堂に入ってたっていうのが伺えますね。
曽根)そうですね。
佐伯)じゃ、そういう文人の方、それから政治家、また周りの方々も含めて、本当にこう人に愛されるような人物だったということですか。
曽根)はい。慈善事業家でもあったようで、因島の土生地区に、幼稚園や女学校を建てるっていう支援を行いました。
佐伯)へ~、そうなんですか。
曽根)あとは、町に排水溝を設置するなどの社会インフラ事業なんかも行っております。あと養女を迎えて女学校に通わせるなど、弱い立場にある人を助けたという風にされています。
佐伯)ああ、このあたり、先ほどの「自分を襲った男に、出所してからちゃんと仕事を与えた」っていうところと、なんか相通ずるところがありますね。
曽根)そうですね。
佐伯)弱い立場の人を…
曽根)助けるっていう。
佐伯)へ~。
[ Playlist ]
Hindi Zahra – Fascination (Album Version)
Elizabeth Shepherd – It’s Coming
Athlete – El Salvador
Sim Redmond Band – Life is Water
The Big Fish – Happy Ever After
Todd Rundgren – It Wouldn’t Have Made Any Difference
Selected By Haruhiko Ohno