今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、四国中央市の関川公民館館長・寺尾晴志さん。四国中央出身で「一絃琴の中興の祖」と呼ばれる、真鍋豊平についてお話を伺いました。一絃琴というのは、文字通り一枚の板に一本の絃を張ったシンプルな琴。平安初期に須磨に流された在原行平が寂しさをまぎらすため、浜辺に打ち寄せられた舟板に冠の糸を張って弾いたのが日本での一絃琴のはじまりという説があるそうで、なんとなく哀愁を感じさせる音色に聞こえます。宮尾登美子の長編小説「一絃の琴」で一絃琴を知った方も多いと思いますが、「吾輩は猫である」「竜馬がゆく」といった作品にも登場しているんですよ。そんな一絃琴の中興の祖と呼ばれる真鍋豊平について、今回は「伝説から生まれた一絃琴」「坂本龍馬も弾いた一絃琴」「衰退から継承へ」というキーワードで紐解いて頂きました。


佐伯)真鍋豊平というのは、どういう人物だったんですか?

寺尾)江戸時代の終わり頃の1809年に生まれています。現在の四国中央市土居町上野の千足(ちたる)神社の宮司の長男として生まれています。ちょうど21歳の時に、常陸の国の画家であった杉隈南が諸国をめぐる途中に、この真鍋家に泊まるわけですね。泊まっていた時に、琴も一緒に持ってきていたらしいです。

佐伯)その一絃琴を。

寺尾)一絃琴を。そして、絵を書いて一服する時に一絃琴を出して弾いていたのを豊平は聞いて、「是非これを教えて欲しい」ということで頼んでですね、その時に2曲習ったらしいんです。「須磨」と「今様」という2曲を教えてもらったんですが、(隈南が)帰る時に…5、6日ぐらい泊まってたそうなんですけども、その間に覚えて。

佐伯)たったの5、6日で?

寺尾)はい。それで帰る時に、「豊平は音楽の天才だ」ということを言って去ったらしいんです。

佐伯)そうなんですか!

寺尾)はい、そういうようなことが言われています。

佐伯)いや~、5、6日で…。だって、初めてそこで見た楽器でしょう?それを曲を2曲も習得するなんて、やっぱりセンスがあったってことですよね。で、そこで一絃琴に出会って身につけた豊平さん、そこからどうしていくんですか?

寺尾)そこでずっと一絃琴の研鑽を積みながらですね、今度は九州とか中国地方とか、京都とか伊勢の方へ、ずーっと旅をします。

佐伯)すごい、西日本ツアー(笑)

寺尾)そうですね(笑)。その中で演奏法を研究したり、作詞をしたり作曲をしたり…

佐伯)あ、(一絃琴を演奏する時には)歌も歌うから。

寺尾)そう、努めていたんですよね。全体の一絃琴の普及に努めていったと。そういう中で九州の阿蘇の宮地に着いた。滞在しよった時に、それまでは右手の親指で絃を弾いてたらしいです。それを、食指って書いてますので人差し指にさして、そして弾くように工夫もしていったというようになってます。で、このようなことがあってですね、一絃琴の中興の祖というのが真鍋豊平だというように言われているんだろうと思います。

佐伯)へ~。じゃ、本当に偶然の出会いが豊平を一絃琴の虜にして、そこから普及していくという流れになるんですね。自分が楽しむだけではなくて、そういった各地を巡りながら広めていったというところに、この人の功績があるわけですね。

寺尾)そうです。

佐伯)で、そこからどうするんですか、もうずっとそういう…

寺尾)いや、それから京都へ出て行きます。

佐伯)都へ。

寺尾)家督を弟に譲ってですね、そして京都へ出て行って、公家の間で一絃琴を教えたりしていたわけなんですけども、やがて正親町家の中納言の家で一絃琴の取締役…そこで一絃琴の師範の取締役のようなことを仰せつかります。その後に版権を譲り受けて、豊平が家元になります。

佐伯)家元にまで!でも宮司さんの長男だったわけでしょ、由緒ある家柄っていうか。その家督を譲ってまでお琴の方に傾倒していくっていう、そこまでの情熱があったんですね。

寺尾)かなり京都では広まっていたんでしょうね。門人も幕末の頃には1800人いたと言われてますので。

佐伯)え~、そうですか!それはお公家さんとか権力者の方とかにも教えるようになっていったってことですか。

寺尾)ですから、その間にですね、1848年ですか、豊平が譜本を作っています。

佐伯)譜本?

寺尾)ええ、「須磨の栞」というものを作ってですね、それが一絃琴のバイブルになってると。

佐伯)楽譜みたいな感じですか?

寺尾)そうそう。弾き方のノウハウとか歌詞とか、そういうものがその中におさめられているんで、この栞があったからこそ一絃琴がますます普及していったということが言えると思います。ですから、今残っている曲の過半数以上が豊平の作詞作曲と。

佐伯)えっ、今も?

寺尾)そうです。

佐伯)半数以上?へ~!

寺尾)ですから豊平の業績の大きさというのが、ここでよくわかると思うんですけども。そういう所以もあって、一絃琴の中興の祖という形になってきたんじゃないかなと思います。

 

 


[ Playlist ]
Bill Withers – Lovely Day
Cat Power – After It All
Prince – What Do U Want Me 2 Do
Christy Baron – Overjoyed
Jack Penate – Learning Lines

Selected By Haruhiko Ohno


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