今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、生活研究グループ「さつき会」の会長・戸田久美さんです。石鎚地方に伝わってきた「幻のお茶」と言われる石鎚黒茶。「さつき会」の皆さんは、二段階発酵で手間も時間もかかる「石鎚黒茶」を作っていて、今年3月に「石鎚黒茶の製造技術」は国の重要無形民俗文化財に指定されました。この指定は、愛媛では42年ぶり2件目のことです。発酵に必要な菌は石鎚地域ならではのものですが、一度は「石鎚黒茶」の歴史が途絶えそうになったこともあるそうで…。


佐伯)お話の中で、ちょっとずつ作る人が…江戸時代に始まってるけど減ってきたということもおっしゃってましたけれども。

戸田)それはもう時代の流れで、石鎚地区の過疎化、もう過疎化によって本当に山の人たちがみんな、自分たちが住んでる所に下りてきたんですよ。で、徐々に作っている家庭も少なくなったっていう状態。もうどこの家でも普通に、お漬物なんかを作るのと同じに作られてたお茶なので、1年間飲むものとかっていうような形で作られてたんだと思う。

佐伯)でも、そうして作っている地域からどんどん人がいなくなって…

戸田)そう、最後一軒だけが残ってたんですけども。

佐伯)それ、いつ頃ですか?最後の一軒になったっていうのは?

戸田)確か平成8年ぐらいにテレビで放送されたと思うんですけど…

佐伯)あ、そうなんですか、平成に。

戸田)はい。

佐伯)その最後の一軒だった方っていうのは、どんな方だったんですか?

戸田)曽我部さんっていう夫婦だったんですけども、その人が…地元の、うちの近くなんですけども下りてきました。

佐伯)平野に。

戸田)東予市になるんですけどね、川を橋渡ったところ。

佐伯)そちらに下りることになったら、もう作る人がいなくなっちゃうってことですか?

戸田)そうです。そういう、もうやめるっていう事を聞いて、まだ山で作ってる時なんですけども、それを聞いて「もったいない!そんな地元の貴重なお茶をね、やめてしまうのはもったいない」ということで、生活研究グループが「そこで私たちが後を継いでするから、製法を教えてください」とお願いに行って教えてもらって。でもその曽我部さんたちが作っていた標高と、自分たちができる標高、山の高さが違うので、同じような味っていうのはちょっとなかなか出せなかったので、「さつき会」は「天狗黒茶」っていう名前で作るようになったんですけども。

佐伯)そうなんですか。

戸田)それでも、ちょっとね、試行錯誤…あずりました。(※あずる…「手こずる」「苦労する」という意味の方言)

佐伯)あずりましたか!曽我部さんって方が住んでいた、もともと多くの方が石鎚黒茶を作っていた集落は、標高が?

戸田)たぶん600から800mの高さ、かなり高いところなんですよね。

佐伯)で、「これは残さんといかん!」という方々が活動するって言ってた所の高さが…

戸田)もう100とか200mとかっていうところなので…

佐伯)それだけ標高差があると味も変わってくるんですね。

戸田)その標高差がだいぶん味には違ってくると思います。

佐伯)へ~。ただ、その製法で「天狗黒茶」ということで残したと。

戸田)そう、同じ味は出せないから「天狗黒茶」っていう名前で販売することになりました。

佐伯)でも味は違っても、製法はそうして受け継がれたわけですね。

戸田)そうです、そうです。

佐伯)うわ~、江戸時代から続いていたその製法が危うく、その曽我部さんが山を下りることで無くなっちゃうところを、その地元の女性たちが「それはいかん!」と立ち上がったわけなんですね。

戸田)そうそう、そうそう。

佐伯)その製法が二段階発酵でしたっけ、手間のかかる…

戸田)そうです。

佐伯)珍しい作り方だったんですよね。

戸田)そうです、はい。

佐伯)世界でもそんなに多くはないんですか?

戸田)今回いろいろ調べた結果、世界でも2つしかないのがわかったんです。

佐伯)えっ!世界に2つ?そんなに珍しかった!

戸田)それも、日本の四国の碁石茶と石鎚黒茶、この2箇所しか二段階発酵してるっていうお茶はないということがわかったんです。

佐伯)え~。なんか不思議ですね。

戸田)もう、その話を聞いた時には鳥肌が立ちました。

   

 


[ Playlist ]
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Marvin Gaye – Mercy Mercy Me
Melissa Manchester – Bad Weather

Selected By Haruhiko Ohno


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