今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、松山市民劇場事務局長の久野はすみさん。明治の松山出身の名優・丸山定夫について、お話を伺いました。大正から戦時中にかけて、映画に舞台に活躍し、「新劇の団十郎」の異名をとった丸山定夫。9月には、彼ら演劇人の苦悩を描いた群像劇「獅子の見た夢―戦禍に生きた演劇人たちー」が今治と松山で公演予定です。今回は丸山貞夫の演劇人生について、「エノケンとの出会い」「政府からの弾圧」「広島で被爆」という3つのキーワードで掘り下げました。


久野)丸山は、劇作家の三好十郎という方がいるんですけど、その方の「獅子」という作品をどうしても上演したかったんです。

佐伯)「獅子」?

久野)はい。

佐伯)「獅子」って…今度上演される「獅子」?

久野)そうです、「獅子」というのは、ここから来てます。

佐伯)ライオンの「獅子」ですよね。これは、どんな内容なんですか?

久野)これがですね、いわゆる一見メロドラマなんですね。

佐伯)へ~。

久野)信州の…まあ田舎なんですけれども、そこの当主をやってるのが丸山定夫なんですけど、その当主と…どっちかって言うとなんというか勝気な奥さんがいて(笑)。なんかそういうの多いですよね、ダメ親父と勝気な奥さん。で、娘が1人います。娘を幸せにするために、お母さんはなんとか金持ちの息子のところに嫁入りをさせたい。ところが娘には思い人がいる。で、それが言い出せない。それを気弱なお父さんがですね、見守っているわけなんですけど、 ついにですね、最後にその娘は自分の好きな、本当に好きな相手と汽車に乗って満州に駆け落ちするんです。

佐伯)駆け落ち!

久野)はい。そこで、お母さんはもう怒り狂って、「もう、あの子を止めなくちゃ!」となるんですけど、お父さんの丸山は「それでいい、それでいい」って言いながら、娘の幸せを祈って「獅子舞」を渾身の力で踊るというのがラストシーンなんです。

佐伯)その「獅子舞」の「獅子」なんですか?

久野)そうです。

佐伯)は~。

久野)この作品が何でこんなに丸山がやりたかったかっていうことがすごく大事で。この作品の中にね、「人間は一生のうちで本当にしたいことがあったら、その時には崖から飛び降りるつもりでせにゃならんぞ」って言うんですよ。これを、たぶん丸山たち演劇人は訴えたかった。

佐伯)は~、すごい…

久野)娘の駆け落ちっていうラブロマンスというか、そのメロドラマに託した思いっていうのは、「自分たちが思いのままに生きるんだ」っていう、その思いだったと思うんですね。

佐伯)「いざっていう時には、崖から飛び降りるつもりで」っていうのは、戦時中にこのお芝居を、しかも駆け落ちするっていう内容のお芝居にトライするっていうこと自体が、まさにそのセリフを体現している…

久野)そうなんです。

佐伯)そういうのって検閲に引っかからなかったんですか?

久野)そうなんですよ、割とメロドラマは引っかかりやすいんですが、ここがまたね、賢いところというか、三好十郎の作家の賢いとこなんですけど、駆け落ち先が満州なんですよ。

佐伯)はい。

久野)当時日本は満州を統治しようとしていた。だから国策と一致したんです。

佐伯)え~!そこまで考えられた脚本なんですか。

久野)そうなんです。じつは、後に「満州に駆け落ち」っていうのがリアルでなくなった時には、北海道に行くことになっちゃったりとか改編されるんですけど、そうやって時代を生き延びる。でもそういう細かい所はさておき、この作品の持ってる主題というかね、大きなテーマというのは「人間は自分の生きたいように生きるのがやっぱり幸せなんだよ」っていう、そこを訴えたかったんですね。

佐伯)は~、でも本当に「この時代にこのお芝居を」っていう所に、まさにその覚悟というか決死の思いっていうのが感じられますね。

 

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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