今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、四国中央市の「紙のまち資料館」学芸員・近藤弘樹さん。旧宇摩郡土居町出身の安藤正楽(あんどうせいがく)について伺いました。幕末から昭和にかけて、県会議員、歴史学者、人権思想家、画家、俳人…と様々な分野で足跡を残した安藤正楽。地元に建立する「日露戦役記念碑」に非戦を訴える文章を刻んだことから全文が削り取られ、「顔の無い石碑」として残されています。これが全国的にも珍しい反戦メモリアルとして、平和教育に活用されているそうです。今回は安藤正楽を「人道主義」「顔の無い石碑」「故郷のために」のキーワードで堀り下げました。


佐伯)では3つめのキーワードです。「故郷のために」ということなんですが、正楽は地域のために県会議員もされた訳ですし、色々と手を尽くしていったんですね。

近藤)正楽は自分が学んだりしたことを地域に還元しようと模索した人生だったとも言えるんですが、その一つが春日井水道というのがありまして。

佐伯)水道?

近藤)はい。これが大正9年にですね、自分の銀婚式を記念して、私財を投じて春日井水道ということで簡易な上水道的設備なんですけども、これを設営しました。

佐伯)ご自身の銀婚式を記念して作られたんですか?

近藤)そうですね、奥さんの進言があったとも言われていますが、やはり四国中央市は土地が大変狭いんですけども、傾斜が急で雨がすぐ海に流れて水不足、水上がりが悪いというようなところでですね、大規模な工事、井戸を掘るというか本当にトンネルを抜くような感じて、傾斜を利用して水路となるトンネルを掘って石積みをして排水をした。この遺構は今も残っています。

佐伯)そうですか。

近藤)見ることが可能です。で、費用を、私財を投じたと言いましたが3000円余り、現在でいうと2000万ぐらいでないかと思いますが、そういうこともやっていますね。

佐伯)なるほど。

近藤)もう一つまた面白いのが我々「小富士人形」という風に呼んでいますけども、彩色の日本人形のような焼き物の人形なんですが、これはですね、昭和に入ってから、昭和9年前後ぐらいからなんですが、農村不況救済ということで、農村の生活というのは非常に不安定なものですから何かしら現金収入を得られるような産業を地域に起こそうということで、「小富士人形」というものを作ったんですね。なので人形もたくさん残っていますが、型枠が残ってまして、大量生産できるようなことも念頭において作られていました。これが与謝野晶子との交流の中で東京の与謝野家にも送っているのですが、その中に添えられた手紙に人形制作の意図が書かれてまして、農家が現金収入を得られるようにしたいと。ただ軍国主義の今日では思うに任せないという気持ちなんかも吐露したところが見られます。

佐伯)正楽はもともと東京で学んで、卒業後いったん故郷に帰ってきたということからも、やっぱり地元をなんとかしたいっていう思いの強かった方なんでしょうね。

近藤)そうですね。自分が吸収したものを地域にどう活かしていけるかというのは、やはり苦悩していたんだろうとは思います。また県議の時代の話になりますが、正楽自身ずっと学びの人生を送ってきたという…幸福な人生ではあるんですけども、やはり県議時代なんかもですね、教育の機会均等というのをテーマに取り組んでいたというのが、議事録なんかを見てですね、分かります。一番材料として取り上げられるのが同和問題への言及であるとか障害者問題、こういうところに議員として言及をしています。その中でもですね、やはり子供達への視点ですね。いずれの問題にしても子どもの学びの機会均等、そこに差別があるということが問題であるということをずっと繰り返して言っていまして、結果それが改善に繋がっていくというようなところですね。県内においておそらく公の場で公職にある人がこういうことを記録に残る形で言及しているのは、正楽がほぼ最初ではないかなという風に思います。

佐伯)先ほどの「顔の無い石碑」に書いた文章もそうですけども、やっぱり先見性を持った人物であったということが言えますかね。

近藤)そうですね。色んな所を行ったり来たりという話を最初しましたが、やはりいろんな事象を見てみると根底に流れるものは何か共通したものを感じるというのが、長い人生を振り返ってみた時に言えるのかなと思います。ちょっと面白い1フレーズがあるんです。ご紹介したいんですが、ご自身の孫が誕生した時にですね、手紙を送っているんですが、まだ名前がないんですね、赤ちゃんで。

佐伯)はい。

近藤)で、「人間様へ」って宛名を書いて、東京から手紙を送ってきているという。

佐伯)へ~!

近藤)この感覚って、現代人の我々からみてもなかなか…

佐伯)そうですね、「確かに!」という。

近藤)そのへんに、人権感覚というのが驚かされるとこですね。

 

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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