今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、萬翠荘館長の曽我部英毅さん。昨年11月に築100年を迎えた萬翠荘をつくった久松定謨(ひさまつさだこと)について、お話を伺いました。小説「坂の上の雲」にも登場し、番組で幕末以降の松山について語る際に何度も名前が出てきた定謨公。今回は「フランス生活15年」「人材育成」「松山城と萬翠荘」という3つのキーワードで、その人物像に迫りました。


佐伯)では2つ目のキーワードです、「人材育成」ということなんですが、こちらはどんな動きをされたんでしょう?

曽我部)まず一つ目、「常磐会の設立」ということが挙げられます。明治初頭ですね、久松家は日本橋浜町のお長屋を、松山から勉強のために上京してくる旧藩士のための寮として開放し、学生の事情によっては学資を給付していました。その後ですね、明治16年、久松家の出資によって常磐会が設立されました。この常磐会の第1期の給付生として正岡子規が選ばれたんですけれども、子規は後にですね、このことを「半生の喜びのひとつだ」と述べていたそうです。

佐伯)このエピソードはね、実は番組でも何度かご紹介しておりますけれども、この常磐会と言いますと、寮の監督をあの好古さんが務めた…

曽我部)そうですね、第三代の監督を務められたそうです。

佐伯)ですから「坂の上の雲」のメンバーとも縁の深い常磐会ということなんですが、実はこれ今も続いてるんですね、その流れは。

曽我部)はい、日本橋からですね、まずは明治20年に、文京区本郷にありました坪内逍遥の邸宅跡に常盤会寄宿舎というものを建設しました。子規もですね、この寄宿舎に明治21年から明治24年暮れまで書生として過ごしたそうです。

佐伯)東京の文京区本郷って言いますと、東大をパッと思い浮かべる方も多いと思いますけども…

曽我部)そうですね。

佐伯)じゃあその辺りにということになるんですね。やっぱり東京に住んでいても地元松山への愛っていうところが、松山の若い人たちをバックアップしようという思いに繋がっていってるんでしょうかね。

曽我部)そうですよね。この常磐会寄宿舎なんですけれども、戦後はですね、東京都東久留米市に常盤学舎として復活しまして、愛媛県中予地区の出身者を中心とした、大学に進学する男子学生ですね、を対象とした学生寮として今もなお運営をされております。こうした常磐会を運営してきたわけですけれども、それより以前にもですね、東京において大きな実績を残しております。というのが日本橋久松町にある中央区立久松小学校。明治6年の設立なんですけれども、その校名の由来というものがですね、当初、町名の日本橋久松町から取ったものだと考えられておりました。そこでですね、校友会関係者の方々がですね、校名の由来を調査、これを進めていたわけなんですけれども、ある資料からですね、「久松家からの寄付一金千圓」、現在の貨幣価値で数千万円と言われておりますが、を筆頭として学校が設立されたという記述がありまして、考証を重ねた結果、この久松定謨伯爵の献金が元で、久松定謨に由来する久松小学校という校名となったことが明らかになりました。

佐伯)そうなんですね。日本橋と言いますと都内の本当に一等地で、実は私この辺りを歩いたことがあるんですよね。

曽我部)そうですか。

佐伯)久松児童公園なんていうのもあったりして、「久松って、あの久松かなあ」なんて思いながら、ずいぶん広いなぁと感じながら歩いた区域なんですけれども、町名じゃなくって久松家っていうのがもとで久松小学校になるということなんですね。

曽我部)で、またこの小学校のすごいところがですね、10年単位の周年行事っていうのがあるかと思うんですが、創立100周年ですとか…

佐伯)ええ。

曽我部)この式典の際にはですね、天皇陛下をはじめ、秋篠宮様ですとか、皇族の方々がご出席されるという…

佐伯)そうなんですか!

曽我部)凄い小学校なんですね。

佐伯)その小学校の設立にあたっても多額の寄付をされたという実績もあったんですね。そのようにして様々な形で後進の育成に尽くされたという一面があるわけですね。

曽我部)そうですね。東京だけでなくてですね、松山においても明治5年に松山市立番町小学校の前身であります勝山学校ですね、こちらの設立時に多額の寄付を行ったということもあります。で、久松定謨の寄付をした学校ということでですね、これをきっかけとしまして、昨年11月の100周年記念イベントの一つとしまして、東京・久松小学校と松山・番町小学校、4年生の児童だったんですけれどもオンラインによる交流を行いました。各地域の歴史であるとか、そういったことをいろいろ児童のみなさん勉強してですね、お互いに発表しあうというような、なかなかの意義のあるイベントだったと思ってます。

佐伯)100年の時を経て、その二つの小学校が交流するっていうのは、とっても素晴らしいことですね。

 

 


[ Playlist ]
Todd Rundgren – It Wouldn’t Have Made Any Difference
Roy Ayers – Time And Space
Elizabeth Shepherd – It’s Coming
Barbara Acklin – Love Makes A Woman
Sonya Kitchell – Cold Day

Selected By Haruhiko Ohno


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