今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、西条市教育委員会事務局社会教育課副課長の伊藤敏昭さん。江戸時代の儒学者で教育者でもあった近藤篤山について、熱く語っていただきました。西条市小松町には今も篤山の住まいがほぼそのまま残され、県指定の文化財にもなっています。その教えは小松小学校の校訓に活かされているほか、小松高校の校歌には篤山が整備した藩校「養生館」にちなんだ歌詞が入っているなど、今もなお地元の方々に「篤山先生」と呼ばれて敬愛されている人物です。
佐伯)篤山は、どういう教えを施してたんですか?
伊藤)今に伝わって有名なといいますか、「三戒」っていう風な教えがあります。「立志」「求己」「慎独」というね、ちょっと言葉は聞いたら難しい感じなんですけども…
佐伯)「立志」は「志を立てる」の「立志」ですね。
伊藤)「立志」は篤山先生の教えとしてはですね、もともと皆生まれ持った才能があるじゃないかと。それをさらに高めてですね、活躍できるように頑張って勉強しなさいっていう風な意味に置かれております。それから「求己」、これは「己に求める」っていう「求己」ですけど、失敗しても人のせいにせずに、自分の中に失敗の原因であるとかそういうのを求めなさいと。
佐伯)己に求めるということなんですね。
伊藤)そういうことですね。あと「慎独」、慎は慎む、あと独は独りですね、「慎独」。これは、人が見ていようが見ていなくても同じ態度でいなければなりませんよっていう教えてす。
佐伯)これが篤山の「三戒」。
伊藤)「三戒」という教えですね。それだけじゃなくって他にもありましてですね、篤山先生のとこに塾生として通ってくる武士たちももちろんおったわけですけど、その武士のですね、丹っていう武士がおったんですけど、その奥さんとかはですね、自分の夫が篤山先生とこから勉強してきた「四如の喩」っていうのがあるんですけど、それを「これは女子向けの教育にいけるんじゃないか」と。実際、篤山先生としてもそれを意識しておったみたいなんですけど、それでその奥さんがその教えを使って女子教育を始めるとかいうようなこともね、起こりました。
佐伯)草の根が広がっていく感じ…
伊藤)そういうことですよね、はい。
佐伯)この「四如の喩」っていうのは、具体的にはどういう教えになるんですか?
伊藤)四つの事柄に喩えてるんですけれども、一つ目がですね、「上に仕うるは」。上の人に使われる時には布団を敷く如くほっこりということなんですよ。
佐伯)はい。
伊藤)要は礼儀正しく、優しい温かい心で使われましょう。
佐伯)こっちが使われる時ですね。
伊藤)で、「客をもてなすは家具を扱う如くかたひしとせず大事に」。お客さんを扱う時は、箪笥とかね、家具を扱う時みたいに…優しく移動させたりするじゃないですか。
佐伯)大切に、ぶつけないようにとか。
伊藤)そうそう。お客さんに対しては、そうしてくださいねと。あと「人を使うは火をたく如く」。
佐伯)今度は自分が使うほう。
伊藤)そう。「火をたく如く人すごさずふすべず」。ボーボー燃やしすぎてもダメだ、かといって消えてもダメ。だから人を使うときは、ほどよい加減で扱いなさいよということですね。
佐伯)ああ、なんかこう…その人が暴走しないようにしつつ、でもやる気が全然なくなるようにしてもいけないしっていう。
伊藤)そういうことですよね。
佐伯)いい塩梅にっていう(笑)
伊藤)いい塩梅(笑)。で、最後は自分を使う時は「水を使う如くおしげなくさっぱりと」働けと。というふうな四つの喩ということです。
佐伯)これが女性に対する教えとしての喩になってるっていうことなんですか?
伊藤)家事に置き換えたら分かりやすいですね。お客さんが来たとかね、そういうことでしょうね。
佐伯)ということはですよ、篤山先生を通して女性教育みたいなところにも広がっていったということなんですね。
伊藤)そうなんです。それが結局、丹美園さんという方が女子向けの私塾を開くと、いま言いました通りなんですけど、その私塾っていうのが、明治になりました後も愛媛県初の女子校として法律で認められて。だからそういう意味では、愛媛における近代女子教育の基になったのかなということですね。
佐伯)そういうところにも影響を与えていたんですか。
伊藤)はいはい。
佐伯)なるほど。他に「こういう立場の人にも教育を」っていうのあります?
伊藤)やっぱりですね、篤山先生は、民衆に一番近いのはお庄屋さんであったりとか役人であったりすると思うんですけど、そういう人に向けた教えっていうのもね、「古霊教育講義」という風なものが残っとるんですけれども、そういうものを通して民衆に染み込むような教えも説いておったということですね。
佐伯)篤山自身が元々は庄屋さんの子供だったっていうところも、そういう立場の方々に向けてっていう気持ちがあったのかもしれませんね。
伊藤)そうでしょうね、きっとね。
[ Playlist ]
The Breeders – Drivin’ On 9
Tracey Thorn – Like a Snowman
Ásgeir – In The Silence
Selected By Haruhiko Ohno