今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、美術歴史家で松山兎月庵文化歴史館の館長・小椋浩介さん。一般的に美術家と歴史家は別々のものですが、小椋さんはお一人で二役を担っておられます。信条は「本来、本物、本質」。そんな小椋さんに「先人たちのメッセージ」「もともと松山にあったもの」「松山の伝説と昔話」をキーワードにお話を伺いました。
佐伯)きょうは秋山真之の直筆の書の話から松山のたぬき伝説まで、歴史にはいろいろな楽しみ方があるなっていうのがわかったんですけれども、途中ちょっとお話しいただきました地名から分かってくる事っていうのも色々あるわけですよね。
小椋)そうですね、まず松山は先ほどお話ししましたけど築城の際ですね、加藤嘉明公が供にした足立半助重信というのがいます。これにいわゆる松山平野というものをつくる算段をするんですね。当時は天山か御幸寺山という、この二箇所が候補地だったんですね。その候補地の一番を取るということは、幕府に対しての礼儀がならんと、そういう風に言われる方もいます。それで、その名前が出てない、あえて勝山を選んだと言う説もあります。今日は伊予里人談という古典的な本をもとに話させていただくと、加藤嘉明公はまず松山に来た時に山の名前もわかんないんで、当面はふなぞこ山と呼んでいたらしいんですね。
佐伯)ふなぞこって、舟の底と書く舟底ですか?
小椋)はい、舟がひっくり返ったようなと。
佐伯)あ~、はい。
小椋)それが、いわゆる今の城山のことですけど。それはなぜかというと、その周りを取り囲む場所が湿地帯であったと。
佐伯)え、湿地だったんですか?
小椋)そうです、そうです。沼があったり湿地帯があったりとかね。そういう風に舟がひっくり返ったように、周りがたぶん水浸しに見えたんだと思うんですね。
佐伯)え、ちょっと今からは想像がつかないですが…。でもそんな湿地帯の中にある山にお城を建てるなんてちょっとピンとこないと言うか、条件的にはよろしくないのではないかと。
小椋)いわゆるものすごい手間暇がかかる、費用もかかる。それが幕府に対するロイヤリティだったんだと思うんですね。
佐伯)え~?
小椋)まだ戦国の世が終わって間もない頃なんで、謀反の心はありませんという意味で、まあすごく費用のかかる道を選んだんだと思うんです。
佐伯)そうなんですか!じゃ、ものすごい忖度、ですね。
小椋)そうですね(笑)。だから古文書には、加藤嘉明公が夢枕に立った場所をということになってますけど、まぁ実際はどうだかちょっとはっきりしたことはわかりません。
佐伯)へ~、そうなんですか。で、その舟底山だったところが、築城するにあたって松山になっていったという…
小椋)山の名はもともと勝山という名前なので、足立半助が山の名を尋ねたところ、勝山と地元の人が答えたということになってます。
佐伯)でも本当に今の松山が、この平野部分…二番町だったり三番町だったりが湿地帯だったということなんですね。それって何か地名から今でも窺えるっていうような感じはありますか?
小椋)そうですね、例えばこのスタジオのすぐ近くに阿沼美神社というのがある。
佐伯)はいはい。
小椋)これはもともと勝山の、今のお城山の上に味酒八幡というのがあったんですね、味酒八幡宮という神社が。それを今の阿沼美神社のほうへ築城の際に移動してるんですけど、その勝山から西を眺めた時に、「あな美しき沼」という…
佐伯)阿沼美の「ぬ」は「沼」ですね!
小椋)「あな美しき沼」の神社ということで阿沼美神社という名前で、今も名を継がれています。
佐伯)そうでしたか!
小椋)で、もともと八幡神社なんで、あそこからお神輿なんかもだいたい出ていくんですね。
佐伯)あと、街中なのに「湊町」とか「千舟町」とか、何かこう港にまつわるような地名がありますよね、松山。
小椋)そうですね。だから今の街の景色は頭から消して…
佐伯)消して、はい(笑)
小椋)沼地、湿地帯というふうに、頭を空想の中で変えて頂いたら、やっぱり交通の手段としては舟なんですね、小舟。今のちょうど髙島屋のあたりの所が中之島ということになります。
佐伯)ほ~。
小椋)陸地があったわけ。で、湿地帯で舟でそこへ着くんで、いわゆる港町という湊。
佐伯)おお。
小椋)で、久米郡と、今回は温泉郡を湯郡と呼ばせていただきますけど、湯郡久米郡に行くためには舟で行く方が早いと。山を越えていくとすごい時間がかかる。それで舟がたくさん行き交うんで「千舟」という名前になったという…
佐伯)その「たくさん」という意味で「千」!一十百千の千ですよね。
小椋)たくさんという意味では、古典では「千」という言葉も使うし、八百というのも使いますね。八百屋さんもそう。八百八というのが「たくさん」という意味。
佐伯)そういう文字ですとか地名に込められてる意味っていうのが分かってくると、昔の町の様子だったりとか、そういうところまで思いを馳せることができるんですね。
[ Playlist ]
Yumi Zouma – December
Rickie Lee Jones – On The Street Where You Live
Rumer – Blackbird
Selected By Haruhiko Ohno