今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、松山歌人会・会長の片上雅仁さん。正岡子規の叔父で、外交官、政治家としても活躍した加藤拓川について話を伺いました。「拓川」というのは雅号なんですが、拓の字は手偏に石。じつは、故郷・松山を流れる「石手川」にちなんだ雅号なんですって。中央政界で活躍しながらも、郷里のために尽くしてほしいと乞われて松山市長になった加藤拓川。友達づくりの名人とも呼ばれていたそうで、こんな人たちとの絆のエピソードが…。


佐伯)続いて三つめのキーワードです、「華麗なる人脈」。ここまでも随分「華麗なる人脈」出てきたと思うんですけれども、まだまだいらっしゃる加藤拓川と繋がった人たち?

片上)そうですね、原敬、国分青厓、福本日南、これは申し上げましたね。もう一人ぜひ挙げておきたいのは新田長次郎さん。

佐伯)はい、冒頭にも触れましたが。

片上)これ、出会い方が面白くてですね、新田長次郎は動力伝達用の皮革ベルトの生産で一夜で大富豪になってしまいます。で、やっぱり欧米を見てみたいんで、欧米工業事情視察って言って彼は2回欧米を回るんですが、その1回目にパリへ行った時に日本公使館、今で言う大使館ですね、日本公使館に立ち寄ったら、ちょうど拓川が応対してくれましてね。話してるうちに拓川がですね、「新田さんって言われました?あなたはひょっとして松山のご出身ではありませんか?」と。長次郎が「その通りですが、どうしてわかりますか?」って。「いやぁ、言葉の端々にやはり松山言葉が」って。「あ~、そうですか!」で一気に打ち解けて、拓川が「私の部下で、非常にフランス語もよくできるしパリの地理に詳しい者がおりますから、こいつが今日から三日間ぐらいあなたのガイトをやりますから」ってガイトをつけてくれて。あと水が変わると胃の調子が悪いっていうとエビアン水、エビアンって今も売ってるエビアン水がいいですよって勧めてくれたり、本当に調子良くなったり。そんな感じでとにかく親切。それが初めですね。以後ずーっと交流が続きます。

佐伯)そうなんですね。その二人が、きょう冒頭でも伺った松山高等商業学校…

片上)そうですね、松山高等商業学校を作ろうと。なんつったって私立で公のお金は一円も出ないわけですから。

佐伯)設立資金がね。

片上)結局大学作るのと同じでしょ、そりゃ中途半端じゃないお金がかかるんですよ。結局、新田長次郎さんが全部出したということなんです。

佐伯)全部出した!

片上)新田長次郎はそれ以外にもですね、本拠地だった大阪にも小学校を作ったりとか、北海道にも小学校作ったりとか、色々縁のあるところに小学校を作って結局地元自治体に寄付しちゃうとかいっぱいやってるんです。それで北予中学校のためにも何千円レベルを何回も寄付してますね。

佐伯)当時の…

片上)当時の何千円。で、「あ~、お金が足りない!誰かお金持ちが寄付でもしてくれないかな」と松山の連中が思うと一番にあてにするのは新田長次郎さん。

佐伯)ま、それだけ成功して資産をお持ちだったということですもんね。

片上)で、長次郎に「これこれにお金出してください」って言いに行くのは加藤拓川じゃないとダメなんです!

佐伯)これは決まってたんですか?

片上)そうそうそうそう。拓川が行くと、お金が出るんです。他の人が行ったら出るかどうかわからない。

佐伯)え~。

片上)拓川は東京にいるでしょ。拓川のとこへ電報かなんか行くわけですね。すると拓川がすぐに大阪の長次郎さんの屋敷に行って、そしたらたいていね、座敷に通されるんですよ。で、お茶が出てくると。拓川は一杯二杯、一口二口飲んで、「新田君、このお茶はちょっと渋いね」「キミ、あそこの掛け軸はね、あれはちょっとキミ趣味が悪いよ」って、決してゴマすらないっていうか頭下げない。なんか二つ三つくさすんです。で、長次郎さんはにたらにたら笑いながら聞いてて。で、拓川がやおら「ところでキミ、こんないい話があるんだけどね、これにちょっと金出さないかね」って。「これに金出さないようじゃ、キミも大したことはないよ」って。

佐伯)え~(笑)

片上)なんか寄付頼みに行ってるのに、そんなんでいいのかっていう(笑)

佐伯)ホントですよね(笑)

片上)そしたら出るんです。

佐伯)ハハハ(笑)

片上)今のお金にすると何億円、何十億円がポンっと出るんです(笑)

佐伯)それは二人の並々ならぬ信頼関係があるから。

片上)そう。考えてみたら、新田長次郎さんっていうのは松山の山西のね、そう裕福でもない農家に生まれて、学歴はつったら江戸時代の寺子屋に3年間いただけですよ。拓川はもうキンキラキンで外交官でね。

佐伯)そうですよね、藩校の…

片上)主任教授の息子で、もうものすごい教養で、ものすごい経験で、ものすごい知識人じゃないですか。もともとの身分制度的な考え方をすれば、もう雲泥の差ですよね。長次郎さんは事業で成功してお金持ちにはなった。でもまあ「あいつは本当はもとは大したことないんだよ」みたいに言うやつもたくさんいるわけですよ、やっかみとか。拓川はそういうこと一切気にしないで、「人の役に立って我が国の産業の発展に大いに役に立つことをした人だから偉いんです」と。だから本当に人として平等に付き合ってくれた。この人は本当に自分を同じ人間として平等に扱ってくれる人かどうかっていうのはもう、新田長次郎はやっぱり見抜いてたんですね。だからナンバーワンは拓川です。で、ほとんど同じレベルで秋山好古。この3人はすごい、すごい仲いいんです。

   

 

 


[ Playlist ]
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Selected By Haruhiko Ohno


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