今週は、「坂の上の雲ミュージアム」からの生放送!現在開催中の坂の上の雲ミュージアム開館15周年記念 小林修写真展「司馬遼太郎『坂の上の雲』の視点」について、学芸員の徳永佳世さんにお話を伺いました。長年にわたり「週刊朝日」の連載「司馬遼太郎シリーズ」の写真を担当している写真家の小林修さんの作品の中から、小説「坂の上の雲」をテーマにしたものを展示。その写真たちを見ていると、時空を超えて、小説のメッセージが訴えかけてくるように感じました。日本各地はもちろん、ロシア、イギリス、フランス、フィンランドなど、小説の舞台となった世界各地の写真が並ぶ中、この写真展の担当学芸員さんのリクエストで松山の様々な風景もいくつか展示されています。写真展は11月27日(日)までの開催です。

坂の上の雲ミュージアムHP


佐伯)では最後3つめのキーワードに参りましょう。「故郷・松山」ということなんですが、これ本当に松山の色々な情景がパネルになって展示されていますよね。その中で、徳永さんが注目しているのはどれでしょうか?

徳永)はい、「旧北予中学前(松山市)」です。陸軍大将から私立の北予中学校の校長になった秋山好古、そのエピソードを小説の中でも描かれているんですけど、好古がお城の東側ですかね、今ロープウェイ通りになってますけれども、歩行町の家を出てそこからお城の北側にある学校に向けて通った道のイメージということで撮られたそうです。

佐伯)旧北予中学っていうのは現在の松山北高等学校のところなんですよね。だからそこまで馬で通っていたという…

徳永)はい、馬だったり歩いたりですね。写真の中央には電車と一匹の猫が描かれてるんですけども。

佐伯)そうなんですよ!旧北予中学前っていうタイトルだから、北高の例えば正門だったりとか、学校にある何かこう歴史を感じさせるようなスポットだったりとかを撮影されてるのかなーと思ったら全然違ってて!

徳永)そうですね(笑)

佐伯)踏切の中を渡ってる猫ちゃんが主人公になって、その奥に市内電車と電車の停留所が写ってて。「え、これ!?」って、本当に意外でした。

徳永)猫にピント、焦点があってるんですけれども、小林さんは好古が登校する様子を、悠々と道を渡る猫に重ね合わせたそうなんです。

佐伯)いや~、それはもう本当に小林さんならではの視点ですね!

徳永)そうですね。通常、猫はすばしっこくて、道路をどんどん走っていくんですけど、この猫は何かゆったりしてると。納得がいく猫が現れるまでに3時間待って撮られたということです。

佐伯)へ~。じゃ、猫があそこを渡るっていうのは、小林さんは事前に取材というか…

徳永)見られてたのかもしれないですね。

佐伯)なんですね、で3時間も待って。

徳永)そうですね、こう好古さんのイメージを思い描きながら。

佐伯)そう思ってみるとあの猫ちゃんもどこか本当悠々と、なんか威厳があるようにも見えてきますけれども(笑)。好古さんも同じようにそこを悠々と…

徳永)そうですね。陸軍大将にまでなった人が松山の田舎の私立中学校の校長を務めるっていうのは、当時としては考えられない出来事だったんですけれども、好古は逆に「役に立てば何でも奉公するよ」と。「人間は一生働くものだ」と言って、校長就任を快諾します。で、約7年間、無遅刻無欠勤で通していて、好古が毎日決まった時間に来るので、好古の姿を見て時計を合わせた人がっていうエピソードも残ってるぐらい。

佐伯)そこからもね、好古さんの人柄というのが伺われますね。さあ続いては?

徳永)「三津の渡し(松山市)」です。写真は三津の渡しなんですけれども、小林さんは三津の港から小舟で汽船に乗り込む子規や真之の姿をイメージしながら撮影されたということです。当時は三津浜港が松山の海の玄関口で、好古、真之、子規が東京を目指して旅立った港です。昔は三津も浅瀬で、当時は小さな桟橋しかなくて、小さな手漕ぎ舟で大きな船に乗り移って、そういったところをイメージして撮影されてます。

佐伯)この「三津の渡し」って実は私も大好きで、こちらの坂の上の雲ミュージアムのインスタグラムで「松山の宝物シリーズ」っていうのに1回出させてもらったことがあるんですね。その時に選んだのが、実はこの「三津の渡し」だったんですよ。小さい時に祖父母の家に行くのに、この「三津の渡し」っていうのを何度も使っていたので思い出深く、そして小林さんがおっしゃるように子規そして真之、好古みんながあそこから船出して行ったっていう所も思い合わせて選ばせてもらったんですけれども。その「三津の渡し」がめちゃくちゃドラマチックな写真になっていることに驚きました。

徳永)はい、普段の、実際見る光景とはちょっと違って切り取られてますね。

佐伯)あのキラキラとした水面に、本当に素敵にこの「三津の渡し」船が描かれていて、奥の方に港町の風景が広がっていて、「三津ってすごくいいとこだな」って思わせてくれるような…

徳永)はい、改めて。

佐伯)そんな写真ですよね。

徳永)小説の中では、子規は松山中学を中退して上京して、真之もその後続いているんですけれども、「伊予松山藩の名を高らしめよ」「淳さん、泣くのはおやめ」「泣いちゃ、おらんぞな」…上京への希望、もうとにかく東京へ出たいという若い人たちの強い思いと、やはり故郷を離れる寂しさというものが入り混じって、そういうシーンが描かれてるんですけども、そういったことも思い描きながらご覧いただけたらと思います。

 

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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