今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、伊予史談会会長の山内譲さん。元松山大学教授で「中世の瀬戸内海地域史」が専門の山内さんに伺うのは、村上海賊の一つである来島(くるしま)村上氏の村上通(みち)総(ふさ)について。村上海賊には、能島(のしま)村上家、因島村上家、来島村上家の３つがあるんですが、中でも来島村上家は他の２つに比べ史料が少なく謎が多かったとか。そこにスポットを当てて研究をされたそうで、海賊とはちょっと結び付きにくいこんな姿も教えてくださいました。
佐伯）３つ目のキーワード「キリスト教への改宗」なんですが、通総ってキリスト教だったんですか？
山内）そうなんですよ、ちょっと意外なんですけど…
佐伯）そうとう意外ですね（笑）
山内）どうもそのようなんですね。
佐伯）これは何か書物などに残っているんです？
山内）そうなんです。来島村上氏側の史料の中には出てこないんですけど、当時日本に来ていた宣教師フロイスという人が「日本史」という記録を書いてるんですけど、その中で秀吉が九州攻めを行うんですね、全国統一の過程で。で、豊臣大名になった村上通総もそれに従うことになって九州に出陣するんですけど、その時のこととして、宣教師の記録の中に「来島殿が幾人かの部下とともにキリシタンになった」という風に書いてますね。
佐伯）来島殿？鎌倉殿ならぬ、来島殿。
山内）来島殿ですね（笑）。まぁ当時の村上通総に対する言い方だと思いますけど、そういう風に書いてますね。
佐伯）これは、そのフロイスさんが改宗をするように言ったんじゃなくて、この人が書いてる時点では、もう通総と部下の何人かはキリシタンだったっていうことですね。
山内）そうですね。フロイスさんが書いているところではですね、黒田官兵衛という…
佐伯）おお！
山内）あの有名な人物がいます、秀吉の重臣ですね。黒田官兵衛も秀吉の九州攻めに従っていたわけですけど、黒田官兵衛がキリシタンであったっていうことはよく知られていることなんですけど、その黒田官兵衛に勧められてキリスト教に改宗したと。そして下関へ出かけて行って、下関には宣教師がいるので、そこで洗礼を受けたという風に宣教師の記録には出ておりますね。
佐伯）確か織田信長はそういった新しいものに大変関心が高くて、ですから宣教師ですとかキリスト教というものに対しても大らかだった、で大名の中にも何人もキリシタンに改修した者がいた…っていうのはなんとなく私も分かってるんですけど、秀吉はそうでした？
山内）そうですね、秀吉は信長と違ってキリシタンに対しては、いろんな事情があるんですけど厳しい姿勢を示すようになりますね。
佐伯）ですよね。
山内）ええ、この後あの有名な「バテレン追放令」という、宣教師は日本に置いておかないという法令を出しまして弾圧を始めるんですけど、今お話ししてるのはちょうどその直前ですね。バテレン追放令が出される直前の状況で、改宗を通総はした。
佐伯）そうなんですね。
山内）ですから、バテレン追放令がこの後どういう風に影響を与えたかっていうことはちょっと分からない。
佐伯）ああ、そうなんですか。じゃあその追放されたりするバテレン追放令の前に、もうすでに改宗をしてキリシタンとなっていた。
山内）そうですね。
佐伯）その前だったから、豊臣大名であってもキリシタンになることができたということですよね。キリシタンですから洗礼も受けて。
山内）そうですね、どういう気持ちで通総がキリシタンに改宗したかというのは非常に興味あるところで我々も知りたいところなんですけど、来島村上氏側の史料には一切出てきませんので…
佐伯）そこがまた、ねぇ。
山内）そうなんですよ、よくわからないんですが、でもこれは想像を巡らすんですけど、キリシタン大名というのは一方では南蛮貿易にすごく熱心なんですね。その南蛮貿易の利益ということを念頭においてキリシタンになった人もいるんじゃないかっていうようなことが言われるんですけど、そういう視点で考えてみますと、通総は水軍力を持ってますし、それから物を運ぶ水運力も持ってますし、キリスト教に改宗したことと南蛮貿易を結びつけて考えてみると面白いかなあと（笑）
佐伯）これは先生の推測。
山内）想像、推測でございます（笑）
佐伯）でも、そう考えるとストンと腑に落ちる感じもありますね。
山内）そうですね。だから一見、海賊衆がキリスト教に改宗と言うと「え、何で！？」というところがあるかも分かりませんけど、そういう歴史的背景を考えると決してあり得ないことではないということですね。
佐伯）なるほど、これはちょっと楽しい想像が膨らみますね。
山内）そうですね。ですから私ももう少し資料を探してみたいなという風に思いますね。
[ Playlist ]
Sharon Jones & The Dap Kings – Better Things
Fairground Attraction – The Moon Is Mine
Dan Hicks & The Hot Licks – Strike It While It’s Hot
Maria Muldaur – Midnight At The Oasis
Kings Of Convenience – Gold In The Air Of Summer
Selected By Haruhiko Ohno
