今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、NPO法人シアターネットワークえひめ理事の鈴木美恵子さん。全国の小劇場業界では知られた存在の「シアターねこ」を運営されている鈴木さんに、業界の舞台裏やライブの魅力を伺うとともに、精神障害を持つ方々の支援を通して感じる文化芸術の可能性など、物理的な空間の小ささにとどまらない広がりのあるお話を聞かせて頂きました。


佐伯)さて鈴木さん、先ほど演劇は社会・時代を映している、人間を描いてるから面白いっていうお話ありましたけれども、長年演劇の世界に身を置いている鈴木さんにとっての演劇の魅力っていうのはどういうところにありますか?

鈴木)まあ演劇っていうのは人間が作る、まあ宇宙に行けばわかんないですけど(笑)、人間が主体になるってことですよね。人ほど面白いものはないですよね。それぞれいわゆる個性があるし、ここ近年ずっと言われてる多様性っていうところで、違いを認め合う関係ということもありますよね。そういう中から人間が透けて見えてくるっていうか、人間の有り様だったり、この人はこういう性格なのねっていう風なこととは違って、それぞれの生きる、生き方の面白さっていうか、そういうことに一番関心がありますね。

佐伯)ああ、そうですか。やっぱり一番面白いのは人間ですか。

鈴木)だと思いますね(笑)。言語を共有してない猫とか犬とかも私は大好きなんですけど、でも人間て理解しやすいですし…しようと思えばですよね。理解しても受け入れないわっていう場合もあるとは思うんですけど、それはそれで「なぜ受け入れられないのか」って言うような自問自答をしますので、それはそれで面白いなと思いますね。

佐伯)でもその人間の面白さを表現する一つが演劇、舞台であって、でも一方で映画があったりとか、もちろん小説や音楽でもそのように人間を描くっていうことはあると思うんですが、これ舞台ならではのっていう事ってあります?

鈴木)ありますね。映像はスクリーンの中でしか見ないですから。生のライブ感ですよね、それはやっぱり演劇のものですよね。で、よくまぁ演劇も面白くね、いろんな4Kとか8Kの技術があって、そういう中で非常にリアルで立体的に見えるって事の楽しさってのはもちろんあるんですけど、やっぱり生でライブで…音楽でもそうですよね、CD化されたシンフォニーを聞くよりはライブのシンフォニーを聞く方が何かたっぷり感があるし(笑)、ドキドキしますよね。そういうものがライブにはあると思ってるんです。

佐伯)生の迫力!

鈴木)スポーツでもそうですよね、野球にしたって生で見た方が絶対面白いですもんね。

佐伯)あー

鈴木)遠目にはなっちゃうんですけど野球なんかになると、それでもあの筋肉の躍動感とかそういうの見るのも面白いですし、人間ってすごいなあと思うし。だからそれはまた映像とはちょっと感覚が…違う感覚だろうと思うんですよね。その面白さは捨てたくないなーって。だから落語にしたって、ライブでそこの場に居合わせて、時間と場所を、空間を共有してしかできないもの。だから、そういう楽しさがやっぱりありますね。

佐伯)よく言われるのが、そのお芝居も生の場合ですよ、「観客と一緒に創る、舞台は!」って

鈴木)そうです、そうです

佐伯)っていう風に言うじゃないですか。だから日によって、月曜日のお客さんはこのシーンでものすごくウケたけど、火曜日のお客さんはそうでもないとか。

鈴木)あります、あります。なんで!?みたいなことありますよ(笑)。作ってる側は「なんで!?」って思うと思うんですけど。だから、そこのお客さんが、やっぱり多様な観客がいる舞台がいい舞台になるってよく言われるんですよね。あの古い話なんですけど、ピーター・ブルックっていう演出家がいらっしゃるんですけど、その人が「いい客席っていうのは、いろんな職業の方、いろんな年齢が幅がある、そういうお客さんがいっぱいいる会場が一番いい芝居ができる」っていうふうにおっしゃってるんですよね。

佐伯)はいはいはい。

鈴木)確かにそうなんですよね。若い人向けとか子供向けとかよくやるんですけど、子供だから大人の芝居は分からないと決めつけないほうがいいなと思ってはいますね。子供なりのキャッチする力っていうのは多分ありますので、そういう中でその子供なり…まあ極端に言えば3歳児から100歳の人がいて、100歳の人から見れば「こんな人生なんてね」みたいに言っちゃうかもしれないけど(笑)、3歳児にしてはもう目を輝かせると思うんですよ。それが舞台の人たちに影響を与える、そこがやってる人の楽しさじゃないかなとも思うんですよね。そういう面白さっていうのはライブですね。ロックにしたって、音楽にしたって、やっぱり生でバンバンやって汗が飛び散ってくるみたいなほうが高揚感がありますよね。ついつい腕を振りたくなるとか、そういう局面は出てきますよね。でも映像で…まぁ昔はあったような気がするんですけど、映画を見て声をかけるとかってね、昔はあったんですけど(笑)

佐伯)え~、そうなんですか!

鈴木)ありますよ、「それ今だ、いけー!」とかね(笑)。そういうことはあるんですけど、最近はそういうのはないですけど、さすがにね。でもやっぱりそういうことがライブではついやりたくなる。

佐伯)はい。

鈴木)そこはやっぱりワクワクする空間だろうなっていうふうに思ってますね。

佐伯)そこで舞台上と客席と、何と言うか感性の交換みたいなことが為されてるわけですね。

鈴木)そうそう。やってる方は「ここで笑うよな」と思ってても、「・・・」として笑わない客席だとガックリ来るけど

佐伯)ガックリ(笑)

鈴木)やってる方は多分ね、でも「これちょっとどうやって立て直す?」っていうね

佐伯)はいはい

鈴木)そっちに切り替わるわけですよね。そういう交換の楽しさっていうかね、それはやっぱりライブですね。

佐伯)そうかぁ。

   


[ Playlist ]
Bibio – C’est La Vie
The Beatles – Yellow Submarine
Nick Drake – Place To Be

Selected By Haruhiko Ohno


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