今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、劇団P.S.みそ汁定食主宰の桝形浩人さん。今月3日から公開中の映画「身近き、短き、家族かな」の原作を手掛けられ、映画の主演もつとめられています。もともとは舞台作品だった物語が、どのようにして映画化へ繋がったのか、舞台やテレビドラマとの違い等について、まっすんが熱く語ってくれました。


 

佐伯)そもそも舞台だったものを映画化に、というきっかけは何だったんですか?

桝形)きっかけは、コロナ禍だったんで舞台を上演する機会っていうのがもうほぼなくなってしまう、これは全国的にそうなんですけどね、ライブなんで。

佐伯)そうでしたね。

桝形)で、そうなりますと舞台を続けてきた劇団としてというよりも、それに携わってきたスタッフもそうですし俳優もそうですし、発表の場を失ってしまうと日常生活に…なんだろうな、足を絡め取られるというか、もう次は二度とそういう表現が出来ないと僕は思ってしまった。で、これ出来ることは何だろうということで色々と相談をさせて頂いて、そして周りがきっかけを頂いて、文化庁の「ARTS for the future」っていう助成金をいただくことになるんですね。でもそう簡単には、今まで映画の制作実績が無ければ難しいよということだったんですけど、今回スタッフにも恵まれたことがあって認められて、映画を作ったことがあるスタッフの力も借りてということなんですけど、今回の完成に至ったという流れです。

佐伯)映画の経験のあるスタッフっていうのは、どのようにして集めたんですか?

桝形)これはもう「岩城組」じゃないですかね。岩城一平さんという方は愛媛出身ではあるんですけども東京でご活躍をされてて、で映像制作をされてたんですけど、映画の例えばラインプロデューサーをやってたり、映画の現場っていうのを経験されてるんですね。ただ監督は初なんですよ、今回が。そのプロデューサーとしてやっている中で、その現場現場で例えば撮影技師の中尾さんとかね、録音技師の植田中さんとかいう方と、なんて言うかな、心を通わせていくっていう感じなんですよ。でないと、モノを作れないんですよ。「これだけのお金があるから、じゃ、お願いね」ではなくって。だからものすごく熱い現場にもなっていくんですけど、この二人が「ああ、一平くんがやるんだったら、じゃあ協力しましょう」って参加してくれたことはものすごく大きいですよ。

佐伯)へ~。

桝形)本当に!

佐伯)本当に人と人との純粋な繋がりがあって…

桝形)そうですよ、これは。だから僕最初は…岩城監督にはそういうことで一番最初に相談を持ちかけてこのプロジェクトが動き出すんですけど、テレビの仕事も愛媛でさせて頂いているので、録音にしてもカメラマンにしてもこちらで調達ができると思って話をしてました。これもね、また独特の世界なんですよね。

佐伯)映画が?

桝形)カメラマンと言わない。たとえば撮影技師、何が違うのかっていう話から始まり、録音技師の方もそうでね。最終的にいろんな音を当然…だから映画ってどういう音でいうとリアリティなのかって言うと、あの距離を出すでしょ、音に。

佐伯)はいはい。

桝形)あれをいっぱい録って、これをまた整音して、また組み合わせてミックスダウンして、やっとその映像にくっつけていくわけですよね。だから役者も何回も同じ事をシーンでするとしても、録音だけで言うと全部でいくつ…。まずマイクを仕込んでいる、俳優陣たちに。そして、まあ家族団らんでちょっと晩酌みたいなシーンがあるんですけど、その机の下に仕込んでいる。さらに、もちろんカメラの見えないところで、あの長い棒の先にね。

佐伯)ガンマイク。

桝形)それを持っている人がいる。全部で4人出てるから、全部で何波ですかっていう。

佐伯)はいはいはい。

桝形)1、2、3、4、5、6、7つ波形ができるわけですよね。さらに、それだけじゃダメなんで、別で録ってるやつを組み合わせて行ったりするような作業になるんです、1シーンがですよね。カメラもこれと同じくで。でも録音部の人は撮影部とうまくいかないんですよね、取り合いになるから。録音部はもっといい音を録らないかんし、このセリフの時は絶対逃せないっていうのがあるけど、撮影部は今そこが映ってると言うんじゃなくて照明も仕込みますからね、1シーン1シーン。僕が一番驚いたのは「空気が動く」って言うことで怒られてましたね。映ってないんですけどね。

佐伯)空気が動く?

桝形)空気が動くって言ってましたよ。「なんやろう?」と思って。

佐伯)本当に独特。桝形さんはテレビのドラマの撮影を何回もされてますけど、全然違うんですね。

桝形)なんかねえ、あの~短期決戦であり、割と好きなことをさせてもらっているというところはあるじゃないですか、やっぱりちょっとテレビと映画っていうのはね、違うところがあって。だからね、そのぶん余計にその温度が高いんですよね。なんかちょっと言い方変えると、言い合う喜びみたいなことを現場で試してる感じがします、わざわざ。僕が感動したのは、もともとこの話、出てくる登場人物も含め自分の頭の中での架空の人たちじゃないですか。その架空の人たちに対して、いい大人が言い合いするんですよ。「それは違う!」みたいな、「いや、こうだ!」みたいな。「やってりゃいいんだよ!」みたいな。岩城監督がすごいのは、この中尾正人さんという撮影技師の人はベテランで、もう60も超えてて色んな映画の現場を知ってる人なんですね。で、これね、怒られることを知ってちゃんと呼べるのが勇気あるなと思った。

佐伯)岩城監督が、その中尾さんに絶対怒られるの分かってるけどお願いする…。

桝形)監督がスタッフに対して大きな声を出すっていうのは、ちょっと想像しやすいじゃないですか。それでも今の時代ってちょっとうるさいかもしれんけど、これ真逆なんですよ。スタッフの方がめちゃくちゃ大きい声で監督を怒るんです。

佐伯)わ、そうなんですか!?

桝形)これは面白かったですよ。

佐伯)なんかその現場をまた映画で見てみたいですけどね(笑)

桝形)ね。だからメイキングってそういうことなんだなと思いました、すっごい面白かったですね。

   


[ Playlist ]
Fernanda Porto ‐ Auto-Retrato
Povo ‐ In the Morning Featuring Saidah Baba Talibah
Phoenix ‐ Holdin’ On Together
宇佐元恭一 ‐ シアワセトハ Vocal&Piano

Selected By Haruhiko Ohno


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