ゲスト:公益財団法人 常盤同郷会 理事長 山崎薫さん

今週、坂の上に訪ねて来てくださったのは、公益財団法人 常盤同郷会 理事長の山崎薫さん。「坂の上の雲」を書くにあたり、司馬遼太郎さんが取材に訪れたのは…。


 

佐伯)きょうはスタジオに、随分付箋がたくさんついている古い本をお持ちいただいているんですけれども、これは?

山崎)これはですね、秋山好古さんのことを最初に書かれた伝記です。昭和11年、好古さんが亡くなって7回忌の年に、松山の有志たちが「秋山兄弟の生家が朽ち果てそうなのを残さないかん」と言われた。一つはこの伝記、それと好古さんの道後公園の騎馬像、あと空襲で燃える前の生家の修理公開ですね。その三つのうちの一つが、この秋山好古伝です。これを書いた中心人物が桜井真清(ますみ)さんと言いまして、秋山兄弟生誕地は歩行町にあるんですけど、その歩行町の近所、歩いても1分ぐらいのとこに住んでいた。

佐伯)本当にご近所(笑)

山崎)その桜井さん、下級武士なんですけど、家が火薬の係だったんですね。「坂の上の雲」にも書かれてますが、桜井さんや真之さんや友達たちが火薬でうまいこと調合して花火を作って、実際は持田のごぼう畑でパーンとやったんですけども、ドラマでは絵になるから“城山”でやってますよね(笑)。その辺りが違うだけで、実際に花火作ってやった後、お母さんに怒られた。「私もこれで死ぬから、あんたもお死に」と言うてですね。

佐伯)「お死に」というね、伊予弁で(笑)

山崎)そんなことお母さんに言われるなんて、よっぽど真之さんは、もう本当に喧嘩っ早いし言うこと聞かん、大変やったわけですね。近所の4歳下の桜井さんは真之さんを尊敬してたので、そういうエピソードも全部聞いていた。「あんなにお母さんに怒られたが」とかですね。それから真之さんが海軍兵学校に進路変更して明治19年に変わった時にですね、ちょうど桜井さんが松山中学を卒業した時だった。「自分も海軍兵学校に行きたい」と。

佐伯)真之さんが行くならば?

山崎)真之さんを尊敬してましたのでね。それで(海軍兵学校に)行ったので、松山時代のことも全部知っている、軍人時代のこともよく知っている。だから素晴らしい人間伝が、この「秋山好古伝」「真之伝」なんですね。他の方ももちろん、水野広徳さんも関わっておられるけれども、中心は桜井真清さんなんですね。だからもう松山時代の「坂の上の雲」のエピソード、ドラマにもなっていることは、大雑把な言い方ですけど9割以上は事実という。一部、さっきの“城山”みたいな脚色もありますけど、本になるとほとんど本当です。ほとんどというのも失礼かもしれない、事実ですよね。

佐伯)そうですか!

山崎)事実でないことは司馬さんは書かれなくて。「坂の上の雲」を読んだ方は皆さんご存知のように、好古さんがお風呂屋さんでバイトをしてた。お父さんが「食わすだけは食わすけん、あとは自分らで何とかおしや」と。3日働いたら本が一冊買える。それで明治5年、福沢諭吉の「学問のすすめ」を、12歳の時に買ったんですよね。
お風呂を炊く場面は「坂の上の雲」に出てきますけど、その薪もですね、好古さんが家から一時間半から2時間かかる湯山(湯山小学校の校区)まで歩いて取りに行っていた。それがちゃんと横谷という所だとわかっていたんですね。そしたら、ある小学校の校長先生から聞いたんですけども、その校長先生の旦那のおじいさんが昭和40年ごろ湯山地区の横谷の辺りに住んでいて、そこに司馬遼太郎さんが来たんですと。「昔ここで秋山信三郎好古という少年が薪を切りに来よったんだけど、それを見たとか聞いたとか、そういう話を知ってる人いないでしょうか」って、司馬さんが来たというんです。例えばそのようなことですね。
でも結局は(知っている人は)いなかったんです。いなかったけど、実際そのぐらい司馬さんは、本に書かれたことでもそうやって確かめておられた。記録にはないですけど秋山兄弟生誕地へ、皆さんの努力で平成17年に復元公開する前でも、きっとおいでてると思います。そして昭和11年生まれのこの本と一緒に作られた秋山両将の遺邸之碑ですね。生家にも空襲を乗り越えてある遺邸之碑、あの文章をきっと読まれただろうと。根拠はその湯山まで、そうやって司馬さんは聞きに行って確かめて書かれよったということですね。

 


[ Playlist ]
Badly Drawn Boy – The Time of Times
Fairground Attraction – The Moon Is Mine
Erin Bode – Wise Man
Feist – Gatekeeper
Jamiroquai – Stillness In Time
Hanna Elmqvist – Little Animal

Selected By Haruhiko Ohno