クリスマスのこの日、坂の上に訪ねて来て下さったのは、野間仁根バラのミュージアム職員の渡部智香さん。この時期は一年で最も赤いバラが売れるシーズンだそうですが、野間仁根の作品にも赤いバラが多数登場します。鮮やかな色彩の作品が印象的な大島出身の画家・野間仁根の魅力についてたっぷり語っていただきました。
佐伯)野間仁根バラのミュージアムで現在開催されている展覧会について教えていただきます。
渡部)令和4年の1月10日まで開催していまして、「野間仁根素描展」という題で開催しています。
佐伯)素描というのがスケッチのようなものですかね。
渡部)はい、そうですね。大島沖の瀬戸内海の風景や第二の故郷と言った千葉県の外房の風景をデッサンした作品になります。8点展示しています。
佐伯)結構大きいものもあるんですか?
渡部)これに関しては大きいものがうちにはあまりないんですけど。素描って普通は色が付いてないと思うんですけど、仁根さんの素描に関しては、色鉛筆で色が少しつけられてたりして。
佐伯)そうなんですか、面白い!
渡部)で、油絵にする時に「ここは何色」とか「ここは何色」という風にメモがしてあったりするんです。
佐伯)へ~。それはなかなか他にないものですよね?
渡部)そうですよね、はい。
佐伯)その、さっきおっしゃった色鉛筆で描いていたりとか、ゆくゆくこの色にしようってメモがあったりですとか、その素描っていうのは設計図みたいな形のものだったということなんですかね。そこにはどんな思いが込められてると思いますか?
渡部)素描に関してはエピソードがあるんですけど、東京の日暮里の近くに住んでたことがあるそうなんですね。その日暮里の近くの日暮里駅の改修工事が大規模に行われている時期に、住んでたところからその工事現場が一望できたそうなんです。その風景を眺めているうちに気がついたことがあったらしく、工事現場の監督さんが図面を見ながら施工状況を点検していたみたいで、図面の通りにそれができているかっていうのを点検しているのを見て、「ああ、これだ!」っていう風にひらめいたらしく、「設計図みたいな下絵を描いて、それを元に油絵にして行けばいいんだ」っていう風にその時気が付いたっていうのを、息子さん…もうお亡くなりになってるんですけど御長男の傳治さんが残してくださってます。
佐伯)そうなんですね!じゃあ私がさっきお話を聞いて「設計図みたいな感じ」と言ったのは、まさにそうだったんですね(笑)。なんとなく芸術家の方って感性でやるから、設計図って割とそれとまた違う方向のものなのかなと思うんですが、野間仁根の場合はそうではなく一つの設計図として素描を残していたという…
渡部)そうですね、その時にひらめいてからは、そうしてたみたいです。
佐伯)だけど設計図って言うとすごく…なんて言うんですか計算ずくみたいなものを思いますが、それに反して野間仁根の作品っていうのはすごくデザイン性が高いと言うか芸術性にあふれる作品に仕上がって行くんですね。
渡部)そうですよね。二科展で新人賞とも言える樗牛賞を獲った作品で「夜の床」っていう作品がありまして、その作品はまさしく一番最初に設計図的な下書きからその作品を生み出したっていう。その絵を書くまでは「早描きの野間」って言われるぐらい、設計図なんかなくサラサラと描いていたのに、その出来事があってから1年間かけてその「夜の床」を仕上げたらしいです。
佐伯)え~。
渡部)そしたらそれが樗牛賞を受賞する絵になったという…。
佐伯)じゃ、ご本人も素描を大切にして作品を仕上げるっていう事への手応えもきっと感じられたでしょうね。
渡部)そうですよね。
佐伯)その大切な素描の作品を見ることができるという企画展、1月10日までですね。
[ Playlist ]
Paul McCartney – Wonderful Christmastime
Kurt Elling – Cool Yule
Amiel – Lovesong
Tracey Thorn – Like a Snowman
Selected By Haruhiko Ohno