今週、坂の上に訪ねて来て下さったのは、伊予史談会の会長、山内譲さんです。山内さんは、元松山大学教授で、「中世の瀬戸内海地域史」が専門。山内さんの著書「瀬戸内の海賊」の改訂版の帯には、小説家・和田竜さんが「この本に出会わなかったら『村上海賊の娘』は誕生しませんでした」と書かれています!(山内さんは「村上海賊の娘」の歴史考証アドバイザーをつとめられています。)そんな山内さんに今回は、河野水軍で知られる河野氏一族の中から「河野通有」のドラマチックな生涯について伺いました。


 

佐伯)歴史上どうやって名前を残していくんでしょうか?

山内)河野通有はは蒙古襲来の時に頑張るんですね。一族は承久の乱後、没落をしましたので「これがお家再興のチャンス!」というようなことで、頑張って出かけていくわけですね。

佐伯)じゃあ通有にとっては名誉挽回の戦いが蒙古=モンゴルの襲来?

山内)そうですね。ですから、これは後世の話ですから本当かどうか分かりませんけど、蒙古と戦いに出かけて行く時に、大山祇神社でですね…

佐伯)大三島の?

山内)はい、そこへ行って神様に戦勝祈願をして出かけていったと。当時の戦勝祈願の仕方というのは作法がありましてね。お願いをする事柄を紙に書きまして、それを燃やすんですね。その灰をお酒とか水とかに溶かしまして、それを飲むというのが戦勝祈願の作法なんですよ。

佐伯)灰を飲むんですか!?

山内)ええ。そういう風にして出かけて行ったという風に記録には書いてますね。

佐伯)うわぁ、これ特別な儀式でしょうから親分がそういう風に振舞っているのを見ると家臣たちもぐっと気が引き締まるというか…

山内)そういうことですね。

佐伯)それは大山祇神社に記録として残っているんですか?

山内)そうですね、大山祇神社の記録だったか河野氏の記録だったか、ちょっと忘れましたけど…ま、後世の記録ですけどね。

佐伯)そういうところで大山祇神社との縁があるわけですね。

山内)そうですね。大山祇神社には鎧を掛けた楠とか武具甲冑とか、色んな通有に関するものが残ってますよね。

佐伯)なるほど。そのモンゴル=蒙古襲来ですけれども、どんな戦いだったんでしょうか?

山内)蒙古襲来というのは2回ありまして、聞かれたことがあるかも分かりませんけど「文永の役」というのと「弘安の役」というのがあるんですね。通有が出かけて行ったのは、その「弘安の役」の方で、後の方なんです。記録を見てみますと、北九州で通有は「後築地(うしろついじ)」を作ったっていうようなことを書いてるんですね。

佐伯)「後築地」、これは?

山内)築地というのは敵を、蒙古人を防ぐための防塁、石塁ですね。普通であったら、その石塁の後ろ側に待機して敵を迎え撃つだけですけど…

佐伯)そのための防塁、石を積み上げた…

山内)そういうためのものなんですけど、通有はその前に出て、つまり海側ですよね、前へ出て敵を待ち受けたと。そういう豪胆な人物であるという風に記録には書かれてますね。

佐伯)だから、「後築地」!

山内)そうなんですね。

佐伯)でも、それってちょっと無謀にも思えますけど…

山内)そうですね。ですから、まあかなり無理をしてるんですね。戦い方なんかも、記録を見てますと沖合には蒙古軍の船がいっぱいいるわけですけど、そこへ小舟を二艘で乗りかけて行って、モンゴル人相手に暴れまわったと。で、自分も大怪我をして引き上げてきたって言うような。でも敵の大将を取ったと書いてあったかな。とにかく頑張るんですね。

佐伯)これ映画だったら本当にクライマックスの場面ですよね!

山内)そうです、そうです。で、頑張った甲斐があって、恩賞として色んなところに領地をもらう。特に九州の佐賀県に領地をもらってますね。

佐伯)そういう、ちょっと離れた場所の領地もいただくっていうことがあるんですね。

山内)そうですね、蒙古襲来の時に戦った日本の武士たちは九州で領地をたくさんもらってるんですけど、そのうちの一つを通有も貰ったということですね。

佐伯)さっき伺った「灰を飲んだ」甲斐があったと言いましょうか(笑)

山内)神様のお陰があったかもしれませんね(笑)。

佐伯)でも、その一見無謀とも思える戦いに勝利したことで、通有がそれまで没落気味だったお家を立て直すという願いは果たせたということですか。

山内)そうですね、そういうふうにして領地ももらいましたので、一応その河野氏の再興と言いますか、「承久の乱」で没落していた河野氏を中興したと、再生させたと言えると思いますね。

   


[ Playlist ]
Nicki Parrott – There’s A Kind Of Hush
Minnie Riperton – Perfect Angel
Saint Etienne – Nothing Can Stop Us
Sophie Milman – That Is Love
Aztec Camera – Orchid Girl
Maylee Todd & Circle Research – Hooked

Selected By Haruhiko Ohno


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