今週、坂の上に訪ねてきてくださったのは、四国カブトガニを守る会の会長で東予郷土館の館長でもいらっしゃる篠原栄次さん。絶滅危惧種に指定され「生きている化石」とも呼ばれるカブトガニですが、篠原さんが子どものころには地元である旧東予市(現在の西条市)の海岸で当たり前に見られる生物だったそうです。篠原さんの祖父・栄吉さんがカブトガニの生態研究を始め、父の伴次さんが「東予市(現在は四国)カブトガニを守る会」を結成、そして栄次さんと三代つづけてカブトガニに関わり続ける篠原さんに、「実は面白い!カブトガニのヒミツ」と題して、「なぜ絶滅を免れたのか」「人間の命を守るカブトガニ」「カブトガニが棲む海を未来に」という3つのキーワードでお話を伺いました。
※番組のトーク部分を、ラジコなどのポッドキャストでお楽しみいただけるようになりました!ぜひお聞きください。
佐伯)では、二つ目のキーワード「人間の命を守るカブトガニ」ということなんですが、これどういうことですか。
篠原)実はカブトガニの血液が人間の命を守ることに繋がっています。
佐伯)カブトガニの血液?
篠原)はい。カブトガニの血液っていうのは非常に特殊な成分を含んでいまして、ちょっと難しい言葉で「エンドトキシン」っていう、日本では「内毒素」っていう非常に猛毒が、この自然界にはあるんですが、その猛毒が医療器具とかですね、医薬品にちょっとでも含まれていると大変なことになります。それが入っているか入ってないかっていう検査する試薬を作るためにカブトガニの血液の成分を用いているわけです。
佐伯)え?どういうことですか。
篠原)カブトガニの血液の中には、外から入ってきたエンドトキシンっていう内毒素ですよね、その猛毒をゲル状に固めてですね、包囲するっていうような働きの血球を持っていますので、その性質を用いて、リムルス試薬っていうんですが、そのカブトガニの血液からできた、毒素を検査するリムルス試薬を今作っているわけです。
佐伯)へえ~!それは自然にカブトガニの血液に備わっている能力?
篠原)そうです、はい。
佐伯)そんなすごい血なんですね!
篠原)だから、その「すごい血」を持ってるから2億年もの間ですね、姿形を変えずに生きられた要因にもなってるんじゃないかなっていうふうに考えますよね、それは。
佐伯)その血は、さっきおっしゃった内毒素っていう猛毒を検知して固めちゃう。
篠原)そうですはい。
佐伯)じゃあ医薬品とか医療器具なんかに付いててそれが反応したら「これはちょっといかんぞ」っていうのがわかる。
篠原)はい。このカブトガニの血液からの検査薬ですよね、リムルス試薬ができる前はですね、どんなふうにしてそれを検査していたかというと、医薬品だったらウサギに注射するわけですよ。ウサギに注射して48時間=2日間待って、ウサギが発熱するかどうかというのを待って、それを調べていたそうなんですよ。ですから、このリムルス試薬ができたことによって、もう数分で今は検知することができるようになりました。その感度ですよね、それっていうのがもうピコグラム、と言って自分もちょっと想像がつかない1兆分の1グラム単位で反応するっていうふうな。
佐伯)本当にわずかでも反応するんですね。
篠原)ええ。それはカブトガニの血液でしかそういう反応はできないので。
佐伯)そうですか。実際にそのカブトガニの血液から、さっきおっしゃったリムルス試薬、その試薬が作られているということなんですね。
篠原)そうです。これは世界シェア100%ですので、カブトガニがいなくなったら大変なことになるんですよね。
佐伯)確かに!でもカブトガニの血液ってどんなふうにして集めるんですか?
篠原)カブトガニの血液を採るっていうと、カブトガニも保護しましょうっていうのに相反するんじゃないか思われがちなんですが・・・
佐伯)そうそう。
篠原)実はこのカブトガニの血液っていうのは、アメリカカブトガニっていうですね、アメリカにいるカブトガニから採取した血液を使っているわけです。アメリカにはまだまだたくさんの何十万というカブトガニがですね、以前の日本みたいに海岸いっぱいになって産卵期には押し寄せるような数がいます。
佐伯)そうなんですか!
篠原)そのカブトガニから採血するんですが、全部採るとですね、カブトガニは死んでしまいますので3分の1ぐらいもらって、そしてあとは海へ帰してやるっていうふうなことをしています。
佐伯)なんか私たち人間の献血みたいなイメージですかね?
篠原)そうですね。
佐伯)まあ(人間は)3分の1もは献血しないけど、でもカブトガニは3分の1採っても、(海に)戻せばまた回復するんですね?
篠原)というふうに実は言われてたんですが、近年の研究ではですね、そのうちのまた3分の1はやっぱり死んでしまう。ということは、1回献血によって3分の1ずつ減っていくと、だんだんだんだんとその数は今減っているんですよ。
佐伯)アメリカでも。じゃあ、この辺りがちょっと課題ですね
篠原)そうですね。だからアメリカでもそういう保護をしないとっていう機運が徐々に高まっているそうです。
[ Playlist ]
Sharon Jones & The Dap Kings – Better Things
Maria Muldaur – Midnight At The Oasis
Melissa Manchester – Bad Weather
Selected By Haruhiko Ohno