ゲスト:NPO法人まつやま山頭火倶楽部 理事長 藤岡照房さん

今週、坂の上に訪ねて来てくださったのは、NPO法人まつやま山頭火倶楽部 理事長の藤岡照房さん。なんと藤岡さんの幼い頃、種田山頭火が家にちょくちょく訪ねて来ていたというんです!そんな藤岡さんだからこそお持ちのお宝(?)を披露してくださいました。そこからは、放浪の俳人として知られる山頭火の人柄や、それを受け止めた松山人の気風が読み取れます。


 

佐伯)山頭火は松山に来て、のんびり過ごそうと思ってたんですかね?

藤岡)おそらくね、松山の風土ですから俳句をね、極めようと。自分の俳句をね、もうちょっと極めていこうという意思はあったと思います。ただ生活の基盤がないですよね。まあ息子の健っていうのがいるんですけれども、その子が満州の炭鉱にいたんですよ。そこからの仕送りが10円から15円ぐらいあったんですね。それが唯一の収入源。だけどそれだけではね、生活できない、というところに山頭火の悩みがあるわけ。お酒は好きだしね。

佐伯)じゃあ、どうして生活してたんでしょう?

藤岡)まあ色々ね、分かってくるんですけれども、お米がなくなると我が家へもね、お米をね、ちょっとと言うような感じで。

佐伯)藤岡家に!?

藤岡)はい、来ますし。高橋一洵(俳人)の家にもね、しょっちゅう行ってるし。それとあのもう一人、銀行員で村瀬汀火骨(俳人)っていう人がいるんですがね。村瀬さんは銀行員、奥さんが女学校の先生だったんです。ですから非常に収入は豊かだったんでしょうね。まあそういうところにもかなり迷惑をかけたんじゃないでしょうかね。

佐伯)今日は実は大変貴重なものをお持ちいただいているということなんですが…手書きのメモの写しですけれども。何て書いてるんですかね?「拾」という漢字が見えます。

藤岡)15円40銭。

佐伯)15円40銭?

藤岡)右、まさに受取り申し候。これは「月のや」っていう旅館なんですが…

佐伯)藤岡様って書いてますよ?

藤岡)あの、親父が払ったということで…

佐伯)え、領収書ですか?

藤岡)ええ、そうです。

佐伯)じゃあ、藤岡さんのお父さんが山頭火のお酒代を払ってあげたっていう領収書ですか?

藤岡)まあそういうことですね。

佐伯)なんと、まあ!しかも、15円?先ほど、山頭火の息子さんからの仕送りが10円から15円って…じゃあ仕送り分ぐらいで立て替えたというか奢ったというか。

藤岡)これがね、一つの証拠でしょうね、山頭火の生活ぶりのね。

佐伯)はぁ~、そんなに、割とお酒も浴びるほど飲んでたって感じなんでしょうかね。

藤岡)記録によりますとね、1日に一升飲んでた。

佐伯)えーっ!

藤岡)我が家で。

佐伯)えーっ!!

藤岡)これは証拠があるんです。朝二合、昼三合、夜五合という。

佐伯)ちょっと待ってください、朝昼晩…。

藤岡)お風呂は近いしね。

佐伯)道後ってことですか(笑)いやぁ、だけどですね、当時の、藤岡さんのお父さんがといいましょうか、友人の皆さんがといいましょうか、松山の方はどうしてそんなに山頭火に優しく接してあげたんですか?

藤岡)あのね…ちょっと話変わるけれども、山頭火はね、お世話になる人の収入、いわゆる月給を「お前の月給当ててやろうか」と言ってね、そして言った金額と(月給が)ほぼ一致したという…

佐伯)なんですか、その特殊能力は!?

藤岡)ということは、その範囲で迷惑をかけるんだと。その範囲で迷惑かけてもいいんだと。

佐伯)いやいやいや(笑)

藤岡)そういう風なノリがあったのかな。

佐伯)そうなんですか!何かいいのか悪いのか分からなくなってきましたけれども(笑)。だけどそれくらい、当時の松山の人っていうのは鷹揚なところがあったんですかね。

藤岡)まあねぇ、そういう人を受け入れるような好奇心があったんかな。それと、山頭火の場合は俳句のいわゆる“巨人”ですよね。そこから学ぼうとする姿。それとやっぱり一番大切なのは山頭火の心情と言いますかね、山頭火の心。いわゆる子どものときに身についた優しさ、そういうものに惹かれたんじゃないでしょうかね。僕などはやっぱり(当時)子供ですからね、大人の“拒絶”ってわかりますよね。表面的に繕っても冷たい人には寄っていかない。山頭火の場合は…僕は今でも人見知りするんだけれども…、山頭火の場合はすぐ懐いたって言いますからね。そういうのが心にあったんでしょうね。

佐伯)魅力が。

藤岡)魅力がね。人間的な魅力でしょうかね、そういうものがあったと。僕はそういう風に想像してるんですがね。

 

 


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Selected By Haruhiko Ohno


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