今週は、「坂の上の雲ミュージアム」からの生放送。反骨の軍人・水野広徳の78回忌法要が行われるのに合わせて、公開シンポジウムを開催しました!ゲストは愛媛人物博物館学芸員の冨吉将平さん。水野を始め、幅広い分野で近代日本の礎を築いた人物を輩出した「旧制松山中学」にスポットを当ててお送りしました。文芸界から実業界、医学、美術、教育界などなどで活躍した松中卒の偉人は枚挙にいとまがありません。後に海軍大佐にまで上り詰める水野は、そんな松中に好成績で入学。さぞ優秀な学生だったのかと思いきや、冨吉さんからは水野の意外なエピソードが飛び出して…。水野の菩提寺である蓮福寺の山岡宏住職や水野の顕彰活動を続けるNPO法人アイムえひめの菅紀子理事長にもご出演頂き、花を添えて頂きました。


佐伯)子供の頃から苦労されていて、「中学校にはもう行けないんだな、僕は…」と思っていたところ、思いがけず行けるようになったということは入学後は勉学に励んだということですか?

冨吉)えーっとですね、はいって言えればいいんですけれども、なかなか言いづらい。

佐伯)お!?

冨吉)かなりのわんぱく坊主!

佐伯)そうなんですね(笑)

冨吉)だったんですけども、入学自体はですね、当時尋常小学校を卒業したら2年生に編入が可能でしたので、松山中学校の2年生に編入をするんですけども、これがですね、意外と好成績だった。何位とかは書いてないんですけれども、とにかく好成績で編入をしたと。ただ当時の水野自身は中学校のことをどういう風に思ってたかっていうと、「上級の学校へ行く苦しみもなく、卒業後の就職難もなく」…まあ当時中学校まで行ったらすんなりどこにでも就職できるよって時代だったそうですので、なので「学校はただ遊びに行くところ、暴れに行くところぐらいに考えていたのである」と。

佐伯)暴れに行くところ!

冨吉)って自分の著作に書いてるんですね。

佐伯)え~、じゃあどんな学生時代だったんですか?

冨吉)まぁ実際凄まじかったみたいですね。修学旅行で宇和島に行ったそうなんですけれども、宇和島には当時宇和島中学校っていう旧制中学校があったんですね。「松山の都会から変な奴が来たぞ!」とお互いバチバチするわけです。で大立ち回りの大喧嘩!宿屋の屋根に上がって瓦を投げつける。

佐伯)え~っ!すごい…

冨吉)かなりですよね。で、修学旅行から帰ってくると何やら校長排斥運動が起こっていると。あの校長を辞めさせろと。で、今度はリーダーになるわけなんです。

佐伯)なんと!

冨吉)で、学年一つ上に、また後でご紹介しますけれども高浜虚子が当時いたんですね。で、虚子は自伝の中に、広徳と名は出てないんですけれども「下の級の者がリーダーになってこの排斥運動をやっていた」って事を自伝に書き込んでるんです。それぐらい勇名を轟かせていたと。ま、そういう大変なわんぱくぶりだったんですね。

佐伯)はあ、なんかちょっとイメージが変わりますね。

冨吉)まあこのわんぱくぶりも孤児だった辛さとか、なかなか恵まれない自分の境遇に対する鬱憤晴らしだったのかもしれないんですけども、まあこのあまりのわんぱくぶりに遂に居候していたおじさん宅を「お前ええ加減にしろ」と追い出されてしまいます。

佐伯)追い出されましたか!

冨吉)でどこに行ったかって言うと、松山市内にいたお兄さんのもとに今度居候するわけなんですけども、そうするとおじさん宅の居候の肩身の狭い思いから大解放されてですね、一段とわんぱくぶりに拍車がかかるわけなんですけれども。中学校3年生になった時には、もう海軍兵学校に行こうと思ってた。当時の兵学校っていうのは別に卒業もしなくてもしてなくてもいいと、中学校をね。資格がいらない。必要な教科だけ合格すれば入れると。なので必要がない教科はもうひたすらサボりまくると。

佐伯)あら。

冨吉)で、ますます遅刻欠席、成績は急降下。で何をしてたかって言うと、いらない教科の教科書をですね、売り払っちゃったんです。

佐伯)え!

冨吉)何をするかって、それを小遣いにしてうどん食ったり餅食ったり。

佐伯)やりたい放題ですね(笑)

冨吉)ただ、完全になくなると困るので教科書をですね、高そうな教科書から選んでですよ、筆写していくわけなんです。写すわけなんですね。で、筆写が終わったやつから売って小遣いにすると。

佐伯)なんか悪知恵が働くというか、賢いのかそうでないのかわかんないですけど(笑)

冨吉)そうなんですよね。で、こういうズボラなのに点数は良かったんです。というのも筆写したおかげなんですね。

佐伯)それで頭に入ってた!

冨吉)そうなんです、筆写の副産物なわけなんですよね。なので、これを見ると元来やっぱり記憶力が良かったのかなと、頭が良かったのかなという感じだったと思うんですね。で、明治26年、卒業の年なんですけれども、学年で一人だけ、水野だけ落第。卒業ができなかったので、「まあどうせいいや」っていうことで中学校退学して。海軍兵学校は卒業資格は先ほども言いましたが要らなかったので、海軍兵学校を受けるわけなんです。で、この時は不合格。

佐伯)あれ、そうなんですか。

冨吉)駄目だったんですね。「まあまた来年受けりゃいいや」と思ってたところ、受験科目の改正があったんですよ、兵学校の。そしたら今までサボりにサボってた科目がですね、試験科目に入っちゃった!徹底的にサボっていた科目が追加になったので、学び直しをしないといけない。で、なんとかしないといけないんで、「また中学校に入るのに2年年下の連中と一緒になるのは嫌だなあ」と思いつつも入り直して。

佐伯)あ、でも入れたんですね、再入学できたんですね。

冨吉)入り直しを許してもらえたんです。

佐伯)へ~。

冨吉)さすがにこの時は真面目だったそうです。で真面目に勉強して4回目の受験で無事に海軍兵学校に合格と。

佐伯)そうでしたか!じゃ、2回入学してるってことなんですね(笑)

   

 

 


[ Playlist ]
Everything But The Girl – Walking To You
Sophie Milman – That Is Love
Torch – Before The Night Is Over
Madeleine Peyroux – Lonesome Road

Selected By Haruhiko Ohno


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